1986年に公開されて大ヒットしたアクション映画、トップガンで主演を務めトップスターとなったのが、バイクやクルマ好きとしても知られるトム・クルーズだ。
そんな趣向が反映してか、彼の出演映画にはミッション:インポッシブルシリーズに代表されるようなバイクアクションシーンが多く、アクション以外でも小道具として様々なバイクが使われている。
そこで彼の主演映画の中から、バイクが登場する作品を振り返ってみよう(説明の都合上、作品のネタバレが若干含まれます。ご了承ください)。
トップガン(1986年)
トム・クルーズ演じる戦闘機乗り、ピート・ミッチェル(コールサイン:マーヴェリック)がエリートパイロット養成学校(トップガン)で訓練を積み、仲間の死を乗り越えて成長していく姿を描いた青春アクション映画。
そのマーヴェリックの陸上での愛機として登場するのが、1984年に発売された水冷4ストローク並列4気筒エンジンDOHC4バルブエンジンをスチール製ダイヤモンドフレームに搭載し、115ps/9500rpm、8.7kgm/8500rpmの性能を誇ったカワサキGPZ900R。マーヴェリックの愛車は1985年発売のA2型で、滑走路をF-14と併走したり、教官で恋人のシャーロットと二人乗りするシーンに日本中の男子が憧れたものだ。
日本には逆輸入車というカタチで導入されて人気を博し、750cc規制撤廃後の1991年に正式発売された。ちなみに、34年ぶりの続編となる「トップガン マーヴェリック」にもニンジャH2と共に登場する。
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ミッション:インポッシブル2(2000年)
IMF(Impossible Mission Force)のエージェントであるイーサン・ハント(トム・クルーズ)が遂行不可能と思われる作戦をあっと驚く方法でクリアしていく人気スパイアクション。これはシリーズ2作目で、物語の終盤に壮絶なバトルを演じるのがトライアンフの2台。それが、イーサンが操るストリートファイター、スピードトリプルT509と、敵のアンブローズが乗るスーパースポーツ、T595デイトナだ。
この2台は兄弟車で、共に955cc水冷4ストローク並列3気筒DOHCエンジンを搭載。イーサンのスピードトリプルは、ジャックナイフ、アクセルターン、ブレーキターンと敵との派手なチェイスを繰り広げ、さらにはダートも走り回り、最後には2台のトライアンフが激突(?)し大炎上! だが、ダートではブロックパターンタイヤに変わっていたり、激突する前にすれ違ったように見える……。

ちなみに、2006年のミッション:インポッシブル3の序盤にもバイクが登場するのだが、ほぼシルエットで車種を断定しにくい。トライアンフのスクランブラーとも言われているが、スクランブラーの発売は2006年なので撮影中は発売前である。右側マフラーが1本出しであることから推測するとボンネビルかもしれない。
ミッション:インポッシブル ローグネイション(2015年)
「ミッション:インポッシブル」シリーズの5作目。BMWがスポンサーということで、敵のS1000RRに追われてバックのまま大ジャンプ&大クラッシュするM3セダンや、左右非対称ヘッドライトが特徴のS1000RR同士計7台のチェイスシーンが見所となっている。特に、本作のヒロインであるイルサ・ファウスト、敵組織メンバー、そして主人公のイーサン・ハントが乗るS1000RRが、高速道路やワインディングで他の車両の間をぬい、コーナーを膝を擦りながら駆け抜けていくチェイスは圧巻。

高価なスーパースポーツが次々とクラッシュしていく様子は、1台潰れるごとに「200万円、400万円、600万円……」と金額を想像してしまうのは筆者だけだろうか(2012年型のプレミアムラインの新車価格は199万円)。
なお、イーサンがクラッチを使ってダウンシフトするシーンがあるが、2012年モデルのS1000RRに搭載されるHPギヤシフトアシスト(オートシフター)はアップのみの対応だったな──とか、イルサが被っているのはSHOEIのXトゥエルブだ──そんな事を考えながら見るとより楽しめる。

ミッション:インポッシブル フォールアウト(2018年)
ローグネイションの続編で「ミッション:インポッシブル」シリーズ第6作「フォールアウト」では、盗まれたプルトニウムを取り返すため、イーサン・ハントとCIAエージェントのオーガスト・ウォーカーがフランス警察から逃げるのにBMW Rナインティ スクランブラーとトライアンフ スピードトリプルRSが使われる。

しかし、イーサンがまたがったRナインティはなかなかエンジンが掛からず、フランス警察のパトカーや白バイ(BMW R1200RT-P)に追い詰められる。信号を無視し、クルマの間を縫って走り、凱旋門のラウンドアバウトなど一方通行を逆走し、最後は事故を起こしながら逃げ切るという、前作とは違う市街地チェイスとなっている。
今作でも引き続きヒロインとして登場するイルサ・ファウストが、イーサンたちが逃走に使うE28型5シリーズをトライアンフ タイガー800XCxで追いかけるシーンも必見(最終的にE28に当て逃げされる)。ちなみに、今回彼女が被っていたのはドイツ・シューベルト社のシステムヘルメット、E1だ。

ナイト&デイ(2010年)
CIAエージェントで逃走中のロイ・ミラー(トム・クルーズ)と、偶然飛行機で乗り会うジューン・ヘイヴンス(キャメロン・ディアス)が繰りなすスパイアクション。ロイは画期的な永久電池、”ゼファー”を守るためにジェーンを巻き込みながら逃避行を続ける。途中、敵に捕まったジェーンを助け出し、スペインの牛追い祭りの中を走るのが1078cc空冷4ストVツインエンジンを積んだモタードバイク、ドゥカティ ハイパーモタード1100。ジューンとタンデムしながら敵や牛を避け、さらに抱きかかえるよう向きを変えたジェーンが追いかけてくる敵に向かって発砲するシーンはかなりの迫力。

ちなみにグレードは、走行シーンをよく見るとブレーキリザーバータンクの形状からハイパーモタード796ではないことが分かり、さらに赤いフロントフォークプロテクターやホイールデザインから1100Sとは異なるのが判明する。
また、ラストシーンの海辺で、リゾートといった雰囲気の中にホンダ トレイル90 CT200やスーパーカブらしいバイクがちらりと映るのも見逃せない。

オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014年)
エイリアンに侵略された地球を舞台に、統合防衛軍の一員として主人公のウィリアム・ケイジ(トム・クルーズ)が圧倒的な強さを誇る敵に挑むタイムループ映画。
タイムループとは時間(タイム)を繰り返す(ループ)するSF物語のことで、この映画でウィリアムは戦死した瞬間にその記憶や経験を持った”意識”が過去に戻る。死ぬたびに必ず配属初日に戻されるウィリアムは、エイリアンの攻撃順序を覚え、同じくタイムループした経験を持つ兵士・「ヴェルダンの女神」ことリタ・ヴラタスキと共に過酷な訓練を積み、何度も繰り返して敵に挑むことで倒す方法を見付けていく。
その物語の中盤に登場するのが、ウィリアムが憂さ晴らしで外出するときに乗るトライアンフ スラクストン。ちなみにウィリアムはアメリカ軍人だが、配属先がイギリスということで865cc並列2気筒エンジンを搭載するブリティッシュカフェレーサーに乗るのだ。なお、スラクストンの登場はこのワンシーンだけで、ミッション:インポッシブルのようなアクションシーンはない。

様々な手法で登場する映画の中のバイク。思わず声が出そうな派手なアクションからとあるシーンの1アイテムとしてまで、まるでバイク好きに見てもらいたいかのような演出に見ているとニヤリとしてしまう。
そんな数々の映画の中でのトムは、必ずノーヘルなのである。トムが演じる少々アウトローなヒーローの姿を、外出自粛の今、改めてチェックしてみることをお薦めする。
レポート●片倉義明 編集●モーサイWEB編集部