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1981年秋の東京モーターショーに2台のプロトタイプ車が出展された。いずれも当時話題の沸騰したターボバイクだったが、カワサキのターボ車が各部を大幅刷新して量産されたのに対して、ヤマハ XJ1100ターボは市販には至らなかった。
量産車とは異なる無骨さを持ったカワサキ Z750 turbo 【1981】
洗練されたスタイルで後に登場した量産車とは異なり、武骨な雰囲気の外装が目を引くカワサキのプロトタイプは、1981年の時点では「Z750ターボ」、あるいは単純に「ターボ」と呼ばれていた。
写真から判別できる外装以外の量産車との相違点は、19インチのフロントタイヤ、肉抜きが控えめな3本スポークのキャストホイール、リーディングアクスル式のフロントフォーク、フロントフォークのアウターチューブ後部に設置されたアンチダイブユニット、セミダブルと言うべき形状のシートなど。
また同時代のZ1000J/Z1100GPに通じるデザインの台形メーター、フィンの側面に切削加工が施されていないシリンダーヘッド、Kawasakiのロゴが大きく刻まれたクランクケース左右カバー、4-1式集合マフラーなど。それらに加えて、ターボチャージャーの装着位置や吸排気系パイプの取り回し、オイルクーラーの容量なども量産車と異なっている。
余談だが、自然吸気のGPz750のデビューが1983年、750ターボの発売開始が1984年だったため、世間では750ターボに対して、「GPz750の派生機種」という印象を抱く人がいるらしい。とはいえ、空力へのこだわりを多分に感じるGPzスタイルは、750ターボのプロトタイプが原点で、自然吸気のGPz750(と兄弟車のGPz400/1100)は、750ターボのスタイルを転用したモデルだったのだ。
諸般の事情で市販を断念したヤマハ XJ1100 TURBO 【1981】
ヤマハがXJ650セカターボと同時期に開発していたXJ1100ターボは、並列4気筒クルーザーのXS1100ミッドナイトスペシャルがベース(そのため、XS1100ターボと表記されることもある)。ただし、角型の灯火類やバックミラー、デジタルメーター、クルーザー色を強調したシート+シートカウル、セミエア式リアショックなどは、ベース車とは別物で、燃料タンクの形状も微妙に異なっている。
肝心の過給機に関しては、XJ650セカターボと同じく、ターボユニットをクランクケース下後方/スイングアームピボットのほぼ真下に、サージタンクをシリンダー背面に設置。ただし、XJ650セカターボの吸気がキャブレターだったのに対して、XJ1100ターボは電子制御式インジェクションを選択していた。
そんなXJ1100ターボの最高出力は未公表だったものの、べース車が95psで、当時の他のターボバイクの向上率を参考にするなら、最低でも120psは出ていただろう。もっとも、それはすでに自然吸気でも実現可能な数値だったし、例えば130ps以上を発揮するとなったら、当時のタイヤでは耐久性の確保が難しい。おそらく、そういった事情を考慮して、XJ1100ターボの市販は実現しなかったのだ。なおXJ1100ターボの開発から数年後、1984年にヤマハが発売した全面新設計の並列4気筒車、FJ1100の最高出力は125psだった。
文●中村友彦 写真●カワサキ・ヤマハ 編集●阪本一史
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