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環境的にも天然ゴムをできるだけ有効活用したいから
タイヤというとバイクには欠かせない工業製品です。しかしながらタイヤは農産物ともいえます。なぜなら、その名も「ゴムの木」の樹液から取れる天然ゴムが、タイヤの素材として使われているからです。
もちろん天然ゴムをそのままタイヤのカタチに成形しているわけではなく、天然ゴムと硫黄を混ぜて熱を加えることで「弾性限界」(物体に加えた外力を取り除いたあと、もとに戻らなくなる限界)を上げるという工程は必須です。この工程のことを「加硫法」といいますが、これは19世紀にアメリカで発明された方法です。これによって強くて弾力のあるゴムが作れるようになり、現在のタイヤにつながる技術が発展してきました。
いずれにしても、天然ゴムは今でもタイヤに必須の素材となっています。さらにカーボンニュートラルのトレンドが加速していますから、石油由来の合成ゴムは使いづらくなってきています。天然ゴムをいかに有効活用するかは環境とモビリティの共存からも非常に重要です。
天然ゴムが農産物ということは、いわゆる不作といわれるような状況になる可能性があるということです。さらにゴムの木が樹液を出すようになるには4~7年ほどかかりますから、すぐに増産するということも難しいのです。タイヤのニーズに合わせて天然ゴムを安定確保することは、どのタイヤメーカーも苦心しているポイントといえます。
そんな状況に、一筋の光が差し込んでいます。
住友ゴムが研究「短鎖のトマトの酵素を、天然ゴム酵素のように長鎖化」
「ダンロップ」ブランドなどで知られる住友ゴム工業から『天然ゴムの品種改良につながる実験に成功~自然界にないバイオポリマーを合成~』という発表があったのです。
天然ゴムを合成するには酵素が必須です。特定の天然ゴム合成酵素によって分子が結合され、長鎖構造の天然ゴムが生まれます。
今回、住友ゴム工業が発表した内容は、そうした酵素の働きを解明する上で、天然ゴム合成酵素と似た構造のトマト由来の酵素を分析したことがきっかけとなっています。その理由には、同種の酵素でありながらトマト由来のほうが構造解析しやすいという特徴があるからです。
ただし、トマト由来の酵素は残念ながら短鎖しか合成できません。そこで天然ゴム合成酵素と比較することで、生成物の長さに関わる部位を特定したというのが第一段階となります。
今回の発表は、その発展といえるもの。トマト由来の酵素と天然ゴム合成酵素をハイブリッドした改変酵素を作ることで、自然界には存在しないバイオポリマーを合成することに成功したというのです。
ポイントは2つあります。
新ポリマーでタイヤの性能を高められる可能性も!
ひとつはまったく新しいバイオポリマーを生み出したという点で、この手法を発展させることで、タイヤの素材となるゴムをレベルアップさせ、タイヤという工業製品の機能性を高められる可能性が出てきたという点です。
もうひとつは、トマトという非常に短い期間で収穫できる野菜の酵素をベースに天然ゴムを合成する可能性が出てきたことです。冒頭でも記したようにゴムの木は収穫まで年単位で時間がかかります。そのスパンを短くすることができれば、収益性も上がりますし、需要に応じた供給につなげられることも期待できます。
もっとも現時点では、あくまで実験室レベルの話ですから、すぐさま商品に反映されるという技術ではありません。はたして、トマト由来の酵素から生まれたバイオポリマーを使ったタイヤを履けるようになるのは、いつ頃になるのでしょうか。意義深く、非常に楽しみといえそうです。
レポート●山本晋也 写真●住友ゴム工業/八重洲出版