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アジア圏のバイクというと、旧態依然とした空冷エンジンの小排気量車・スクーターばかり……そんなイメージを抱いている人が多いかもしれないが、そうした時代は終わりかもしれない。
日本メーカーのバイクは性能と品質がよく、価格のバランスもいい。それは確かな事実で、ゆえに世界をリードする4メーカーとなった。しかし、世界最大級の二輪モーターショー「EICMA」(*)の会場を見てみると、今やアジア圏のメーカーが凄まじい勢いで進化していることがわかる。というわけで、当記事ではインド、台湾、韓国のバイクメーカーの最新事情をレポートしていこう。
編集部註:「EICMA」とはEsposizione Internazionale Ciclo Motociclo e Accessoriの略で、モーターサイクルとアクセサリーの国際見本市の意。イタリア・ミラノで例年11月に開催され、通称「ミラノショー」とも呼ばれる。見本市という性格から、コンセプトモデルなどより、実際に市販される新型車の発表や展示が多い。
インドのHERO(ヒーロー)は、水冷エンジンのフルカウルスポーツや油冷エンジンのデュアルパーパス車を披露
「HERO Moto Corp」(ヒーローモトコープ)は、インドのニューデリーに本社をおく大手メーカーだ。1984年にホンダと合弁会社を設立、技術提携してきたが、その後合弁を解消して単独メーカーとなっている。インドにおけるシェアもトップクラスで、レース活動にも積極的。2016年からダカールラリーに参戦し、2024年はホンダで活躍したライダー、ジョアン・バレーダ選手が加入してダカールでの勝利を目指す。

ハーレーダビッドソンの小排気量モデルもOEM生産を行っており、440cc空油冷単気筒エンジンを搭載するストリートスクランブラー「X440」をインドで発売。現地では1日で2万5000台もの注文が入ったという!
なおX440はグローバルモデルで順次販売地域を拡大していくという。

さて、ここからはヒーロー独自のモデルを紹介。ヒーローは今のところ輸入元がなく日本未上陸なだけに、実車を見る機会がない貴重なバイクだ。
「コンセプト 2.5R XTunt」は、スタント(エクストリーム)をモチーフとしたストリートバイクで、トレリスフレームに水冷単気筒エンジンを搭載する。

「XPULSE 4V PRO 250」は市販間近のニューモデルで、最高出力19psの199cc油冷単気筒エンジンを搭載するデュアルパーパス。装備重量161kgと軽量なところが魅力。前後サスペンションはフルアジャスタブルとのこと。

「XMR 210」も発売間近のモデルで、210cc水冷単気筒DOHC4バルブエンジンをスチール製トレリスフレームに搭載するフルカウルロードスポーツ。こちらも装備重量163.5kgと軽量だ。

「HUNK 150 XTEC」は145cc空冷単気筒エンジンを搭載するシンプルなストリートバイク。多彩なインドのバイク市場を垣間見ることができる展示内容だった。

台湾のKYMCO(キムコ)は、アドベンチャースタイルの575ccスクーターを世界初公開
日本でもおなじみのスクーターを得意とする台湾メーカー「KYMCO」(キムコ)は、アドベンチャーモデルとマキシスクーターを融合させた「CV-L6」を初公開した。
アドベンチャーと謳ってはいるが、アーバンな雰囲気も色濃いデザインが特徴。とくにフロントカウル周辺の軽快感が目を引くスクーターだ。エンジンは575cc並列2気筒DOHC4バルブで、最高出力51ps。GIVI製アルミケースをフル装備した姿が勇壮だ。



そして、もう1台「スカイタウン」を世界初公開。特許取得済みのテクノロジーを採用したエンジンは燃焼効率、パフォーマンス、耐久性を大きく向上。排気量は125ccと150ccがあり、乾燥重量は117.5kgと軽い。125ccはCBS(前後連動ブレーキ)、150ccはABSを備える。ホンダ PCXやヤマハNMAXの市場を狙うか。

また、日本では販売終了となった550cc並列2気筒のスポーティスクーターAK550は「AKプレミアム」として台湾やヨーロッパなどで健在。6軸IMUによるコーナリングABS、トラクションコントロール、2種のパワーモード、電動調整式スクリーンなどを備え、51psのパワーを安心して使える。

一方、キムコは電動スクーターにも力を入れている。日本でもGachaco(ガチャコ)による電動バイクバッテリー交換ステーションが稼働開始となっているが、台湾ではキムコが独自規格のバッテリーステーション「iONEX」(アイオネックス)を展開中。2023年11月時点で、台湾に2873ヵ所のバッテリー交換ステーションが稼働している。

台湾のSYM(エスワイエム)はフラッグシップとなる400ccスクーターを世界初公開
「SYM」(エスワイエム)は台湾の車両メーカーで、スクーターを中心としつつ、モーターサイクルも生産している。日本へはモータリストが輸入元となり、小排気量スクーターや125cc/200ccのスポーツモデルを販売中。
ここではブランニュースクーターと日本未導入のスクーターを紹介しよう。
世界初公開の「ADXTG 400」は、SYMのフラッグシップとなるアドベンチャースクーターだ。デザインモチーフは1万年前に絶滅したとされるサーベルタイガーという勇猛な造形が特徴だ。搭載されるエンジンは399cc水冷単気筒OHCで、最高出力37ps。ホイール径はフロント15インチ、リヤ14インチで、「オフロードモード」のあるABSが搭載される。



「CRUiSYM」(クルージム)はモデルチェンジして再登場したスクーターで、125ccと300ccを揃える。どちらも水冷単気筒OHC4バルブエンジンで、ホイール径はフロント14インチ、リヤ13インチ。スマートキーを装備する。



韓国・HYOSUNG(ヒョースン)の日本未導入モデルを紹介
韓国のバイクメーカー「HYOSUNG」(ヒョースン)。日本には2023年時点で、125cc水冷V型2気筒「GV125Sボバー」、250cc空油冷V型2気筒「GV250DRAストリートクルーザー」、300cc水冷V型2気筒「GV300Sボバー」のクルーザーモデル3機種が導入されている。
EICMA2023では日本未導入モデルの「GV350-2」を発見。アメリカンクルーザーながらもドラッグスタイルでまとめたニューモデルで、339cc水冷75度V型2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載する。
「GV300Sボバー」の300cc60度V型2気筒とはまったく別物のエンジンで、最高出力は32ps。装備重量は172kgと比較的軽く、1540mmという長いホイールベースからもどこまでも続くストレートを堂々と、悠々と走りたくなるクルーザーに仕上がっていそうだ。

レポート&写真●山下 剛 編集●上野茂岐