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ホンダ・ズーク【1990年2月19日発売】その大特長は、「ヘンテコリン」で「メット・オン」
車体の前後からニョッキっと生えた2本の棒。これだけで相当個性的だが、ジャンルはやはりスクーター? ホンダはこれを原付タウンビークルとうたったが、二輪車の原点に立ち返り「乗って楽しく」「見て楽しく」を追求したのだとか。スケートボードをイメージさせるステップボードのようなボディの後部から生える自転車用サドルのようなシートは、2段階の高さ調整ができ、降車時はこのサドルにヘルメットを被せて付属ホルダーにロックというように、メットインじゃなくてメットオン。
背筋をピーンと伸ばし、なかなかに後ろ乗りの特徴的なライディングポジションだが、意外とウイリーとかしやすかったのか? 確認したくても残存車はかなり少ない。
車名は「~の傾向が生じる」といった意味の(~ずく)、ズック(スニーカー)のように走れる乗り物のイメージに由来する造語だというが、タイヤ溝のパターンは靴底の形をイメージしたものを採用。「このタイヤ、今でも手に入るのだろうかと」オーナーでもないのに意味のない興味が湧いた。
この後ホンダは、2000年代に入って同種のにおいを感じさせる、カジュアルでちょっとヘンテコリンなモデル群を投入。若者のライフスタイルに合う新しいバイクを開発すべく誕生したNプロジェクトから5モデルがリリースされたが、中でもバイトはズークの記憶を思い起こさせる造形だった。
■主要諸元
エンジン:空冷2ストローク単気筒クランクケースリードバルブ 排気量49cc
性能:最高出力3.3ps/6000rpm 最大トルク0.45kgm/4500rpm
寸法・重量:全長1400 全幅545 全高1015 軸距1030mm 車両重量43kg
変速機:無段変速(オートマチック)
当時価格:8万9000円
スズキ・アクロス(Across)【1990年4月16日発売】根強く生き残ったメットイン・ロードスポーツ
1989年の東京モーターショーに出展されたスズキのコンセプトモデルX913を市販化した、異色の250ccスポーツがアクロス。大きな特徴は、従来のタンク位置に設けられた25L容量のメットインスペース。スクーターにメットインが普及した時期ゆえに、スポーツバイクにだってあって良かろうという発想は納得できる。
実際、こうしたメットインロードスポーツはアクロスのみならず、後のホンダのNCシリーズも同様。そしてBMWもF650CSスカーバーで似た方式を採用しているから、国際的にも認められたようなもの!?
ただし、燃料をエンジン上の従来の位置から別の場所に移す発想は、マスの集中化や給油口の位置の問題もあって、やはり主流にはなれないのかとも感じられる。ちなみアクロスのタンクはシート下、給油口はテールカウル部。タンク容量に制約を受けること(容量は12L)やメンテナンスのしにくさもあって、やはり主流にはなれなかったものの、1990年のデビュー以来1998年までラインナップされたのだから意外と長寿。キャッチフレーズはアーバンスポーツマシンだった。
■フルフェイスヘルメット1個を収納可能な25L容量の通常タンク位置のトランクスペースは、イグニッションをOPENの位置にひねってフタを開ける電磁ロック式。テールカウルエンドの給油用リッドは、カウル横のボタンを押して開ける電磁ロック式。
■主要諸元
エンジン:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ 排気量248cc
性能:最高出力45ps/1万4500rpm 最大トルク2.6kgm/1万500rpm
寸法・重量:全長2020 全幅695 全高1120 軸距1380 乾燥重量159kg
変速機:6段リターン
当時価格:54万5000円
ホンダ・パシフィックコースト【1990年11月19日発売】バイクらしさを主張しないフルカバードツアラー
カテゴリーは大型ツーリングモデル。一見すると上級機種のゴールドウイング(当時はGL1500)の雰囲気が漂うものの、個性的なフルカバーボディが車体全体を覆う度合いはGLの兄貴以上。V型2気筒800ccエンジンは気筒当たり3バルブ・2プラグ方式とホンダらしい凝りようで、油圧式オートバルブクリアランスアジャスタを装備。駆動もメンテナンスフリー化をねらったシャフトドライブ。
ボディ後部に左右にヘルメット2個が収納可能なリアトランクスペースを装備するが、その開閉も独特。リヤシートと一体になった左右トランクのフタ(カバー)を前側にパカッと持ち上げて開ける感じは、まさに乗用車のトランクみたい。そしてシート下に配置した燃料タンクへは、ライダーの前にあるボディのリッドをパカッと開けて給油口にアクセス。
低重心化とエンジンの静粛性を重視し、バイクのむき出し感を完全否定した感じが同車の特徴。そしてインボードディスクを思わせるカバーを持つ前ブレーキは、単にカバーされた通常のディスク。ここまでカバーにこだわると整備は面倒そうだが、そのためにかメンテフリーにこだわる心意気も各部から伝わる。だが、大型ツーリングを謳いながら意外とタンク容量が少ない(16L)ほか、整備屋泣かせの徹底したフルカバーを支持する層はさほどいなかったようで……。1995年のマイナーチェンジ後に、徐々に市場からフェードアウトしていった。
手を汚さない雰囲気で、メカメカしさを出さないモデルは、その後も数モデルか登場したが、ビッグスクーターブームの到来とともに、徐々にその存在価値が薄まった感もある。
■主要諸元
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒OHC3バルブ 排気量800cc
性能:最高出力56ps/6500rpm 最大トルク6.7kgm/5500rpm
寸法・重量:全長2285 全幅910 全高1360 軸距1550 車両重量286kg
変速機:5段リターン
価格:89万9000円
文●モーサイ編集部・阪本 写真&資料●ホンダ、スズキ