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インディアン定番モデル「スカウト」の新バリエーション
水冷Vツインエンジンをアルミフレームのシャシーに搭載するインディアン スカウト。アメリカンクルーザーのニュアンスを活かしつつ、緻密な作りこみや上質感あふれる乗り味で、アメリカ本国はもちろん日本国内でも熱い支持を受けているバイクです。
そのスカウトをベースにインディアンが「クラブスタイル」風カスタムを施し、より趣味性の高いマシンに仕上げたのがスカウトローグ。2022年に登場したスカウトシリーズの最新機種です。全体がブラックアウトされ、クラブスタイルらしいフェアリング、ハンガーハンドルなどが追加された結果「クールな大人向け」といった印象。
また、実際に乗ってみてもフロント19インチのキャストホイールが生み出す独特のフィーリングなど、見た目のイメージとしっかりとマッチしているものでした。カッコいいバイクに、カッコよく乗りたい、スカウトローグはそう考えている方にはぜひおすすめしたい一台です。
編集部註:「クラブスタイル」とは非常に大雑把に言うと、ハイポジションなハンドル、クォーターフェアリング、ガンファイターシートなどでカスタムした、アメリカ由来の走り系カスタムスタイル。
実車を目前にすると、ベースモデルのスカウトよりもいっそうロー&ロングなプロポーションに映りました。これは649mmというローシートと、高くそびえるハンガーハンドルのコントラストがなすものかもしれません。また、タンデムシートが省かれ、リヤフェンダーがそのまま見えることも一因かと。いずれにしても、存在感は止まっていても「ちょっとしたもの」で、取材中も何度か声をかけられたほどでした。
またがってしまえば、低いシートと重心のおかげで250kg(燃料満載時)という数字はまったく気になりません。ハンガーハンドルをつかんでの取り回しもテコの要領でいけるため、実に良好。目の前の12.5Lタンクもコンパクトに見えてくるほどで、小柄な方でも臆することなく走り出すことができるでしょう。ロー&ロングといっても駐車場でてこずるようなボディではなく、この手のモデルでは小回りが利くほうではないでしょうか。
クラッチはワイヤー式ですが、ビッグクルーザーにありがちな重さは感じることがありませんでした。これはロングツーリング派にとって嬉しいポイントでしょう。そしてアクセルもライド・バイ・ワイヤ、電子制御スロットルが採用され、軽い手ごたえ。アクセルの反力は積もり積もれば疲労に繋がっていくので、地味にありがたいポイントかも。
スカウトローグの1133cc水冷Vツインエンジン「鼓動感はあるのに、スムーズに回る!」
1133ccのVツインエンジンはスカウトから変更はありませんが、このエンジンはいつ乗ってもその緻密さ、上質さに驚かされます。
ツインらしい鼓動を腰下から感じ取れる一方、車体を揺らすようなことはありません。アクセルを少しあおってやると、よく調律されたベースサウンドが響きます。これも妙にブーストアップされたものでなく、1気筒600cc弱の爆発がしっかり感じられるような心地良さ。この感触をハーレーダビッドソンとの決定的な違いとして挙げる人が多いのも納得です。
9.8kgm/5600rpmという最大トルクを発揮するエンジンはスカウトローグをしなやかにスタートさせるのに十分以上のパフォーマンス。低回転域からの加速はきわめてスムーズかつリニア、胸のすくような回転上昇が味わえます。エンジン自体の素性の良さもさることながら、ECUのセッティングが優れている面もあるのでしょう。
回転数にともなってスピードが上がってくると、シャシーの安定感に驚かされました。もともと走りの良さに定評があったスカウトですが、スカウトローグは19インチのフロントホイールとなっており(スカウトは16インチ)、それこそ矢のように直進してくれます。直線番長の誹りを受けようとも、これは思わずワイドオープンしたくなる!
快適性も高いスカウトローグ「コンパクトながら防風効果十分なフェアリング」
また、ハンガーハンドルの乗りやすさ、操作しやすさもお伝えしたいポイントです。腕が肩より高くなるようなものと違い、腕にも肩にもストレスを感じません。体格を問わず乗りやすいパッケージングはインディアンらしい特徴と言えるでしょう。
もしハンドルを遠く感じたとしても、角度を調節すればたいていのバイカーにフィットするかと。バーエンドミラーの視認性と相性もあるかと思うので、オーナーになった際はベストポジションを探してみてください。
絶妙なサイズのフェアリングは高速道路で実用的な効果を発揮してくれました。176cmの筆者だと、ヘルメットの頭頂部に風を感じる程度。また取材中は小雨に見舞われたのですが、視界を直撃する水滴が少なかったこともフェアリングの効果にほかなりません。
いわゆるミッドコントロールとなるフットペグの位置ですが、ポジション的に無理な姿勢が強要されることはありません。強いて言えば、フェアリングの効果を最大限に享受したい場合に背中を丸めるくらいでしょうか。それとても、スーパースポーツのような態勢ではないので、コンフォート性能はきわめて高いと言えます。
「ワインディングから高速クルーズまで」楽しめる領域が広いスカウトローグ
クルーザータイプではリーンするとすぐにあちこちこ擦ってしまう……という声をよく聞きますが、スカウトローグもそこは避けられませんでした。ただし、見た目以上に軽快なコーナリングが楽しめることは確かでしょう。いわゆるガンファイタータイプのシートによるバイクとの一体感も優れており、ステップワークだけでヒラヒラ曲がれるのは嬉しい驚きでした。
ハンガーハンドルにしがみついてしまったとしても、19インチタイヤの安定感ある性格がサポートしてくれるので、ワインディングに自信のない方でも不安なく走らせられるかと思います。
ただし、レイダウンされたリヤショックのせいか、高速&大入力の際はシートから体が浮き上がるほど。滅多にないかと思いますが、高速道路などで深めのギャップなどを越える際はショックを意識しておいたほうが無難でしょう。車体そのもののスタビリティは信頼できるものなので、乗ってみたうえで「ちょっと辛い」と感じた場合はサスペンションのカスタムという手もあります。
ちなみに純正アクセサリーには調整機構を備えたリヤショックが2種類用意されています。
それにしても、低速から高速までそれぞれ表情というかニュアンスが変わるエンジンには惚れ惚れするばかり。品のある鼓動感から、活発でスムーズなパワーデリバリーまで、このフィーリングはインディアンだけのアドバンテージにほかなりません。まったり、重厚といったアメリカンクルーザーの一般的キャラとは一線を画し、良くできたメカをコントロールしている充実感を得ることができました。まさに酸いも甘いもかみ分けられる大人向け、そんな仕上がりです。
最後に使い勝手などを報告すると、積載性はほとんどゼロですが、そこはスタイルを優先したインディアンの哲学だと割り切ればいいだけ。インディアンはアパレルだけでなく、バックパックなども用意しているのでそちらをコーディネートするのも楽しみのひとつになることでしょう。
また、燃費は高速を流していると25km/Lほど走り、ワインディングを気分よく飛ばしても20km/Lを少し下回るかどうかといったところ。ガソリン高騰の折ですから、燃費が優秀であるに越したことはありませんよね。燃料計は装備されていませんが、液晶部のギヤポジションや回転数を見つつ、燃費を意識した走りもわりと簡単にできそうです。
前述の通り、背中を丸めても自然な前傾ですので、誰かに走っているところを見られても「気張っている感」はありません。むしろ、ロー&ロングの車体とあいまって「走ってるところカッコよかった」と言われること請け合いです。約200万円と高級車に属する価格帯ですが、満足度も比例して高く、乗り味といいルックスといい決して後悔する買い物にはなりません。
メジャー路線に追随しない反骨者、きっとオーナーにはそんな羨望のまなざしが向けられるに違いありません。
インディアン スカウトローグ主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:99mm×73.6mm 総排気量:1133cc 最高出力:── 最大トルク:97Nm(9.8kgm)/5600rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2274 全幅:995 全高:1181 ホイールベース:1576 シート高:649(各mm) タイヤサイズ:F130/60B19 R150/80B16 車両重量:250kg 燃料タンク容量:12.5L
[車体色]
ブラックメタリック、ブラックスモーク、ブラックスモークミッドナイト、ストームブルー、セージブラッシュスモーク、ステルスグレー
[価格]
194万9000円(ブラックメタリック)
200万9000円(ブラックスモーク、ブラックスモークミッドナイト、ストームブルー、セージブラッシュスモーク)
205万9000円(ステルスグレー)
レポート&写真●石橋 寛 編集●上野茂岐