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車輪のロックでバイクが制御不能にならないように、ABSを搭載
バイクにABSが標準でも装備されるようになっている昨今。あらためてABSの機能とはなにかを振り返ってみましょう。
まずABSというアルファベットの正体。ご存知の方も多いと思いますが、これは「アンチロック・ブレーキ・システム(Anti-lock Brake System)」の略称です。アンチロック=ロックしないということ。「ロックする」というのはブレーキによって車輪の回転が完全に止まった状態のことです。
車輪の回転が止まってしまうというのが、車体が停止している状態であれば問題ありませんが、まだ車体に運動エネルギーが残っているときに車輪がロックしてしまうと、接地面が固定されたまま路面を滑っていくことになります。
これはタイヤのグリップが極端に低い状態ですから、そのままでは十分な減速もできませんし、タイヤは偏摩耗してしまいますし、なにより車体をコントロールできない状態となってしまいます。ロックしていいことはありません。
さらにいえば後輪がロックする分にはまだコントロールできますし、わざとロックさせて小さく回るような上級者テクニックもありますが、前輪がロックしてしまうと基本的にアンコントローラブルな状況に陥ってしまいます。言い方をかえれば事故まっしぐらな状態というわけです。
そうした状況にならないよう、電子制御でブレーキによる車輪のロックを防ぐのがABSの役割です。具体的にはロックを検知するためのセンサーとブレーキ圧を調整するためのアクチュエーターと制御ユニットによって構成されています。
ちなみに、一般的なバイクにおいて車輪の回転をセンシングするのに使われているパーツは目視できます。ブレーキディスクの中心付近にある小さなスリットの入った盤状のパーツと、そのスリットを読み取るセンサーによってタイヤロックを検知しています。逆にいえば、スリット入りの盤状パーツがあればABS付きというわけです。


義務化されたのは2015年に保安基準が改正されたから
そして、今やほとんどの新型モデルがABSを装備しています。
なぜなら日本において売られている新車において、原付二種(第二種原動機付自転車)以上のモデルはABSの装備が基本的に義務化されているからです。
あらためてABS義務化の流れを整理すると、まず2015年1月の「道路運送車両の保安基準」等の省令改正によって原付(50cc以下)を除く二輪車にABSの装備義務化が決まりました。
そのスケジュールとしては、新型車は2018年10月1日から、継続生産車は2021年10月1日からがリミットとなっていました。ABSを想定していないような時代に設計されたバイクであっても、2021年10月以降はABSを標準装備しないと市販できないということになったのです。
ヤマハの伝統的モデル「SR400」が生産終了となったのは、このABS義務化も影響したという説もありますが、実際そのタイミングで原付二種の各モデルもABSを標準装備することになり、価格が上昇してしまいました。

編集部注:国土交通省の発表内容の表題は「二輪自動車へのABSの装備義務付け等に係る関係法令の改正について」となっているが、厳密には「ABSかCBSいずれかを装備しないといけない」というのが実際の内容(CBSはコンバインド・ブレーキ・システムの略で、前後連動ブレーキのこと)。
ABS搭載で車両価格は上昇……低額車ほど増額分の比率が大きいことに
様々な仕様変更も含まれているので、単純にABS義務化によってどのくらい価格が上がったのか断言するのは難しいですが、義務化になる以前のABSの有り無しがあった頃の新車価格と比較することで、ABS義務化による価格上昇具合を想像することはできるでしょう。
たとえば、2018年にデビューしたホンダ モンキー125(4速トランスミッションだった時代)の場合、ABS無しとABS付きがラインアップされていました。その価格はABS無しが39万9600円で、ABS付きは43万2000円。ABSの有無よって約3万円の価格差があったわけです。車両価格が39万9600円ですから、比率でいうと8%の価格上昇になったといえます。
もうひとつ原付二種の例でいえば、ヤマハの3輪スクーター・トリシティ125もABS無しとABS付きを併売。ABS無しのモデルは42万3500円、ABS付きは46万2000円でした。こちらはABS付きが約4万円高で、同じように比率で計算すると9%ほど価格が上昇することになります。

■ヤマハ トリシティ125 ABS
全長×全幅×全高:1980×750×1210mm
車両重量:164kg
最高出力:9.0kW(12ps)/7500rpm 最大トルク:12Nm(1.2kgf・m)/7250rpm。
上記の数値はABS無しと同様。主要諸元の数値として、ABS装備と無しの車両で違うのは車両重量だけ。ABS無しの車両のほうが5kg軽く、159kgです。

■トリシティ 125 ABSのメーターパネル。ABS警告灯が上部にあります(オレンジ色に光っている部分)。警告灯はイグニッションONのときにABSユニットの正常性をテストしつついったん点灯しますが、その後消灯し、異常がない走行時にはずっと消えています。ABSの作動中を示すランプではないことに注意。
もちろん、もともとの車両価格が高い大型車であればABSの有無による価格差はさほど気にならないかもしれませんが、原付二種クラスであれば、ABSの義務化によってざっくり1割弱の車両価格上昇があったといえそうです。
安全はお金にかえられないというのが正しい見方とはいえ、ここ数年小型バイクの価格が上がっているなあという印象は、継続生産車へのABS義務化という保安基準の改正により感じさせられているともいえそうです。

上図はホンダのスーパースポーツ向けABSのシステム概要を示すものです。ABSは制動時に車輪をロックさせないものですが、高性能化が進み、その役割が増えてきています。
スーパースポーツ向けには、ハードブレーキングや旋回中のブレーキに安心感を与える制御を採り入れています。どういうことかというと、車体挙動を検知するIMU(慣性計測装置)を用い、急制動時にはリヤがリフトして姿勢を乱さないよう調整します。
旋回時には車体のバンク角に合わせての制御とし、ロックさせないばかりでなく急な起き上がりも抑制します。ハイパワーのスーパースポーツには欠かせない装備ですが、高額化もまた進みそう?
レポート●山本晋也 写真・図版●ホンダ/BMW/ヤマハ/八重洲出版
編集●上野茂岐
■ホンダ・モンキー125(2018年4月発表)
https://www.honda.co.jp/news/2018/2180423-monkey125.html
■ヤマハ・トリシティ125ABS(2019年2月発表)
https://global.yamaha-motor.com/jp/news/2019/0228/tricity125.html