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「お金も時間もありそうなのに、なぜこんな天気の良い日にツーリングにも行かず、用品店に来ているんだろう?」という疑問
■都内の某大手バイク用品店の駐輪場にて。今日も「なぜ来ているのかわからない?」ようなバイク乗りたちでいっぱいだ。
バイクに乗り始めた頃の筆者にとって、バイク用品店は最高の暇つぶしスポットだった。なんといってもバイクに関係するモノがいくらでもある。新作ウエア、メッキきらめくカスタムパーツ、そして各々が自慢のバイクを停めている駐輪場。バイク好きにとって、目の保養にもってこいの要素で満たされている。
筆者の二十歳過ぎ、2010年あたりの生活ぶりといえば、余裕や豊かさとは程遠く、バイクと時間はあるが金はなかった。ツーリングなんて、高速代や燃料代が捻出できるはずもなく、ほとんど行けていない。仕方なしに休日は近くのバイク用品店に足を運び、なんとなく空虚な時間を過ごす……そんな日々を送っていたことを思い出す。
そんな筆者が無意味にたむろしていた当時の用品店には、失礼ながら自分以外にも目的なく来店していそうな方々がいた。その層は幅広く、自分のような裸一貫バイク一台といったふうな若者から、最新モデルの最上級グレードに有名メーカーのマフラーを組んでいる、暇を持て余したかのような40代くらいの方など、様々だ。
そんな彼らを見て疑問に感じていたことがある。「お金も時間もありそうなのにココで買い物もせずにいる歳上の方々は、なぜこんな天気の良い日にツーリングも行かず、用品店に来ているんだろう?」と。三十路を超えた今なら彼らの気持ちがわかるかもしれない。様々な事情があるのかもしれない。聞いてみよう、若き日の疑問を解消するために。
取材に足を運んだのは超有名・国内最大級のバイク用品店。2022年12月初旬。晴れの土曜日、気温も低すぎず、まさしくツーリング日和。そんな日の午後1時に用品店に来る方々は、どんな思いを抱えているのだろうか?
昼まで寝てたから、ココでまったり。午後は近場を回れば、それでよし!
タイラーさん(57歳、SUZUKI GSX-S1000GT)……の場合<ケース1>
還暦間近とはとても思えない風貌で、駐輪場脇のブロックに腰掛けていたタイラーさん。声をかけて見ると少し面食らったような様子でしたが、快く様々な質問に答えてくださいました。
──(筆者、以下同)今日は何しにこちらへ来ましたか?
えっ!?まぁ、なんだろう……バイク用のグローブを買いに来た、ってところかな。アパレル用品はネットじゃサイズ感が分からないからね、実物を試着しに。
──目的あって来店されたんですね。今日は天気が良い土曜日ですが、ツーリングではなく、冬支度を優先されたというところでしょうか?
……いや、正直に言うとね、寝坊しちゃったんだよ(笑)。本当ならばツーリングにでも出かけようかと思っていたんだけど、昼過ぎに起きちゃって……。それで仕方なしに、目的を作って用品店に来た。ここにはキッチンカーのホットドッグ屋さんが来ていることを知ってたから、お昼ごはんも兼ねている。今日はこれから横浜の方でもグルっと回って帰ろうかな。普段は2週間に1回くらいのペースでツーリングしているよ。こないだは九十九里浜に行ったかな。
──本音を教えていただきありがとうございます(笑)。あえて聞きますが、用品店の魅力はどういうところだと思いますか?
刺激を受けられる場所という感じかな? やっぱりこれだけいろんな商品があって、バイクもたくさん停めてあるから、眺めているだけでも面白いよね。心の冒険とでも言いますか。
──素晴らしいお言葉をありがとうございます。乗っていらっしゃるGSX-S1000GTですが、どれくらい走られていますか?
実は今年7月からのリターンライダーだから、まだあんまり走っていないんだ。今年の2月に契約して、7月に納車されたからね。
スズキが好きで、若い頃は1988年式のGSX-R1100に乗っていたよ。そこから子どもができてバイクを降り、クルマの方をたくさん乗り換えてきた。三菱スタリオン、同じくギャラン、日産ステージア、BMWなんかにも乗ったかな。でも、子供が社会人になったからバイクの方に舞い戻ろうと思ってね。
ゴルフが趣味だったんだけど、バイクとゴルフの両立は金銭的にキツい……。だからバイクに絞って、趣味として再開した。今はバイクにまつわることが楽しくてしょうがない。
バイク用品店で知らない人と話すことはあんまりないけど、先日どこかのお店でカワサキNinja1000に乗ってる方から「GSX-S1000GTの実車、初めて見た!」って話しかけられたよ。30分くらい話し込んだかな。性質が似ているバイクだから、親近感を覚えたんだろうね。楽しかったな。こういう突然のコミュニケーションが起きるところも、バイク用品店の魅力だと思うよ。それじゃ!
筆者の納得──真新しいバイクで、純正のパニアケースも搭載し、ツーリングをこれからどんどん満喫する予定のタイラーさん。彼のバイクライフを、用品店という存在が彩ってくれることを期待したい。
短時間の市街地ツーリング中、ココは中継地点。小物はつい買っちゃう!
シグレニさん(HONDA CC110)……の場合<ケース2>
カスタムの施されたクロスカブの前に腰掛けていたシグレニさん。アップタイプの社外マフラーが目立つCC110には、実用性の高そうなフロント・リヤのケースが装着されており、ベテランの風格を漂わせる。ちなみにフロントの筒型ケースは塩ビ管を切って自作したDIY品!
──今日は何しにこちらへ来ましたか?
市街地ツーリングの中継地点として寄りました。葛飾区の自宅から出発して湾岸道路(国道357号)を走ったりして帰るルートだから、このお店はちょうどいい場所にあるんだよね。
──遠くへのツーリングには行かれなかったのですか?
今日は午前中に息子の用事に付き合ったからね、体が空いた頃には遠出ができない時間になっていた。それでこうした市街地のツーリングをしていたってワケ。普段は月1回くらいのペースでこのCC110で林道に行ったり、長距離の舗装路を走ったりのツーリングをしているよ。
──今は休憩されていたと思いますが、店内は見られましたか?
見た見た、ぶらっと店内を一周したよ。大きくて値段が高いものはさすがに衝動買いしないけど、安くて便利そうな小物はつい買っちゃうね。今日はヘルメットをかぶっても髪型が崩れにくくなる“ベンチレーションライナー”って製品を見かけたんだけど、こんな便利そうなもの知らなかったから「おっ!」と思って買ってみたよ。
こうして探す気さえなかったものに出会えるから用品店を歩くのは面白い。バイクにまつわる製品の欲求、その小腹を満たす感覚だね。別に用品店大好き!ってワケではないけども(笑)。
──カスタムセンスが光っていますが、参考などに他人のバイクなどもよく見られたりしますか?
いやー、興味ないね。昔はよく見てたけど、どういうわけか歳をとるとあんまり……(笑)。
筆者の納得──家族とのコミュニケーションやサポートをしながら、しっかり自分の楽しみも実現していくシグレニさん。市街地ツーリングの傍ら、そして新製品開拓の楽しみを持って用品店を利用されていました。
納車待ちのカスタムをどうするか!? 駐輪場の同車種でチェック!
がんすけさん(YAMAHA TW200)……の場合<ケース3>
駐輪場を眺めていたところに声を掛けると、お話をしてくれた若きバイク乗りのがんすけさん。優しく爽やかな雰囲気の彼だが、鋭い眼差しを主に特定のバイクに向けていたその理由とは……?
──今日は何しにこちらへ来ましたか?
盗難対策アイテムやバイクカバー、プロテクターなどが目的。納車待ち中で、これからのバイクライフに必要なもの全般を物色していました。昨日も来てたんですが、ちょっと高いバイクカバーとスマホマウントを買いましたね。あとは、他人のバイクを見に。
──妙に気合いを感じますが、納車待ちのバイクとは……?
KAWASAKI Z900RS SEです!もう楽しみでしょうがなくて……一生乗るくらいのつもりで契約しました。今は大型自動二輪免許の取得中なんですよ。イエローボール(メタリックディアブロブラック)のカラーがめちゃくちゃカッコよくて。
──それはおめでとうございます!楽しみでしょうがない時期ですよね。
そうなんですよ! あのTW、実は友人からここ2年ほど借りているもので。この後はようやく自分のバイクが、それも大型が手に入ります。友人とのツーリングでもペースの違いに悩まされることもなくなりますし、本当に楽しみです。
Z900RS SEは盗難にも遭いやすい車種でもあるので、しっかり対策はしとこうかなと思います。
─今、最高にバイクライフへの期待値が上がっているがんすけさんにとって、バイク用品店の価値って何ですか?
やっぱり実物に触れていろんな製品を比べられるっていうところですかね。プロテクターなんかは触り比べて試着して、HYODのD3Oプロテクターにしようと決めました。
それと店員さんが親切で、いろいろ教えてもらえるんです。自分がネットで見ていいなと思ってた冬用のグローブを確認しに来たのですが、店員さんが『このモデルはけっこう隙間風がキツいから、長めのモデルも見てみるといいよ』と教えてくれました。
Z900RS SEにはグリップヒーターの装着も検討していたのですが、やはり店員さんが『ツーリングの仕方や時期によっては付けなくても問題ないかもしれない』とアドバイスをくれて。自分で調べただけでは分からないことを教えてもらえ、いろいろと迷いが晴れるような気持ちでした。勉強になります。
あとはZ900RSそのものを見に来てます(笑)。やっぱり他人がどんなカスタムをしているかとか、マフラーの音とか、聴きたいじゃないですか。すごく参考になるしワクワクする。昨日来たときにはZ900RS SE乗りの方と30分くらいも喋りました。
筆者の納得──ある意味最も楽しい時期にあるがんすけさんの希望溢れるトークに花が咲き、30分も話し込んでしまった。ここで選んだ用品の力を借りながら、きっとZ900RS SEで日本全国を駆け巡ることでしょう。がんすけさんのバイクライフに幸あれ。
実物を見て買えるし、用品知識も増える!今日もツーリング帰りの立ち寄り!
花子さん(KAWASAKI Ninja400)……の場合<ケース4>
今回取材させていただいた方の中では唯一の女性となる花子さん。顔出しNGながら、取材はご快諾していただけた。お声がけは夕方だったが、どうやら用品店にしっかりとした用事があったわけではない模様だったが……?
──今日は何しにこちらへ来ましたか?
特別こうという用事はなかったけれど……強いて言えば、グリップを買いに。でも目当てのものはありませんでした。実は今日、栃木ツーリングに行ってきた帰りなの。そこでついでにココへ寄った、という感じ。
──そうでしたか、お疲れさまです。良いツーリング日和でしたね。そんな花子さんにあえて聞きますが、用品店の魅力ってなんでしょう?
うーん、たぶん他の方も答えていると思うけど、やっぱり用品の知識が増えることじゃないかな。サイズ感の確認も気軽にできるし、実物が陳列されていて「これ、いいね」って思うことも多いし。あと、私はあんまりないけどこういう用品店でバイク仲間を作る人も多いみたいですね。
──やっぱり実物があるのはいいですよね。バイクの撮影をさせていただいてもよろしいですか?
いいですよ。ええと、撮りやすい場所に移動させますね……っていうか重っ!なにこれ!?
──あっ、パンクしてますよ!!
えー!?ぜんぜん気づかなかった……。どうしよう、このままじゃ帰れないな。お店にタイヤ交換お願いしよう。
───15分後
──……帰れそうですか?
作業が詰まってて、今日は交換が終わらないみたい。仕方がないからここからタクシーで帰ります……。
──心中お察しします。
でも用品店に来ててよかった(笑)。おかげですぐ整備のお願いができたんだもの。用品店のいいところを聞いてくれたけど、コレもそうかもね。
筆者の納得──図らずも用品店の価値を整備という面から教えてくれた花子さん。パンクに気づかず事故や転倒などが起きる前にタイヤ交換を行え、本当によかったと思います。
こうして聞いてみると、用品店に来ているライダーには実に様々な理由があることがわかった。思えば当然の話である。陳列されている製品の幅の広さはもちろん、整備やパーツ取り付け作業まで請け負ってくれるのだから、実に懐の広い施設である。
また、バイク好きが集まるのはもちろん、店員も当然ながらバイク愛を持ってお客さんとコミュニケーションを取ってくれる。
バイク用品店がバイクというカルチャー存続を支える重要な役割を担っていることは間違いない、そう思わされる一日だった。
レポート●緒方誠一