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トレンドに乗らなかったけれど……1990年の「プチ・エポックメイク」な国産モデル3選【ズーク/アクロス/パシフィックコースト】

ホンダ・ズーク【1990年2月19日発売】その大特長は、「ヘンテコリン」で「メット・オン」

1990年2月発売のzook(ズーク)

車体の前後からニョッキっと生えた2本の棒。これだけで相当個性的だが、ジャンルはやはりスクーター? ホンダはこれを原付タウンビークルとうたったが、二輪車の原点に立ち返り「乗って楽しく」「見て楽しく」を追求したのだとか。スケートボードをイメージさせるステップボードのようなボディの後部から生える自転車用サドルのようなシートは、2段階の高さ調整ができ、降車時はこのサドルにヘルメットを被せて付属ホルダーにロックというように、メットインじゃなくてメットオン。

背筋をピーンと伸ばし、なかなかに後ろ乗りの特徴的なライディングポジションだが、意外とウイリーとかしやすかったのか? 確認したくても残存車はかなり少ない。

車名は「~の傾向が生じる」といった意味の(~ずく)、ズック(スニーカー)のように走れる乗り物のイメージに由来する造語だというが、タイヤ溝のパターンは靴底の形をイメージしたものを採用。「このタイヤ、今でも手に入るのだろうかと」オーナーでもないのに意味のない興味が湧いた。

この後ホンダは、2000年代に入って同種のにおいを感じさせる、カジュアルでちょっとヘンテコリンなモデル群を投入。若者のライフスタイルに合う新しいバイクを開発すべく誕生したNプロジェクトから5モデルがリリースされたが、中でもバイトはズークの記憶を思い起こさせる造形だった。

1990年2月の新発売時のカタログには、所ジョージが登場
カタログ内写真の下段右、靴の足型を模したパターンのタイヤは、もちろん専用だろう
2002年1月に発売のBite(バイト)は、ズークの雰囲気を漂わすNプロジェクト第3弾のスタイリッシュスクーター。当時価格は17万9000円。

■主要諸元
エンジン:空冷2ストローク単気筒クランクケースリードバルブ 排気量49cc
性能:最高出力3.3ps/6000rpm 最大トルク0.45kgm/4500rpm
寸法・重量:全長1400 全幅545 全高1015 軸距1030mm 車両重量43kg
変速機:無段変速(オートマチック)
当時価格:8万9000円

スズキ・アクロス(Across)【1990年4月16日発売】根強く生き残ったメットイン・ロードスポーツ

1990年4月発売の異色の250ccロードスポーツACROSS(アクロス)

1989年の東京モーターショーに出展されたスズキのコンセプトモデルX913を市販化した、異色の250ccスポーツがアクロス。大きな特徴は、従来のタンク位置に設けられた25L容量のメットインスペース。スクーターにメットインが普及した時期ゆえに、スポーツバイクにだってあって良かろうという発想は納得できる。

実際、こうしたメットインロードスポーツはアクロスのみならず、後のホンダのNCシリーズも同様。そしてBMWもF650CSスカーバーで似た方式を採用しているから、国際的にも認められたようなもの!?

ただし、燃料をエンジン上の従来の位置から別の場所に移す発想は、マスの集中化や給油口の位置の問題もあって、やはり主流にはなれないのかとも感じられる。ちなみアクロスのタンクはシート下、給油口はテールカウル部。タンク容量に制約を受けること(容量は12L)やメンテナンスのしにくさもあって、やはり主流にはなれなかったものの、1990年のデビュー以来1998年までラインナップされたのだから意外と長寿。キャッチフレーズはアーバンスポーツマシンだった。

アクロスの特徴を紹介するカタログ部分

■フルフェイスヘルメット1個を収納可能な25L容量の通常タンク位置のトランクスペースは、イグニッションをOPENの位置にひねってフタを開ける電磁ロック式。テールカウルエンドの給油用リッドは、カウル横のボタンを押して開ける電磁ロック式。

■主要諸元
エンジン:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ 排気量248cc 
性能:最高出力45ps/1万4500rpm 最大トルク2.6kgm/1万500rpm
寸法・重量:全長2020 全幅695 全高1120 軸距1380 乾燥重量159kg
変速機:6段リターン
当時価格:54万5000円

ホンダ・パシフィックコースト【1990年11月19日発売】バイクらしさを主張しないフルカバードツアラー

1990年11月発売のパシフィックコースト

カテゴリーは大型ツーリングモデル。一見すると上級機種のゴールドウイング(当時はGL1500)の雰囲気が漂うものの、個性的なフルカバーボディが車体全体を覆う度合いはGLの兄貴以上。V型2気筒800ccエンジンは気筒当たり3バルブ・2プラグ方式とホンダらしい凝りようで、油圧式オートバルブクリアランスアジャスタを装備。駆動もメンテナンスフリー化をねらったシャフトドライブ。

ボディ後部に左右にヘルメット2個が収納可能なリアトランクスペースを装備するが、その開閉も独特。リヤシートと一体になった左右トランクのフタ(カバー)を前側にパカッと持ち上げて開ける感じは、まさに乗用車のトランクみたい。そしてシート下に配置した燃料タンクへは、ライダーの前にあるボディのリッドをパカッと開けて給油口にアクセス。

低重心化とエンジンの静粛性を重視し、バイクのむき出し感を完全否定した感じが同車の特徴。そしてインボードディスクを思わせるカバーを持つ前ブレーキは、単にカバーされた通常のディスク。ここまでカバーにこだわると整備は面倒そうだが、そのためにかメンテフリーにこだわる心意気も各部から伝わる。だが、大型ツーリングを謳いながら意外とタンク容量が少ない(16L)ほか、整備屋泣かせの徹底したフルカバーを支持する層はさほどいなかったようで……。1995年のマイナーチェンジ後に、徐々に市場からフェードアウトしていった。

手を汚さない雰囲気で、メカメカしさを出さないモデルは、その後も数モデルか登場したが、ビッグスクーターブームの到来とともに、徐々にその存在価値が薄まった感もある。

スーパースポーツ隆盛の時期、今はバイクを降りてしまった普通の人々に再度ライダーへ復帰してもらおうと、北米市場向けに企画された同車は同年末に日本でも需要を探るべく投入された
あえてメカくささを出さないフルカバードボディが特徴。リヤシートと左右の収納部カバーが一体で後部が持ち上がって開くトランクが斬新。

■主要諸元
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒OHC3バルブ 排気量800cc
性能:最高出力56ps/6500rpm 最大トルク6.7kgm/5500rpm
寸法・重量:全長2285 全幅910 全高1360 軸距1550 車両重量286kg
変速機:5段リターン
価格:89万9000円

文●モーサイ編集部・阪本  写真&資料●ホンダ、スズキ

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