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尾崎 豊「15の夜」のように、未成年がバイクを盗んだら……
ミュージシャン・尾崎 豊さんが1983年に出したデビューシングルで大ヒットとなった「15の夜」という曲がある。
歌詞には『15の夜 盗んだバイクで走り出す 行く先も解らぬまま』と、15歳の若者がバイクを盗む様子があるほか、校舎裏でタバコをふかすなど、反抗的な少年の姿が描かれている。
70年代末〜80年代は校内暴力が吹き荒れた時代でもあり、「15の夜」にはそういった生々しさがある。
また、歌詞の中に出てくる「盗んだバイク」は原付スクーターだったという説もあるが、当時の原付スクーターはハンドルロックやキーシャッターなど盗難防止機構がなかったので、現代と比べるとバイクが盗みやすかったという背景もあっただろう。
しかし、「若気の至り」だったとしても、バイクを盗まれた側からしたらたまったものではない。では今日、15歳の未成年者がバイクを盗むとどんな罪に問われるのだろうか。
バイクを盗むためには、他人の敷地に不法侵入し、防犯チェーンなどがあればそれを壊していることだろう。その上、原付免許は16歳からしか取得できないので、当然無免許運転だ。
そうした状況を仮定し、刑事事件や交通事故に詳しい坂口 靖弁護士に話を聞いてみた。
結論「少年事件として処理され保護処分となる」
──15歳の未成年者がバイクを盗むと、一体どのような罪に問われるのでしょうか?
成立する犯罪としては、バイクを盗んだのですから、窃盗罪(刑法235条、10年以下の懲役等)が成立します。
また、無免許運転をしていれば当然のごとく道路交通法違反(無免許運転)罪(道交法117条の3の2、2年以下の懲役等)も成立します。
バイクを盗む際、他人の敷地内に侵入していれば住居侵入罪等が成立します(刑法130条、3年以下の懲役等)。
バイクを盗む際、バイクの鍵を損壊した場合には、器物損壊罪(刑法261条3年以下の懲役等)も成立する可能性はありますが、あくまでバイクを盗む目的で鍵を損壊したということになりますので、窃盗罪と別に器物損壊罪の罪に問われるということは基本的には無いかと思われます。
以上のような罪が成立し、それらも重畳的に罪が成立する可能性もありますが、15歳の未成年の場合、少年事件として処理されることとなるため、保護処分に付されることになり、懲役刑等の有罪判決を受けることは基本的にありません。
ただし、犯罪行為に至っている以上、罪証隠滅の恐れ等があれば逮捕勾留(最大23日間)されることは十分にあり得ます。そして、逮捕勾留期間経過後、鑑別所(4週間程度)に収容されることが予想されます。
その後、鑑別所の収容期間最終週に少年審判が実施され、不処分、保護観察処分、少年院送致のいずれかの処分が下されることになります。
前述のような住居侵入罪、窃盗罪、道路交通法違反、器物損壊罪等が仮に全て成立するような状況であったとしても、前記のような処分のいずれかになるものと思われます。当然、犯罪数が増え、その内容が悪質であればあるだけ少年院入所となる可能性が高まります。
なお、少年院は基本的に1年間程度になるものですが、15歳だとそれよりも短く6ヵ月程度となるケースも多いように思われます。
また、仮に、同種前歴が多かったような場合であっとしても、15歳であるならば、大人と同じような刑罰に付されることは基本的には無いと思われます。
バイクを壊された場合は修理代を請求できるのか?
──仮にバイクを盗んだ少年が逮捕され、バイクが返却されたとします。しかし、返却されたバイクがボロボロになっていて修理する必要がある場合、相手方に修理代などを請求することはできるのでしょうか?
盗まれたバイクが傷ついたり壊されるなどして修理が必要な場合は、当然その修理費用相当額等を相手の未成年者に対し、損害賠償請求(民法709条)をすることができます。
しかし、未成年者の場合、資力がありませんので、民事裁判等で勝ったとしても、未成年者からお金を回収することが実際はできないことがほとんどです。
したがって、現実的に弁償をさせるには、親権者に対し、親権者の責任追及(民法714条)として、損害賠償請求をすることとなります。
この請求が認められるか否かは、その親権者の未成年者に対する具体的な監督状況に落ち度があるか否かによって変わってきますが、15歳の場合、親権者に対する損害賠償請求も認められる可能性はあるように思われます
このように、15歳等の未成年者による犯罪行為で被害を受けた場合には、その親権者の責任を追及することの方が現実的かと思われます。
バイク盗難被害にあったら「とにかく警察に被害届を提出すること」
──防犯カメラなどがなければ基本的にバイクを取り返すことは不可能でしょうか?
すぐに乗り捨てされてしまった等の場合には、防犯カメラが無いと犯人を特定できないということも多いかとは思います。
しかし、被害届を提出した場合(現代では)警察は近隣のコンビニなどの防犯カメラなども確認したりしますので、犯人が特定できる場合もあり得ます。
したがって、被害を受けた場合は、必ず被害届を提出することが重要です。逆に、防犯カメラを設置していたとしても自身で犯人を捜すことは不可能に近いですし、危険も伴います。
防犯カメラを設置していた場合であっても、警察に捜査を委ねるしか犯人を特定することは不可能であると考えた方が良いかと思います。
ただし警察においても、防犯カメラ映像があった方がより一層犯人と特定する可能性が高まるので、大事なバイクを守るためにも、防犯カメラ等の設置は望ましいとは思います。
監修●坂口 靖 まとめ●モーサイ編集部・小泉
■坂口 靖(さかぐち やすし)
大学卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」などのラジオ番組制作業務に従事。28歳のとき弁護士を目指し、3年の期間を経て旧司法試験に合格。
1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当する。
以後、弁護士としてさまざまな刑事事件に携わり、YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」でも活動中。
事務所名:佐野総合法律事務所