RSV4、パニガーレV4、CBRがウイングを採用
そしてネイキッドのストリートファイターV4も
ここ最近、市販車のバイクで次々に「ウイング付き」のモデルが登場しています。
2018年型アプリリア RSV4 RF LE(北米仕様限定車)から始まり、ドゥカティの2019年型スーパーバイクレース参戦用ホモロゲーションマシン・パニガーレV4R。そして2020年型ではそのパニガーレV4の限定モデル・スーパーレッジェーラV4(フレーム、ホイールをカーボン製とした軽量バージョン)、2020年型ホンダCBR1000RR-Rファイアブレードにもウイングレットが装着されています。
そうしたレーシーなカウルに覆われたスーパースポーツだけでなく、ドゥカティは2020年型として登場予定のネイキッドモデル・ストリートファイターV4にもウイングを装着しました。
レースの世界では市販車より前から取り入れられており、現在MotoGPマシンでは必須のエアロダイナミクスパーツとなっています。ちなみに、2015年ごろにドゥカティが翼状のエアロダイナミクスパーツを「ウイングレット」と説明したことがきっかけで、バイクの世界では「ウイングレット」という名が定着しています。
ウイングレットを装着する一番の目的はウイリーの抑制です。最高速は350km/h以上で300馬力近くあるといわれるMotoGPマシンは、6速でもウイリーしてしまいます。そこで、揚力を発生させて飛ぶ航空機の翼を逆さの断面形状にし、ダウンダウンフォースを発生させて、下向きの力で車体を路面に押し付けようとというのがその理屈です。
高速時だけでなく、低中速でもブレーキング時の安定性にも効果があると発表されています。CBR1000RR-Rファイアブレードでは70~80km/hぐらいでも効果を体感できるそうです。
ただし、いいことばかりではなく、ネガティブな面も。MotoGPマシンではハンドリングが重くなるという症状があり(半面、それだけ効果があるということですが)、ダニ・ペドロサ選手はそれを嫌ってウイングレット無しや、小さいウイングレットのマシンに乗っていました。
本来、「ウイングレット」(winglet)は航空用語では翼端板のことで、翼の端に小さな翼を立てて、翼の下面(高圧)から上面(低圧)に向かって巻き上がる渦を抑える役目があります。渦は燃費を低下させるので、現在は多くの航空機が採用しています。旅客機ではエアバス社が積極的に採用していますね。
4輪のレースでは早くからダウンフォースの有用性を取り入れていて、最初に有名になったのは1968年のロータスでしたが、バイクでは1978年にスズキがファクトリーロードレーサーRGA500(XR22)のカウル両サイドに翼端板付きウィングを装着して話題になりました。
この年は超強力な難敵ケニー・ロバーツがフル参戦してきたので、スズキはエースのバリー・シーンを勝たせるべく、「F1でやっている最先端のコトをGP500でもやろう! 性能向上になりそうなモノなら何でも使おう!」と、さまざまなチャレンジをしていたのです。
このウィングは1978年いっぱいで消えましたが、1979年にサテライトチームのチームガリーナがRGB500(XR27)のアッパーカウル・ナックルガード部を逆ウィング形状にしました。今見ると、どちらも現代につながる形状でしたが、劇的な効果は得られずお蔵入りとなりました。
MotoGP、スーパーバイクともドゥカティが意欲的にウイングを取り入れる
再びウイングがレースの舞台で注目されたのは、それから30年以上たった2010年のこと。
ドゥカティがMotoGPマシン・デスモセディチGP10 のカウルサイドに小さな翼端板付きウイングを付けました。しかし、定着はせず、ドゥカティも一端引っ込めます。
そして2015年、デスモセディチGP15で復活します。それもかなり大きな形状で、片側2枚、合計4枚のバイプレーン(複葉機のような形状)もシーズン途中で投入されました。このドゥカティの動きにすぐには反応したのがヤマハで、シーズン後半にはかなり大きなウィングレットをフロントノーズ左右に装着していました。
2016年になるとホンダRC213Vも採用。最初は小さなものをカウル両側に装着していましたが、シーズン途中で小さな片側3枚タイプになり、最終的にはヤマハのようにフロントノーズ両側1枚ずつとなりました。
しかし2017年、カウルからの突起物がルールで禁止されます。走行中に他車に接触したときに危険だからです。
パニガーレV4Rのような突起したウイングはMotoGPでは禁止ですが、現在のSBK(スーパーバイク世界選手権)やEWC(耐久世界選手権)ではなぜOKかというと、ベース車のスタンダード状態でウイングレットが付いていて、それでホモロゲーションが取得されればルール上問題ないからです。
CBR1000RR-Rファイアブレードはダクトウイングタイプを採用
MotoGPでは2017年からウイングはNGとなりましたが、各チーム、ボックス型(カウルにコの字型のパーツを装着したような形状)やダクト型の空力パーツを装着するようになります。これらはブリスターウイングとか、ブリスターカウルと呼ばれます。ブリスターは「出っ張り」という意味ですから、要するに「カウルの一部が少し膨らんだ形になっている」という解釈になり、ルールで禁止されている「危険な突起物」ではなくなるわけです。
ホンダとヤマハは大型ラジエーターでも付けたようにカウル両側を少し膨らませ、内部に小さなウィングを複数枚装着した形状のダクトウイングを採用しました。最新型の市販車CBR1000RR-Rファイアブレードに装着されているのも、まさにこのダクトウイングタイプです。
2018年になると、大きなウイングに見えて、実は翼端が後方に伸びてカウルに取り付けられるタイプが主流になるなどしましたが、現在に至るまで各チームがさざまざな試行錯誤を行っています。
市販車の場合、CBR1000RR-Rファイアブレードのようなダクトウイングなら、他車や人間を引っかける心配もなく、安定性重視の大型ツアラーなどにも向きそうです。ボックス型やダクト型ではそこを空気が通過するだけで姿勢維持性が出ますから、高速域での安定性が特に期待できます。ただし、ウイングレットにせよ、ダクトウイングにせよ、装着にはカウルの強度が必要です(発生するダウンフォースを受け止めなくてはならないですから)。
また、ホンダはダクトウイングの可変機構の特許を申請しており、近い将来、自動可変ウイングが登場するのではないでしょうか。
バイクは4輪と違って走行中に姿勢が変わるので(ピッチングやバンクなど)、空力効果も変わってしましますが、姿勢変化に応じてウイングの角度を自動調整できれば効果はさらに高まるはずです。
まとめ●石橋知也 編集●上野茂岐