警察庁が発表した資料によれば、令和2年度の交通事故死者数は2839人(前年比−376人)、重傷者数2万7774人(前年比−4251人)と減っているが、一時不停止件数は160万4972件あった。前年度に比べると27万6818件も増えていることになる。
ちなみにバイクで一時不停止をした場合、自動二輪車では6000円、原付(50cc)では5000円の反則罰金と、反則点数2点が科せられる。
【参考:令和2年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について 41ページ】
バイクの一時停止違反(一時不停止)というと常々話題に挙がるのが「足を地面に着いていないことを指摘され捕まった」というもの。
この「足」というのは、両足なのか、片足なのか。もし両足を絶対着かないとダメだとしたら、シート高の高い車種に小柄な人が乗っていた場合、両足が届かないケースだってある。
いや、そもそも、本当に「足を着いたかどうか」が何らかの基準になっているのか。
そこで当記事ではバイクにおける一時停止のモヤモヤについて、元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんに聞いてみた。
一時停止は原則「車両が停止線の直前で完全に停止しているか」が基準
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──バイクの一時不停止はどのようなケースで警察は取り締まるのでしょうか?
まず、巷のウワサ、ネットやSNSなどによると「一時停止をするとき、片足ではダメ」という情報が散見されていますが、この情報は誤りです。
なぜなら、まずマニュアルトランスミッションのバイクでは、右足でリヤブレーキのブレーキペダルを操作しなくてはいけないからです。
両足を着けなければいけないとなると、リヤブレーキペダルに足が置けないことになります。
これは四輪車で言えば、停車しているときにパーキングブレーキもかけず、ブレーキペダルも踏んでいないような状態です
フロントブレーキのレバーを右手で握って停車することもできるのではないか?特にレバーでリヤブレーキを操作するスクーターならそれでもいいのではないか?と思う人もいるかもしれません。
しかしその場合、一時停止を終えた後、発進をするときには右手でフロントブレーキのレバーを解除しつつ、右手でスロットルを開けていくという操作になります。
その一時停止が坂道にあったらどうでしょうか。
「坂道発進」では徐々にブレーキを緩めながらスロットルを開けていく必要がありますが、右手だけでブレーキを緩めながら同時にスロットルを開けていくというのはかなり難しい行為です。誤って事故につながる危険性もあります。
そのため、バイクの場合、停車状態を維持するのはリヤブレーキを用いた方が安全に運転できます。
実際、自動車学校や教習所ではマニュアル車なら「左足を地面に着いて、右足はリヤブレーキに置く」と教えられるはずです。
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あるいは「右足を出すと車に轢かれる危険性があるので、右足は地面に着かない」と言われた人もいるのではないでしょうか。これはマニュアル車だろうがスクーターだろうが、区別はありません。
ここまでの説明で両足か片足かが問題ではないのがおわかりいただけたのではないかと思いますが、そもそも「足が接地しているかどうか」という点は違反を判定するにあたってのポイントになっていないのです。
一時停止違反のポイントは「車両が停止線の直前で完全に停止しているか」に尽きます。
なお「片足でも地面についていればいいのだろう」という思い込みがあるのか、片足で地面を一瞬蹴るようにして、ちゃんと停止せずに通り抜けてしまう様子を見かけることがありますが、「足が接地したか」は違反を見極めるポイントになりません。
完全に一時停止していなければ取り締まりを受けることになるでしょう。
とはいえ、かなり減速した状態になるので、ライダー本人は「止まった」と勘違いしているかもしれません。
しかし、その様子を周りから観察していると、とても「止まった」とは言えないくらい鮮やかに通り抜けているケースが大半ですね。
取締中の警察官がいたら片足を地面に着いている様子を見せるべき?
──バイクの運転が上手い人、バランス感覚に優れる人なら、両足をステップに乗せたまま足を着かずにバランスよく止まることができるかもしれません。また一部の三輪バイクなら、足を着かずに停車することができます。これらも違反となりますか?
これも「片足・両足の区別はなく、足が接地したかどうか」で違反の成否を判定しているわけではありません。
すると「両足とも接地していない」という場合でも、完全停止していれば違反にはならないと解釈できます。
確かに、上手くバランスを取れば両足ともに接地していなくても完全停止することは可能だと思います。
現場の警察官も、完全停止さえしていれば両足が接地していないことだけを理由に違反にすることはないでしょう。
ただし、取り締まりをしている警察官に向かって確実に「止まった」とアピールするには、やはり片足だけでも接地したほうが賢明です。
現職時代、一時停止の取り締まりで交差点を監視していると、一時停止したうえでこちらのほうを見ながら左足を「ドンドン」と2回ほど踏みつけてアピールしてきたライダーがいました。
そこまで極端なことをする必要はありませんが、惰力が残っている間は「完全停止した」とはいえないので、片足だけでも接地するようにしましょう。
横断歩道を通るときは「歩行者の横断を妨害したか」がポイント
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一時停止といえば、ほかにも注意するべきポイントがあります。
それが、歩行者や自転車が通る横断歩道で、道を譲られるケース。原則、歩行者や自転車がいた場合一時停止をしないといけませんが、彼らから道を譲られたらそのまま進んでもいいのでしょうか?
引き続き、鷹橋さんに聞いてみました。
──道を譲られたら「ありがとう」と思って、ついつい進んでしまいそうな気もしますが……そうした場合も違反になるのでしょうか?
歩行者妨害の判定ポイントは「歩行者の横断を妨害したか」が重要です。
道路交通法第38条1項は「横断歩道等によりその進路の前方を横断し、または横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない」と定めています。
これが「歩行者妨害」と呼ばれる違反の根拠規定です。
条文で示されているとおり「横断しようとしている歩行者または自転車があるとき」に一時停止をせず歩行者の通行を妨害した場合に成立する違反なので、歩行者が横断をやめて「どうぞ」と譲っている場合は違反にはなりません。
ただし、歩行者や自転車がいないことが明らかな場合を除いて、クルマやバイクなどは前提として「横断歩道の直前で停止できる速度」で進行しなければなりません。
歩行者が「どうぞ」とジェスチャーを送ったからといってスパッと気持ちよく通り抜けたりすれば、交通違反となる可能性があります。
──警察官が一時停止を見ていたとしても、防犯カメラなどがなければ証明することは不可能に近いはずです。そういったとき、どのような方法で警察官らは取り締まるのでしょうか?
警察官が「見ていた」という事実は、報告書などの書類とあわせて警察官本人が裁判官の前で宣誓したうえで「確かにその状況を見た」と述べることで証明されます。
ただし、ここまでの段階に至るケースはわずかであり、実際には警察官の現認だけを理由に切符処理されてしまうのが一般的です。
「証拠があるのか?」と詰め寄っても「複数の警察官が見ていた」という答えが返ってくるだけでしょう。
また最近では、取り締まりに従事している警察官がビデオカメラを常備して違反状況を撮影していることもあるので「証拠を出せ!」と凄んでも返り討ちにあってしまうかもしれません。
監修●鷹橋 公宣 まとめ●モーサイ編集部・小泉元暉
![鷹橋公宣](https://mc-web.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/11/takahashi_kiminori-150x150.jpg)
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。