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「三ない運動」撤廃から3年目、埼玉県の高校生向けバイク講習は新たな段階へ

「三ない運動」の想いを受け継いだ埼玉県の高校生向けバイク講習会

学校および教育委員会、警察、日本二輪車普及安全協会、教習所など埼玉県内各方面の連携・協力によって実施されている「高校生の自動二輪車等の交通安全講習」。写真は2021年度のもの。
埼玉県警からは交通機動隊の白バイ隊員が派遣され、実技・座学とも指導を行っている。

2019年に埼玉県が三ない運動を撤廃し、「乗せて教える」交通安全教育に転換してから3年目の夏を迎えた。
新型コロナウイルス感染拡大が懸念される中ではあったが「これは続けなければならない」と強い意志をもって、7月26日の県南部エリアから「令和3年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習」が始まった。

主催するのは埼玉県教育委員会(以降、県教委)だが、毎回、同じ内容をお役所仕事で回しているわけではない。
年に1回のペースで開催されているモニタリング委員会(高校生の自動二輪車等の交通安全に関する指導検討委員会)での協議や意見、さらには指導員らの現場の判断により、都度、講習内容には細かな改善が続けられてきた。

「PDCA」なんて安い言葉では言い表せないような、大人たちの努力と強い想いが、高校生をバイク事故で死なせたくないという三ない運動の根底にあった想いをポジティブに引き継ぎ、講習会の場で具現化しているのだ。

高校生向けバイク講習の現在地と運営側の狙い

講習会は3年目を迎えているが、その現在地はと言えば、まだまだ歩み始めたばかりだ。
検討委員会開催時のアンケート「埼玉県 高校生の原付・自動二輪車に関する意識調査(2017年)」集計結果にあったように、今の高校生はバイクに興味のない子がほとんどで、実際、2019年4月に三ない運動が撤廃されて以降、免許取得や乗車希望の生徒が急増するようなことはなかった。

それでも、高校生のバイク事故は発生しているし、重傷や死亡に至るケースもある。モニタリング委員会では、県警からの捜査・分析内容を基に、再発防止に関する様々な取り組みを協議して講習内容に反映させているが、最適解が見つかるにはまだまだ時間を要するだろう。

埼玉県内高校生の自転車事故が約800件(年間)であることを考えれば、極端に多い数字ではないかもしれない。ただし、バイク事故の特性として、運転者や同乗者へのダメージが大きいという点は如何ともしがたい。

交通安全協会の安全運転指導員から、実技講習においては県警交通機動隊の白バイ隊員から、ヘルメットのあご紐を確実に締めること、胸部プロテクターやエアーバッグベストといった安全装具を見につけることも話されているが、装着率の向上はこれからの話だ。

運営側は、年に1度しかない講習会の中で、劇的な運転技術の向上を求めているわけではない。
バイクに乗る上で事故に遭わないためには何に気を付けるべきか、何を知っておくべきか、そういう点に重きを置いている。座学においては交通ルールやバイクに乗る上での考え方を学ぶ場、実技においては日々の運転に気づきを得られるような体験の場としている。

例えばコーナリング──「スローインファーストアウト」などといったことではなく、25km/hでは想定通りに曲がれても30km/hでは外側にふくらんでしまう。たった5km/hの差が危険につながる可能性があるという具合だ。

コーナリング……というよりも「ちゃんと曲がれるかどうか」「速度によって曲がる難しさは変わる」というったことを体感してもらう。
一方、スラロームや一本橋などの走行を通じて「二輪車は低速でバランスをとるのが難しい」という点も体感してもらう。

システムや講習内容に大きな改善が見られた

講習会はトライ&エラーを繰り返しながら進化しているが、今年(2021年)は大きな変更点が加えられた。特に注目すべき点は、他機関が開催している講習会の受講でも「高校生の自動二輪車等の交通安全講習」の参加に代えられるようになったことだ。

代替として認められた講習会

  • 日本二輪車普及安全協会が開催する「グッドライダーミーティング」
  • 交通教育センターレンボー埼玉が開催する「二輪車安全運転講習会」
  • セーフティクラブが開催する「二輪車安全運転講習会」
  • 埼玉県交通安全協会が開催する「テクニカルライディングスクール」

埼玉県の高校生講習は県内を5地域6ヵ所に分けて開催している。
生徒は自分の居住エリアの講習会に参加することになるが、当日の体調不良など、どうしても参加できない場合は他地域の講習会に参加するよううながされてきた。

講習会への参加は義務とはなっているが、強制力や罰則はないので、受講率の向上も課題のひとつとなっていた。

今年(2021年)からは、上記4つの講習会でもOKとなったことで受講の機会が広がったことになる。ただし、県教委の負担により無料で受けられる本講習会とは違い、代替講習会の受講料は参加生徒の自己負担となる。

また、まだ免許を持っていない、免許を持っていてもバイクには乗っていない、バイクを所有していないといった生徒も本講習会に参加できるようになった。
実技講習以外の座学や救急救命法を受講でき、バイクの運転に関わる内容や交通ルールなどを学ぶことができる。

さらに、胸部プロテクターの着用推進についても課題とされており、日本二輪車普及安全協会がヒジ・ヒザのプロテクターや胸部プロテクターを実技講習の場に展示し、必要な生徒には貸し出すなどして講習中のケガ防止にも配慮されるようになった。

あわせて、違法マフラーの装着など不適格車両での参加は認めない、半袖・半ズボン・サンダル等での参加も認めないなど、これまでの課題に対応した準備が行われている。
細かな変更点はまだまだあるが、大まかな所はこういった点だ。

講習当日、車両に乗っての参加をしなかった生徒にも座学・救急救命の受講ができるようになった。
プロテクターの貸し出しも行い、講習中のケガ防止はもちろんのこと、プロテクターを体験する機会にもなっている。

埼玉県の取り組みを各地のモデルケースに

埼玉県は1981年(昭和56年)2月に「自動二輪車等による事故・暴走行為等の指導要項」を施行し、三ない運動を公立高校の指導方針に厳しく落とし込んでいた。
しかし、そうして全県で徹底していたからこそ、三ない運動から「乗せて教える」交通安全教育への転換も全県一斉に行えたとも言える。

こうした都道府県は良くも悪くも少なくなり、現在、教育委員会が原則として免許の取得を禁止しているのは、山形県、愛知県、滋賀県、京都府、広島県の5府県となっている。これらの府県には、埼玉県の取り組みをモデルケースとして活用できる可能性がある。

関東において「高校生にバイクは不要」と三ない運動を徹底してきた埼玉県も、有識者による「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」での真摯な議論を経て、指導要項を見直した。
「自分の身は自分で守る」という交通社会人としての基本を免許が取得できる高校生年代からしっかり教えていくことで、埼玉県は必ず、本来あるべき姿に近づいていくはずだ。

レポート●田中淳磨 写真●田中淳磨/ホンダ 編集●上野茂岐

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