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日本最大の二輪車ショー『東京モーターサイクルショー』。2025年は3月28日(金)〜30日(日)の開催で、中日が雨天だったにもかかわらず、3日間の入場者数は前年比104.3%となる11万3905人となり、盛況のうちに終わった。
新型コロナ禍で国内のバイク販売台数は40万台まで伸びたものの、2024年はそれを割り込み、バイク需要の一時的なピークは過ぎたと見受けられるが、東京モーターサイクルショーの入場者数が伸びたことは明るいトピックだ。
東京モーターサイクルショーの会場は例年どおり東京ビッグサイトだったが、これまで使用してきた西展示棟が改装工事中のため、2025年は東展示場での開催だった。そのため面積は少々狭くなったが、それでいて入場者数は増えたこともあって、会場の熱気はいっそう高まっているように感じた。
国内4メーカーのニューモデルをはじめ、ギアやパーツ、アクセサリーなど見所は盛りだくさんだったが、それについては他の記事に譲り、ここでは中国のバイクメーカーに焦点を当てる。
中国「QJモーター」は、小排気量スクーターから1000ccスポーツ車までを揃えるフルラインアップメーカー
ブース規模は国内4メーカーに匹敵せんばかり、モデル展示数も多く、ひときわ目立っていたのが『QJモーター』だ。QJモーターは2025年から日本法人を設立し、2月より『QJモータージャパン』として、小排気量ロードスポーツ車を中心とした8モデルの販売を開始している。
しかし東京モーターサイクルショーで展示されたのは何と18モデルで、国内未発売のフルカウルスポーツ、中~大排気量モデルも展示した。現段階では発売予定だったり国内発売未定となっているが、ショーでの反応次第で発売が決定されるものもあるだろう。



QJモータージャパンのブースは、東京モーターサイクルショー会場の中央にあり、来場者の誰もがその存在に気が付くほどだった。これは毎年11月にイタリア・ミラノで開催される世界最大級の二輪車ショー『EICMA』(通称ミラノショー)とも同じ手法で、東京モーターサイクルショーの数倍規模のEICMAにおいても、やはり誰もがその存在の強さを感じさせられる。
しかし日本ではまだQJモーターの認知度は高いといえない状況だ。だからこそこれほどの規模のブースで18モデルもの展示を行ったのだろう。では、ここで簡単にQJモーターのあらましを紹介しておく。
QJモーターは1985年に銭江(チェンジャン)モーターサイクルとして創業し、1999年には株式公開、2000年には生産台数通算100万台突破と急成長を遂げてきた車両/エンジンメーカーだ。
2005年にはイタリアの伝統的ブランド『ベネリ』を傘下に収め、2019年にはハーレーダビッドソンと提携。2020年にはブランド名を『QJモーター』としてグローバル戦略を強化する。
さらにMVアグスタ、マルゾッキ(イタリアのサスペンションメーカー)ともパートナーシップを結んだほか、2022年にはMoto3、2024年にはMoto2とSSP(スーパーストック世界選手権)のほか、SBK(スーパーバイク世界選手権)に参戦するほどの実力を持っている。
東京モーターサイクルショーで展示されたのは18モデルだが、グローバル展開しているモデル総数は120を超える。ラインアップは小排気量スクーターから大排気量スーパースポーツ、アドベンチャーツアラー、電動バイク、ATV(四輪バギー)まで幅広く、製造していないのはモトクロッサーなどの競技用車両くらいだ。
QJモーターの公式ウェブサイトによれば、中国市場では2012~2023年までの12年間、250cc以上のカテゴリーで販売台数1位を記録し、現在では150カ国以上の地域で3000万台、3000もの販売店を抱える。つまるところ、現在日本で販売しているモデルはもちろん、東京モーターサイクルショーで展示したものもすべて、さらなるグローバル展開の小手調べにすぎないのだ。


世界的に見ると日本市場は超小規模…ヨーロッパでは地位を築くも、アジアメーカーが日本進出する旨味はこれまで無かった!?
中国メーカーはQJモーターだけではない。すでに国内販売を開始している『CFMOTO』と『KOVE(コーベ)』もブースは小さいながら東京モーターサイクルショに出展し、存在感をアピールしていた。どちらのメーカーも、EICMAではQJモーターさながらの大きなブースを出展しており、意欲的なプロトタイプだったり、世界一過酷なダカールラリーを完走したラリーマシンを展示している。中国国内はもちろんヨーロッパでも認知されているメーカーだ。
しかし、いずれのメーカーも日本ではまだほとんど知られていない。その理由の一因は、グローバル市場における日本市場の小ささにある。
ヤマハ発動機の2024年アニュアルレポート(株主や投資家らに向けて財務状況などを説明するための報告書)によれば、ランドモビリティ(電動アシスト自転車を含む二輪車全般)の国内と海外の売上高(2023年12月期)は、国内667億円に対して海外1兆5151億円だ。つまりグローバル市場における日本市場の割合は、わずか4.2%しかない。
また、ホンダのアニュアルレポートによれば、2024年3月期の世界販売台数実績は1889万台で、そのうち日本をのぞくアジアにおける台数は1600万台を占める(ちなみに日本は24万台)。次いで南米を中心とした地域の162万台となっている。この数字が示すのは、中国、ASEAN諸国、インドでのバイク需要の高さと市場規模の大きさだ。
なかでも中国とインドの市場は群を抜いて大きく、『世界二輪車統計年刊2024』(FOURIN)によれば、2023年の販売台数は中国が1800万台、インドが1700万台だという。一方、日本自動車工業会(自工会)によれば、同年の日本の販売台数は41万台だ。ちなみに、全盛期といわれる第二次バイクブームの1982年でさえ327万台がピークで、中国やインドにはまったく及ばない。
グローバル市場における日本市場の割合は、メーカーや調査元の統計などによってばらつきがあるものの、おおよそ2~5%といえる。4メーカーの本拠地であり、バイク文化も熟成している日本ではあるが、実利としてのうまみはそれに比例しないのが現状だ。しかも4メーカーへ対するユーザーの信頼度やブランド力が強いため、海外メーカーが販売実績を上げることは容易でない。中国やインドだけでなく、欧米のバイクメーカーにとっても日本はそういう市場なのだ。
だからこそ中国やインドのメーカーはこれまで日本に進出してこなかったのだろうし、この先もしばらくはそれが続くはずだ。そんな中、QJモーターが東京モーターサイクルショーで存在感を誇示したのは、2024年のEICMAでメディア向けに配布した資料にある「From ‘Chinese Leader’ to ‘World Leader’(中国から世界のリーダーへ)」という言葉に象徴されるように、日本4メーカーに対する狼煙であり、日本のバイクユーザーへの強いアピールだろう。
CFMOTOは675ccスーパースポーツと450ccアドベンチャーを、KOVEは800ccラリーモデルを東京モーターサイクルショーに展示



ブランド志向が薄れている若い世代に、例えばQJモーターはどう映るか
近年はヨーロッパやアメリカの車両メーカーが、アジア生産することで車両価格を抑えた小~中排気量モデルをラインアップしていること、ならびに国産車の車両価格が上がってきたこともあり、国産車と輸入車の価格差は縮まった。「国産車は安くて、外車は高い」という図式は崩れつつある。
そうした背景もあって、特に若い世代では国産車と輸入車をあまり意識しない傾向が強まっている。これは「失われた30年」といわれる長引く不況の影響も強く、コストパフォーマンス重視の風潮が追い風になっているだろう。メーカーやブランドへのこだわりが希薄になっている。国産であることの優位性や中国製に対するネガティブなイメージも少ない。スタイルが格好よければ買うし、コストパフォーマンスがよければなおのことだ。
もっとも、本来コストパフォーマンスとは、製品価格が安いというだけではなくそれ以上の利用価値があるものをいうのだが、「コスパ」という言葉にはその意味が欠けている。
1950~1970年代に、日本4メーカーがヨーロッパやアメリカを圧倒して世界のトップメーカーとなれたのは「安くて速くて、壊れない」からだった。まさしくコストパフォーマンスに優れていたのだ。
しかし現代では以前ほどそうした要素は重視されなくなっている。もちろんこれは一般的な見方であって、安くて速くて壊れないに越したことはないし、それこそが重要と考えるメーカーもユーザーもいる。だが、計画的陳腐化というビジネスモデルがあるとおり、製品はある程度の使用頻度と期間で壊れてこそ、消費者は新しい製品を購入する。
また、改良されて高性能化された新製品こそ最良、という考え方もある。これらはとくに経済が著しく成長している地域、そして心も体も成長中の若い世代で顕著になる傾向がある。
いずれにせよ、世界トップを目指す中国生まれのメーカーが堂々と乗り込んできた意義は大きく、そして強い力を持っている。東京モーターサイクルショーにおけるQJモーターの巨大ブースは、日本のバイク業界にとっては黒船襲来であり、行く末を左右する大きな節目になることはまちがいないだろう。
レポート●山下 剛 写真●小見哲彦/QJモーター/EICMA/モーサイ編集部