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知名度が高いゆえに?
ハーレーのバイクに否定的な声として……
・あんなデカい排気量、日本で使い道はない。無駄だ
・あんなに大きくて重いバイク、運転しづらいに違いない
・値段が高い
なんてものが定番としてあると思う。バイクに乗らない人からも含め。
もちろん個人の考え方なのでそれはそれでだし、物事、賛否が分かれるのも普通のこと。ただ、先入観だけで否定してしまうのももったいない気がするのだ。というわけで、ハーレーオーナーではなく、ハーレーにそこまで詳しくない筆者が実際に乗って、その辺りをフラットな目線で考えてみた。
試乗したのは「クルーザー」カテゴリーのローライダーS、ファットボーイ、ヘリテイジクラシックの3車で、2025年型でモデルチェンジを行った最新型だ。
3車を選んだ理由は、ハーレーファンでなくも何となく聞いたことがある(であろう)車名というのがひとつ。余談だが映画『ターミネーター2』作中でシュワルツェネッガー氏が乗っていたのは昔のファットボーイだ。
そしてもうひとつの理由は、一言にハーレーといっても車種によって乗りやすい、難しいなどの差があるだろうと考えたためだ。この3車、見た目からして方向性が違いそうではないか。



排気量1923ccもある最新型「クルーザー」カテゴリーのエンジン
まずは巨大なエンジンについて。
「クルーザー」カテゴリーのモデルは、「ミルウォーキーエイト117」と名付けられた1923cc空冷V型2気筒OHV4バルブのエンジンを搭載している。117は排気量をキュービックインチで表した数字だ。
エンジンを始動する。ハーレーというと「ドッドド、ドッドド」というリズミカルなアイドリング音をイメージする人も多いかと思うが、この3車では「ズンズンズンズン……」という一定の重低音。ただ、ヘルメットを被らない状態で聞いていても音はそれほど大きくない。
でもって発進するのだが、アイドリングでクラッチを繋いでもググッっと前に出る。大げさかもしれないが、エンストする気がしない。実に頼もしい、ありがたい。これは巨大排気量が放つ、膨大なエネルギーの成せる力強さだろう。
試乗を行ったのは、横浜の一般道と自動車専用道路。アイドリング時の回転数は900rpm前後で、60〜80km/hで走る領域では4速、5速で1500〜2000rpmあたり。エンジンの回転数は上がるも下がるもゆっくりだから、スロットルワークに細かい気遣いはいらない。乗りやすいと思った。
ちなみに走っている際のエンジン音は「ビュルビュル」いっている。ボリュームはそれほど大きい感じは無く、耳障りなタイプの音質ではない。ハーレーのエンジンについて「鼓動感」という表現がよく使われるが、少なくともこの3車についてはちょっと違うかも。これは「脈動感」だ。
なお、「クルーザー」カテゴリーのバイクは2025年のモデルチェンジによって、エンジンが車種のキャラクターに合わせたチューニングとなった。具体的にはハイアウトプット/カスタム/クラシックの3タイプがあり、ハイアウトプットが最も強力、クラシックが最も穏やかというもの。
今回の試乗車ではローライダーS:ハイアウトプット(最高出力115ps/最大トルク17.6kgm)、ファットボーイ:カスタム(最高出力104ps/最大トルク17.1kgm)、ヘリテイジクラシック:クラシック(最高出力92ps/最大トルク15.9kgm)となる。
燃費は公称で18km/Lくらい。排気量が大きいから燃費も悪かろうと思いきや、1000ccオーバーのバイクとしては普通で、日本車のメジャー車種で言えば1300ccのスズキ・ハヤブサが15.4km/L、同じく1300ccのホンダ・CB1300SFが17.2km/Lだ(どちらもWMTCモード値)。



加えて、エンジンの出力特性が切り替わるライディングモードも搭載された(スポーツ/ロード/レインの3つが選べる)。先ほどスロットル操作にさほど気を遣わなくていいと書いたが、スポーツモードにしたローライダーSでスロットルを大きく開けると、車重304kgの物体が恐ろしいダッシュを始める。体が持っていかれそうになるほどで、最初はちょっと注意だ。
車重は300kgオーバー、またがってみても大きさは感じるが……
続いて、運転が難しいかどうか。
どれも巨大なバイクだが、どれもシートは低く、とにかく足つきはいい。素晴らしい!安心である。
重心も低いので、大排気量アドベンチャーバイクのように重い物が上からグラッと傾いてくる感じもない。とはいえ、ある程度車体が傾いたらその重さを踏ん張って支えるのは無理なのは頭に入れておきたい。
押したり引いたりは体格、体力によるので一概に言えない。が、全くムキムキではない筆者でもギリ何とかなるレベル。ただし、傾斜のある場所で下り坂方向に頭を向けて駐車すると引っ張り出せず、脱出不能になる危険は感じる。


バイクの運転の難しい部分で大きくウエイトを占める「曲がる」だが、どれも謎の乗りやすさがあった。細かいことを考えなくても、進行方向をちゃんと見て軽く体を傾けると大体直感で、なんとなーく曲がっていくのだ。
ブレーキングで荷重をタイヤに、コーナリングでは体重移動を……など、いわゆる「ライテク」を考えなくて良い気楽さみたいなのがある。
いや、ライテクを学ぶことは意味があると思っています。安全運転にも繋がる面もありますし。でも、ライテクのラの字も知らない奴は大きなバイクに乗るな、みたいな変に厳しい風潮あるじゃないですか。何かそういうの、疲れるじゃないですか。
おっと……個人的な愚痴を漏らしてしまったが、本筋に戻ると、技量を問わず乗れる懐の深さがあるのではないかということ。
「曲がる」という点で一番なじみやすかったのは前後16インチとホイール径が小さいヘリテイジクラシックだ。フロントが19インチのローライダーSはやや大回りになる感じがあったが、それとて特に難しいとか、怖いとか、そういった感じはなかった。
手こずったのは、アメリカ人の体格を前提にした(と思われる)乗車姿勢だ。
筆者は身長170cmだが、ローライダーSはハンドルが少し遠かった。ペダルは許容範囲。ブレーキペダルはクルマのような感じで踏み込む……いや、押し込む?感じなのに最初は戸惑ったが、慣れると使いやすい気もしてきた(3車で最初に乗ったのがローライダーS)。
ファットボーイはハンドルの高さはそれほど問題ないが幅が広く、Uターンなどハンドルを大きく切る場面ではそれが地味に辛い。ペダルはかなり遠く、ブレーキはやはり押し込むだけなので何とかできるだが、シフトペダルのかき上げ操作に苦戦した。
ヘリテイジクラシックはハンドルは問題無し。ペダルは僅かに遠い。惜しい! デザイン的にも似合うので、シーソーペダルだったら良かったのにと思ったら、オプションパーツで用意があるらしい。
オーナーとなったら慣れるのだろうか。ただ、ハーレーは純正でもカスタムパーツが豊富だ。どうにもならなかったら、ライディングポジションを調整できるパーツなどを販売店で相談してみると思う。



確かにバイクとしては高額車
最後に、ハーレーは高いかどうか。
まず大前提として「価格が高い、安い」は最高出力のような絶対的な数値ではなく、その人の趣味に使える金額からして、出せる、出せない、という主観的なものだ(バイクに限った話ではないが)。
今回試乗したローライダー、Sファットボーイ、ヘリテイジクラシックは300万円台となる。確かにバイクとしては高額の部類だ。なお「クルーザー」カテゴリーで、最も求めやすい価格なのはストリートボブで251万1300円〜だ。
だがハーレーだけがそんな価格帯かというと、昨今、日本車でも300万円超えはある。ホンダ・ゴールドウイング(1800cc)が374万円〜、ヤマハ・YZF-R1M(1000cc)が328万9000円、カワサキ・ニンジャH2 SX SE(1000cc)が312万4000円だ。YZF-R1M、ニンジャはジャンルが全然違うが、“凄い能力を持ったバイク”という点ではハーレーも共通しないだろうか。ハーレーの場合、それは「巨大な排気量がもたらす余裕の走り」になる、と。
……という見解をそれぞれに得たのだが、どうだろうか。筆者は自分にハーレーは縁遠い存在と思っていたが、最新型「クルーザー」カテゴリーに触れてみて「ハーレー、アリかも」と思った。ブランド志向とかそういうのを抜きに「普通に乗れる感」が良かったのだ。まあ価格については貯金をするしかないが、逆に言えば「ハーレーのために頑張って貯金しよう」と前向きに考えたくなる、確かな魅力があった。
今の時代、レンタルバイクの店舗も充実している。最新型=2025年モデルが用意されるまでタイムラグはあると思うが、肯定・否定の結論を出すのは触れてみてからだっていいはず。もちろん販売店で試乗してみるのもアリだろう。

レポート●上野茂岐 写真●ハーレーダビッドソンジャパン
ハーレーダビッドソン ローライダーS主要諸元(2025年モデル)
[エンジン・性能]
種類:空水冷4サイクルV型2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:103.5mm×114.3mm 総排気量:1923cc 最高出力:85kW<115ps>/5020rpm 最大トルク:173Nm<17.6kgm>/4000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2360 全幅:890 全高:── ホイールベース:1615 シート高:715(各mm) タイヤサイズ:F110/90B19 R180/70B16 車両重量:304kg 燃料タンク容量:18.9L 公称燃費:17.8km/L
[車体色]
ビリヤードグレー、ビビッドブラック、ブリリアントレッド、アイアンホースメタリック、ミスティックシフト
[価格]
300万800円〜320万9800円





ハーレーダビッドソン ファットボーイ主要諸元(2025年モデル)
[エンジン・性能]
種類:空水冷4サイクルV型2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:103.5mm×114.3mm 総排気量:1923cc 最高出力:77kW<104ps>/5020rpm 最大トルク:168Nm<17.1kgm>/3000rpm 変速機:6段リターン 公称燃費:18.1km/L
[寸法・重量]
全長:2365 全幅:965 全高:── ホイールベース:1650 シート高:675(各mm) タイヤサイズ:F160/60B18 R240/40B18 車両重量:315kg 燃料タンク容量:18.9L
[車体色]
ビリヤードグレー、ビビッドブラック、ブルーバースト、ウィスキーファイヤー/ブラック
[価格]
327万5800円〜344万800円




ハーレーダビッドソン ヘリテイジクラシック主要諸元(2025年モデル)
[エンジン・性能]
種類:空水冷4サイクルV型2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:103.5mm×114.3mm 総排気量:1923cc 最高出力:68kW<92ps>/5020rpm 最大トルク:156Nm<15.9kgm>/2750rpm 変速機:6段リターン 公称燃費:18.1km/L
[寸法・重量]
全長:2415 全幅:930 全高:── ホイールベース:1630 シート高:690(各mm) タイヤサイズ:F130/90B16 R150/80B16 車両重量:326kg 燃料タンク容量:18.9L
[車体色]
ビリヤードグレー、ビビッドブラック、ホワイトオニックスパール、アイアンホースメタリック、ウィスキーファイヤー/ブラック
[価格]
324万8300円〜341万3300円




レポート●上野茂岐 写真●ハーレーダビッドソンジャパン