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ホンダ CB1000ホーネットSPをイギリス人レーサーが斬る!最高出力158馬力と驚異の安さでライバルを“刺す”

ホンダ CB1000ホーネット「2017年型CBR1000RRのエンジンを搭載したスポーツネイキッド」

2023年のミラノショー(EICMA)で初公開されてから1年余り、満を持してホンダ CB1000ホーネットが登場する。イギリスのモーターサイクルジャーナリストでマン島TT参戦経験もあるレーシングライダー、アダム・チャイルド氏が、スペインで行われた試乗会に参加。上級グレードSPを中心に、ワインディングではハイパフォーマンスなエンジンを存分に堪能してきたという。そのレポートを紹介しよう。


新型バイクのロードテストというものは、エキサイティングな技術的進化と革新からに注目するものだし、私たちも皆さんもそこに興味を抱いているはずだ。しかしホンダの新型CB1000ホーネットSPの最大の注目点は、見事なアップデートを遂げた並列4気筒エンジンでもなければ、豪華なオーリンズ製TTX36サスペンションでもないし、ブレンボ製「スタイルマ」ブレーキキャリパーでもなかった。

それはイギリスでの9999ポンドという、1万ポンドを切る販売価格だ(*日本国内ではSPが158万4000円)。

ホンダ CB1000ホーネットSP:日本国内ではスタンダードともに2025年1月23日発売。
ホンダ CB1000ホーネットSP:車体色はSPが黒、スタンダードが白、それぞれ1色の設定。

158psを発生するハイパワーエンジンを搭載するネイキッドバイクなのに、この価格なのだ。それでも高いと言う人には、スタンダードモデルなら8999ポンド(*日本国内では134万2000円)といえば納得してもらえるだろうか。私にはヨーロッパ中のホンダディーラーの歓喜の声が聞こえるようだ。

ホンダは2023年に並列2気筒エンジンを搭載するCB750ホーネットでホーネットブランドを再構築した。このモデルも価格競争力があり、その年にヨーロッパで最も売れたミドルクラスネイキッドバイクとなった。そして2024年にはCB500ホーネットが加わり、さらにCB1000ホーネットがフラッグシップとして登場したことで、ホンダのスズメバチの巣は完成したのだ(*ホーネットは英語で『スズメバチ』を意味する)。

あらためて記すと、ホンダは新型CB1000ホーネットにスタンダードとSPからなる2種のバリエーションを用意した。
共通している主な仕様は、スチール製のツインスパーフレーム、ショーワ製SFF-BPフルアジャスタブル41mm倒立フォーク(*SPはアウターチューブにゴールドアルマイト加工される)、前後ホイール、ブリヂストン「S22」あるいはダンロップ「スポーツマックス・ロードスポーツ2」のタイヤ、電子制御デバイス群、5インチのフルカラー液晶メーターだ。

そしてSPにはアップ・ダウン対応のクイックシフター、オーリンズ製リヤショックとブレンボ製ブレーキキャリパーが追加装備されている。どちらのバリエーションもエンジンは2017年型CBR1000RRファイヤーブレード(SC77)の並列4気筒を搭載するが、スタンダードの152psに対して、SPでは排気バルブの小型化などによって158psまで引き上げられている。

ホンダはその新型CB1000ホーネットSP試乗会をスペイン南部の街で開催。どのようなコストダウンによって驚くべきこの新型車を開発したのか、私たちは見抜けるだろうか……?

CB1000ホーネットSPのエンジン「予想以上にワイルド、ファイアブレード感が濃厚だ」

私はCBR600Fベースのホーネット600と、CBR900RRファイアブレードベースのホーネット900を覚えている世代だ。どちらも機能的だったし楽しく走れたし、とても人気のあるネイキッドバイクだったが、感情を大きく揺さぶるような存在ではなかっただろう。

そんなかつてのホーネットと、新型CB1000ホーネットSPはまったく異なっている。深い黒の塗装と対象的に華やかなゴールドに彩られたホイール、そしてオーリンズとブレンボのパーツがスポーツテイストをバランス良く引き立てている。

車体の前部は太く、中間は細く、そして後部が太いフォルムは、スズメバチをモチーフとするホーネットの伝統そのものだ。古き良き時代の香りが漂い、ブラック&ゴールドのカラースキームが贅沢なスピードを象徴していた時代にタイムスリップしたかのようだ。よくよく見れば取り外し不可のサブフレームあたりにコスト削減の苦心が見えるが、160万円を切るバイクとしてはトップエンドのルックスとフィーリングを持っている。

シート高は809mmと比較的低めだ。しっかりとまたがると、すっきりとした控えめなコックピットが目に映る。スイッチ類はシンプルで、2025年基準のバイクでいえば決して大きくはない5インチの液晶メーターにはホンダ ロードシンク=スマートフォン連携機能を備える。

燃料タンクはホーネットの伝統に従って前方へ広がる形状だが、ヒザのあたりできれいにくびれている。バーハンドルを握ると、落ち着いた乗車姿勢をとれる。フロントフォークのトップキャップに設けられたアジャスターが醸し出す上質感も申し分ない。

左右に張り出したボリュームある燃料タンク、スリムなシート周り、そして再びボリュームを出したテールカウルは、スズメバチをモチーフとした歴代ホーネットの伝統といえるデザインだ。

ローンチコントロールこそ備えていないが、電子制御デバイス群は必要十分に装備している。ライディングモードは、スタンダード/スポーツ/レインの3モードのほか、各機能の制御を好みに組み合わせられるユーザーモードがあり2パターンに設定可能だ。しかしIMUは搭載されていないのでABSはバンク角連動タイプではなく、作動レベルの調整もできない。

最初の走行をスポーツモードでスタートすると、スロットルレスポンスはややダイレクトに感じられた。燃料供給のぎこちなさに起因するのか、それとも低回転域のトルクがあまりに太いからなのかは判断できなかった。いずれにせよ、市街地走行ならソフトな標準モードのほうが適している。

SPの車重は212kgだが、体感としてはそれよりはるかに軽く、混雑した市街地でも機敏に走れる。158psものハイパワーながらハンドリングも軽快だ。タンクとシートの幅が狭いから、身長が低い私でも両足をしっかりと地面につけられる。

ベニドルムの街から外れると、ファイアブレードのエンジンの真価をより発揮できる。想像していたとおり、999cc並列4気筒エンジンはストリートファイターとしてのニーズに合わせて最適化されており(ユーロ5+に適合するよう排ガスもクリーンだ)、最高出力158ps/1万1000rpm、最大トルク10.9kgm/9000rpmを発生する。ピークパワーはベースとなったエンジンの192psよりも落ちるが、最高出力も最大トルクもそれより低い回転数で発生するから、ピュアなスポーツバイクより扱いやすい。

エンジンは2017年型CBR1000RRをベースに、軽量化を行った新開発ダイキャスト製ピストンを採用したほかバルブタイミング・バルブリフト量を変更。ストリート向けにチューニングされているが、158psの最高出力を発揮する。
基本のライディングモードはスタンダード、スポーツ、レインの3種。出力特性、エンジンブレーキ、トラクションコントロールの作動レベルが切り替わる。それぞれを任意で設定することも可能SPはアップ・ダウン両対応のクイックシフターを標準装備。

だから発進から加速はスムーズに行えるし、そこからの中回転域でもパワフルで車体をグングンと進ませるドライブ感は頼もしいし迫力がある。しかし裏を返すと、コストパフォーマンスに優れるネイキッドバイクにしてはサウンドが騒がしく、そこは「ホンダらしさ」を感じられない部分だ。2017年型ファイアブレードのエンジンサウンドはたしかに素晴らしいものだったが、イギリスのサーキット走行会では音量規制に引っかかるほどだった。それにしても、ネイキッドモデルであるCB1000ホーネットのエンジンがこれほどワイルドだとは思っていなかった。

予想が外れたことはもうひとつある。ファイアブレードのエンジンを転用しつつも、スロットルレスポンスをここまでアグレッシブにしてきたことだ。とはいえ、トルク重視のチューニングがもたらす力強さは、特筆すべきポイントだ。エンジン回転をタコメーターの中間あたりでキープしながらコーナーを立ち上がっていき、存分に加速したところで次のコーナーに備えてスロットルを戻すと、まるで叫び声のようなサウンドがマフラーから響きわたる。ホンダの並列4気筒ファンなら、このエンジン特性を気に入るはずだ。

CB1000ホーネットSPのハンドリング「シャープな切り返しを楽しめるが、安定感もある」

ホンダ CB1000ホーネットSP

ニューモデル試乗会に使われるワインディングロードには、交通量が少なく、しかも警察がほとんどいないルートが選ばれるから、今回もCB1000ホーネットSPを存分に走らせることができた。市街地走行で感じた扱いやすさと素早く正確なハンドリングは、シエラネバダ山脈の果てしないワインディングでも完璧に再現された。

車体の切り返しは素早く、しかも落ち着きある挙動だ。212kgの車重を感じさせない巧みな車体設計は、ミドルクラススポーツと同じくらい軽快だ。また、ブリヂストンS22は走り出すとすぐに温まり、ヒザを擦るくらい倒し込んでも十分なグリップと信頼性をもたらしてくれる。バンク時の最低地上高も十分にあり、サーキットで走り込んでもステップは路面をくすぐる程度だろう。

高性能なSPの足まわりは、コーナリングスピードが上がり、車体のバンク角が深くなっても安定した走りに貢献している。もちろんブレンボ製ブレーキキャリパーはコントロール性も制動力もよく、クイックシフターを使って素早くシフトアップ/ダウンすれば、タイトでクイックなコーナリングも楽しめて積極的にワインディングを攻められる。

休憩のためにカフェに立ち寄るまでの間、私はこの新しいホンダを心底楽しんだ。ひとつだけ欠点を挙げるとすれば、トラクションコントロールの介入が早いことだ。たとえば上り坂の頂点でフロントの軽く浮き上がるとすぐに介入し、パワーが戻るタイミングがわずかだが遅れる。ビギナーには安心だが、はるかに高価なシステムが採用されているヤマハ MT-10などと比べると洗練さにはほど遠い。さらに、トラクションコントロールを走行中は無効にできないうえ、イグニッションをオフにしてからオンにするとデフォルト設定に戻ってしまう。

そうはいっても、トラクションコントロールをオフにしたときの挙動は、あまりよろしくない。ただし、ウィリーはいとも簡単にこなせる。また、前述した低速時のスロットルの過敏さは、10%以上開けていれば問題にならず、コントロールするのは容易だ。

SPはフロントブレーキにブレンボ製の上級キャリパー「スタイルマ」を採用。スタンダードはニッシン製キャリパーとなる。

気温が上がるにつれて走行ペースも上がり、SPは期待どおりの性能を発揮し続けた。激しくプッシュする走りでもシャープなハンドリングは変わらず、車体の安定性もそのままだ。しかし気になったのはフロントブレーキだ。ブレンボ製「スタイルマ」キャリパーと310mmディスクの組み合わせは強力でスムーズな制動性だが、高速走行時のハードブレーキではなくやや減速させる場面では物足りなさを感じた。

同じキャリパーを装着したほかのバイク(たいていはイタリア車)に数十台も乗ってきたが、CB1000ホーネットSPのブレーキよりも優れた性能を発揮していた。おそらく、マスターシリンダー、ディスク、パッド、あるいは車重、またはこれらの要因がいくつか絡み合っているのだろう。

気温は高く完全なドライコンディションだったこともあり、ABSがコーナリング対応でないことは問題にならなかった。しかし冬になったら、IMUを必要とするコーナリングABSやトラクションコントロールが恋しくなるだろうか。 いや、私たちのスキルや経験は一人ひとりまったく違うのだから、この疑問に答えを出すのは不可能だ。

もちろん、空はいつも晴れているわけではないし、とくにワインディングのある山間部の天候は変わりやすい。かといって路面が濡れていたり、気温が低かったとしても、CB1000ホーネットSPの電子制御デバイスはしっかりと機能する内容を備えている。

率直に言えば、そうした各種電子制御デバイスがなくとも、私はCB1000ホーネットSPの走行性能と、それがもたらすファンライドを存分に楽しんでいた。このバイクに興味を持っている人には、そうした装備類がシンプルだからこそ気になっている人も多いだろう。トルクはたっぷりとあり、必要十分な電子制御と軽快なハンドリングは、ファンライドに最適なパフォーマンスだ。

ライディングポジションにはゆとりがある。エンジンを高回転域まで回しても振動は少ない。あえて言うなら、ミラーが意外と小さく、液晶メーター周りはシンプルすぎてライバルたちのようなきらびやかさがない。積載性も良好とはいえない。グリップヒーターはオプションだ。

先に私はこのバイクのコストダウンポイントを見つけようとしていたが、車両の仕上げは良好で、サイレンサーが大きすぎること以外に気になるところはなかった。タンデムツーリングするには、パッセンジャーが小柄か、あるいは勇敢でなければならないだろうが、ひとりで走らせるのであれば、フェアリングを持たないネイキッドバイクにもかかわらず、長距離ツーリングも苦にならなさそうだ。

SPはフルアジャスタブルのオーリンズ製TTX36リヤショックを採用。伸び・圧の減衰力調整はダイヤル操作で行える。スタンダードはショーワ製リヤショックで減衰力調整は圧側のみ可能。

ホンダ CB1000ホーネットSP、性能を考えると安すぎでは!?

ミドルクラスから1000ccクラスのハイパワースポーツネイキッドには、ライバルとなるモデルが実に多い。ヤマハ MT-09とMT-10、カワサキ Z900/SE、トライアンフ ストリートトリプル1200、BMW F900RとS1000R……。ほかにもスズキ GSX-S1000とGSX-8S、KTM 790/890デュークと1290スーパーデューク、ドゥカティ モンスターとストリートファイターV2/V4、MVアグスタ ブルターレやドラッグスターと枚挙に暇がない。

そうしたなか、「パワーと価格のバランス」という見方でスポーツネイキッドを探している人にとって、CB1000ホーネットSPは選択肢の筆頭に上がってくるはずだ。

新型バイクの評価をするには数時間、ときには数日を要することもあるが、今回は違った。1万ポンド以下の価格で、158psものパワーを持つCB1000ホーネットSPは、本来の意味でコストパフォーマンスに優れたバイクだ。先に羅列したライバルを見渡してもこれに匹敵するバイクはない。もしもホンダが数千ポンド価格を上げたとしても、そのコストパフォーマンスに変わりはない。

ライドバイワイヤの2017年型CBR1000RRファイヤーブレードのエンジンをベースとして再調整したことで、ホーネットは素晴らしい出力特性を得た。伸びやかな中回転域からエキサイティングな高回転域とサウンド。コントロールしやすく軽快なハンドリングをもたらす、安定性に優れたシャシーの組み合わせは巧みだ。

最近のホンダはスポーツネイキッドの開発についてやや保守的だ、という声も少なからず聞いてきた。「パーティーはこれからだ」というよりも前にパーティーを切り上げてしまうのだ。しかし新型CB1000ホーネットSPは、夜明けまでパーティーに居続けようとしている。個性豊かなルックスも良く、ハイパワーな並列4気筒エンジンを搭載するスポーツネイキッドは価格も魅力的なのだ。

ランチ休憩のとき、スタンダードモデルにも試乗することができた。エンジンの最高出力は6ps低く、クイックシフターは装備されていない。フロントブレーキはニッシン製ラジアルマウントキャリパー、リヤショックはプリロードと圧側の減衰調整を行えるショーワ製となる。そのほかホイール、タイヤ、フレーム、ギヤ比、電子制御デバイス、ライディングモード、5インチ液晶メーターは同一だ。

エンジンのパワーとトルクに不足は感じなかったが、クイックシフターはあったほうがいいと思った。ハンドリングの軽快さに変わりはなく、フロントブレーキキャリパーの違いも予想していたほど差を感じられなかった。サーキットを走るのでなければスタンダードモデルで十分に満足でき、購入費を抑えられる。クイックシフターはオプションで後付けもでき(*2万6950円)、スタンダードを選ぶ価値も十分にある。

ホンダ CB1000ホーネットSP主要諸元

【エンジン・性能】
種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:76.0×55.1mm 総排気量:999cc 最高出力:116kW(158ps)/1万1000rpm 最大トルク:107Nm(10.9kgm)/9000rpm 変速機:6段リターン

*スタンダードは最高出力:112kW(152ps)/1万1000rpm 最大トルク:104Nm(10.6)/9000rpm

【寸法・重量】
全長:2140 全幅:790 全高:1085 ホイールベース:1455 シート高:809(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車重:212kg(スタンダードは211kg) 燃料タンク容量:17L 

【車体色】(国内)
マットバリスティックブラックメタリック(SP)
パールグレアホワイト(スタンダード)

【メーカー希望小売価格】(国内)
158万4000円(SP)
134万2000円(スタンダード)

ヘッドライトはプロジェクター式の4灯LED
メーターは5インチのフルカラー液晶で、表示パターンを3種類から選択可能。スマートフォン連携機能「Honda RoadSync」搭載で、電話機能、音楽再生、ナビ機能などが使用できる。
倒立式のフロントフォークはショーワ製のSFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)でSP/スタンダート共通。左側トップキャップにプリロード調整、右側に減衰力調整機構がある。
スイングアームはアルミ製

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