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【元警察官】が先輩OBに取材!「2001年広島、本気の暴走族取締りはスゴかった」…パトカーぶつけて止めたってホント?

■暴走族取締り イメージ

暴走族にパトカーをぶつけて止める?警察の本気モードがすごかった!

今年も正月恒例となっている暴走族・旧車會の取締りが全国でおこなわれました。全盛期と比べれば活動は下火になっていますが、新年早々に摘発されたグループもいます。
しかし、警察に対する世間の評価は決して高くありません。「手ぬるい」「もっと厳しくしないと意味がない」といった意見が目立ちます。
実際のところ、警察の暴走族取締りはどこか遠慮がちに感じられるかもしれませんが、では警察が本気になったらどうなるのでしょうか? 実は、過去に広島県で警察が組織をあげて本気モードになって暴走族グループと対峙したことがありました。
当時のことを知る警察OBにも話を聞きながら、本気の暴走族取締りを振り返っていきます。

1990年代の広島は暴走族で荒れていた

昔から任侠モノの映画作品などでもたびたび登場していた街であった広島は、暴走族のメッカでもありました。市内中心部の繁華街である八丁堀エリアでは、女性をナンパするためにクルマがグルグルと同エリアを周回する「八丁左回り」という悪習が存在していましたが、暴走族も人目を集めるために八丁堀エリアに集まっていたそうです。
ピーク時の1999年には警察が把握しているだけでも44グループ・約400人の暴走族が活動しており、バイクの爆音や迷惑行為に市民からの苦情が絶えない街でした。この年、秋に市内中心部で商売繁盛を祈って開催される「えびす講」という祭りで、集まっていた暴走族グループと警察の機動隊が衝突し、3日間で45人、その後も35人が逮捕されるという事件が発生します。
当時、広島の暴走族は「バイクで暴走行為をする」というだけでなく、一般市民への恐喝、窃盗など、犯罪行為を繰り返すギャングのような存在でした。彼らのバックには、グループの面倒をみる暴力団組織が存在しており、上納金をおさめるために犯行に及んでいたという実態もあったそうです。

広島県警、暴走族に「最後通牒」を発して実力行使へと転換

これだけ荒れた状況でも、警察の暴走族取締りの基本方針は「相手にケガをさせないよう、安全に検挙する」でした。暴走族を発見したパトカーもマイクで「解散しなさい」と促すだけで、効果はありません。そんな状況をみていた市民の不満は、次第に暴走族よりも警察に集中し、「本気で摘発しろ」という強い批判へと変わっていきましたが、2001年に転機が訪れます。この年、警察官僚として数々の要職を歴任してきた竹花豊氏が広島県警察本部長に就任しました。そして、竹花本部長の指揮の下で、広島県警は本気モードへと転換し、暴走族に宛てた「最後通牒」を発したのです。
この最後通牒のタイトルは「今暴走族に入っている君たちへ」と名付けられ、地元の新聞・ニュースなどでも大きく取り上げられました。以下、広島県警が発した最後通牒の内容です。


広島県警は、今日から特別体制をとって、君たちと向かい遭わなければならなくなった。なぜこのようなことになったのか。君らの発する爆音にお年寄りや幼児がおびえるなど、もはや県民ががまんならなくなり、「警察は何をしているのだ。」という声が大きくなったのだ。
君らも良く知っているように、県警は暴走や泥棒をした君らの仲間をたくさん逮捕してきたが、暴走しているときは、君らがけがをしないように、慎重にやってきた。君らはそれにつけ込んで、パトカーを傷つける、物はなげつけるなどしたい放題。これを見た県民が怒るのもあたりまえだろう。
それにしても君らのやっていることは、恥ずかしいやら、あきれるやら、見ていられない。きんきらきんの特攻服を着て大勢の人に見えるところでたむろする、暴走中はべったり覆面。そんなことをしなければできないようなことに、ろくなことはない。君らは、毎月、暴力団組員に金を払っているが、暴力団に守られてまで君らは走りたいのか。
(中略)
君たちが、これまでのようなことを続けるのであれば、残念だが、警察も全力を尽くして対応せざるを得ない。そのときには、君らはつまらない抵抗をしてはいけない。大けがをしかねない。警察はできる限りの工夫はするが、逃げるわけにはいかないのだ。


この最後通牒には、つまり「警察は実力を行使してでも暴走族を撲滅する」という強い意思が込められていました。そしてこの発表を契機に、広島県警の暴走族取締りの方針はそれまでの安全路線から「実力行使」へと転換します。
最後通牒の発表から2か月後、暴走族のクルマにパトカーが体当たりを敢行し、動きを封じるという事件が起きました。もし令和のいま、同じようなことをすれば「その職務執行は適切だったのか?」という議論で燃え盛るでしょう。市民とメディアはこぞって「横暴だ」「謝罪すべきだ」と批判するかもしれませんが、当時の広島は違いました。地元新聞では「よくやった!」と称賛する記事が紙面を飾り、市民からも「強い警察を見ることができた」と応援のコメントが多く寄せられたそうです。

現場の警察官も燃えた!警察OBが語る当時の様子

竹花本部長による実力行使への方針転換は、それまで暴走族を遠巻きにけん制しながら「捕まえたいのに捕まえられない」と指をくわえていた警察官の士気を一気に燃え上がらせました。当時、広島市内の中心部を管轄する警察署で交通部門を担当していた経歴をもつ警察OB、T警部補(当時)にインタビューしました。

──本部長の一声で暴走族取締りの方針が「実力行使」へと転換したとき、どんな感想を抱きましたか?──

正直なところ「本当にやるのか?」という戸惑いはありました。しかし、いつも歯がゆい想いをしていただけに「やってやる!」と全体が盛り上がっていましたね。とくに「パトカーをぶつけてでも暴走族を止めろ」という指示には震え上がりました。

──実力行使への方針転換で、広島の暴走族はおとなしくなりましたか?──

暴走族グループの間でも「やばい」という自覚はあったと思います。それまではパトカーをみても逃げなかった暴走族が、蜘蛛の子を散らすように退散するようになりました。

──統計では2015年に広島県内の暴走族がゼロになっていますが、やはり実力行使が効いた結果でしょうか?──

もちろん、実力行使は大きな効果を発揮したと思いますが、それだけではないでしょう。恐喝や窃盗といった事件の捜査を通じて、暴走族に加入している少年たちに「このままではダメだ」とはたらきかけた刑事・生活安全部門の対策も効いていたはずです。きっかけは本部長の決断でしたが、暴走族ゼロを達成できたのは県警をあげた部門横断的な対策が最も大きな理由だったのだと思います。

暴走族は流行らない?広島では単独の暴走行為が増加

──一度は暴走族ゼロを達成した広島ですが、いまはグループではなく単独での暴走行為が目立ち、市民からの苦情も増えていると聞きました。なぜこのような状況になっているのでしょうか?──

昔の暴走族グループといえば社会に不満を抱えた少年たちの集まりという印象でしたが、いまは不満を抱えながらも「大人の社会に抵抗してやる!」という気迫はないように感じます。その代わりに、SNSで呼びかけて同じような想いをもつ仲間を集めて、ごく少人数で暴走行為をするといった状況のようです。本名や住んでいるところなど、お互いのことをよく知らないことも多い集まりなので、ひとりを摘発しても残りのメンバーを摘発するのが難しいのでしょう。

警察が再び本気モードになる可能性はある?

──ネット上では「もっと厳しく取り締まるべきだ」という意見が多いのですが、再び実力行使に転換する可能性はあるのでしょうか?──

いまの情勢では難しいと思います。暴走行為を繰り返しているとはいえ、相手は一般市民ですから、権利意識が高まっている現代で当時と同じことをしても許されないでしょう。誰もがカンタンに意見を発信できる社会なので、暴走行為に対して問題意識をもっていなかったり、暴走行為に悩まされた経験がなかったりする人からの無責任な批判に耐えられないと思います。

──2022年1月には、沖縄で警察官がバイクに乗った高校生にケガを負わせた事件をきっかけに大勢の若者が集まって警察署を襲撃する事件がありました。実力行使にはこういったリスクがあるということでしょうか?──

かつての暴走族が大勢で活動していたのに対して、いまはSNSを通じた匿名性・流動性の高い小単位の集まりで暴走行為を楽しんでいます。こういった状況を考えると、いまの社会で警察が実力行使に方針を転換すれば、沖縄の事件と同じようにSNSで炎上して「みんなでやれば怖くない」といった心理で面白半分に警察署を襲撃するといった事態が起きてしまうかもしれませんね。

警察に「本気で暴走族を取り締まってほしい」という意見が多い反面、広島県警がかつて取った実力行使の取締りを実践するのは難しいようです。警察を応援する人も少なくないかもしれませんが、相手が一般市民である以上、たとえ暴走族であってもケガをさせたりバイクやクルマを壊したりといった損害を与えてもいいという理由にはならないでしょう。
とはいえ、平穏な生活を壊す暴走行為を野放しにしておいてもいいというわけではありません。警察組織には、実力行使ではない方向で効率的な取締りを実践していくことが求められます。

レポート●鷹橋公宣 撮影●モーサイ編集部

REPORT

◯鷹橋公宣(たかはし きみのり)
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、「note」では元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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