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新たなステージを迎えたドゥカティ伝統のVツイン
2018年に公道用スーパーバイク・パニガーレV4が登場して以来、「Lツイン」の愛称で往年のドゥカティの主力機だった90度Vツインは少し影が薄くなっていたが、ドゥカティは伝統のパワーユニットをおろそかにしていたわけではなかった。
ドゥカティの90°V型2気筒エンジンは、同社を象徴する数多くのモデルに搭載され、これまでに量産車ベースのレースで400回以上の勝利を挙げ、1000回以上の表彰台を獲得しているというが「このエンジン形式に対して継続的な投資と開発を行っていた」と、新型V2の登場に合わせてドゥカティはコメントしている。
また、この新型V2エンジンがドゥカティ史上最も軽量な54.5kgの重量だと公表し、歴代モデルのパンタに始まり、デスモドゥエ、デスモクワトロ、テスタストレッタ、スーパークアドロへと引き継がれてきたV2エンジンの伝統において、新章になるとアピール。そして、別稿で紹介する2025年モデルで登場のパニガーレV2/V2S、ストリートファイターV2/V2Sに搭載されるとアナウンスされた。
新型V2エンジンの主要テクニカルデータ
新エンジンの主要な特徴を、まずは項目で紹介しよう。
- 890cc、90°V型2気筒エンジン
- エンジン重量54.5kg(スーパークアドロ955と比較して-9kg、テスタストレッタ・エボルツィオーネと比較して-5.89kg、スクランブラーデスモドゥエと比較して-5.82kg)
- チェーン駆動式のDOHC4バルブで、吸気側にIVT(インテーク可変バルブタイミング)機構と中空ステム構造の38.2mm径バルブを、排気側に30.5mm径バルブを採用
- ボア×ストローク96×61.5mm/圧縮比13.1
- 最高出力88kW(120ps)/1万750rpm(レーシング・エキゾースト装着時は126ps)、最大トルク93.3Nm/8250rpm
- より強力なオルタネーターと1速および2速のギア比を低く設定したバージョンも設定し、こちらは最高出力85kW(115.6ps)/1万750rpm、最大トルク92.1Nm/8250rpm
- アルミニウム製シリンダーライナー採用
- ユーロ5+規制に適合
- サーボアシスト式湿式多板クラッチは、スリッパー機能付き
- 圧力ポンプと掃気ポンプを備えたセミ・ドライサンプ潤滑システム採用
- 52mm径スロットルボディ
- 6速ギアボックス採用。オプションでドゥカティ・クイックシフト(DQS)3.0を装着可能
- オイル交換:1万5000kmごと
- バルブクリアランス点検/調整:3万kmごと
- CO2排出量(WMTC):120g/km
最高出力のバージョンは120ps/115ps仕様の2種類を設定
前後シリンダーバンク角を90度にすることで、バランサーシャフトなしでも一次振動を解消でき、左右幅をスリムにできることが横置きVツインの従来からのメリットだが、新型エンジンは車体の重量配分を最適化するため、前側シリンダー角を地面の水平に対して20度上向きの角度で搭載される。
ボア・ストロークは96×61.5mmで、B/S比は1.56。これはテスタストレッタ・エンジンとスーパークアドロ・エンジンの中間的な値で、テスタストレッタよりも高い出力値を発生しながらも、スーパークアドロよりも公道での使用に適したトルク特性を実現しているという。そしてエンジンは120psと115psのバージョンが用意される。
スポーティな120psバージョンでは、サーキット走行専用のレーシング・エグゾーストの装着で、最高出力を126ps/1万rpm(+6ps)に、最大トルクを98Nm/8250rpm(+5Nm)までアップ。重量を4.5kg軽量化が可能。
一方115psバージョンは、電装系での最大負荷に対応できるよう強力なオルタネーターを搭載した仕様。またコンロッドとフライホイールが強化され、過酷な条件での走行やリラックスしたライディングでもスムーズな作動を実現。慣性モーメントが12%増加し、重量は0.51kg増加するものの、低回転域での回転の滑らかさをねらったという。またギア比は、荷物やパッセンジャーを乗せた状態での使用にも配慮し、1速と2速のギア比が低く設定している。
前述したように、同エンジンはまず新型のパニガーレV2、ストリートファイターV2に搭載されるが、この2種類の出力仕様の紹介を読む限り、後にミドルクラスのツアラー、ストリートモデルへの搭載も想定しているように思える。そして両パワー・バージョンにはノックセンサーを搭載。ハイオク・ガソリンが入手できない場合でも、信頼性を損なうことなくエンジンを動作可能とし、高品質な燃料の入手が難しい国でも、安心して旅を続けられる設定にしたとアナウンスする。
実用的な低中回転域もフォローするインテーク可変バルブタイミング
新型Vツインでの、さほどアピールされていない変更としては、ドカティ伝統のバルブ開閉機構(デスモドロミック)をやめ、チェーンカム駆動+バルブスプリング作動となったことも挙げられる。
そしてIVT(Intake Variable Timing)=インテーク可変バルブ・タイミング機構により、新V2エンジンは、低回転域で非常にリニアなトルク伝達、俊敏で快適なスロットル・レスポンス、高回転域でのスポーティな特性を実現。
IVTは、カムシャフトエンドに設置された位相バリエーターを使い、インテーク・バルブの制御タイミングを52°の範囲で連続的に変化させることができるが、エンジン回転数とスロットル開度に応じて最適なバルブ・オーバーラップを設定でき、低中回転域ではスムーズで持続的なパワー曲線を、高回転では優れたパフォーマンスが得られるという。
また、最大トルクの70%以上は3000rpmで発生し、3500rpm~1万1000rpmの範囲では常に最大トルクの80%以上を維持。常用回転域での乗りやすさも求めたドゥカティの新たなVツインという面でも、興味深い存在と言えそうだ。
デスモ機構は廃止されたものの、次世代を見据えたコンパクトVツイン
クランクケースはダイカスト製で、シリンダーライナーの周囲にウォーター・ジャケットを配置。そして、スーパークアドロエンジンと同様、新V2エンジンには、アルミニウム製のシリンダーライナーを採用。このライナーがクランクケース・ハウジングの穴に挿入される設計により、シリンダーヘッドをクランクケースへ直接固定でき、エンジン剛性を引き上げつつエンジンのコンパクト化を実現。そして薄く仕上げられたシリンダーライナーの恩恵で、クーラントでの高い冷却効率も確保できた。
また同エンジンでは、ウォーターポンプがフロントシリンダーのヘッド部分に配置されており、エンジン全体の寸法を小さくでき、これが車体全体のコンパクト化にも貢献。同時に、エンジン外部への冷却経路の露出を最小限に抑えて、エンジンの外観もすっきりできたという。ほかにもVバンク間に水冷オイルクーラーを配置でき、従来のオイルクーラーが不要になったこともエンジンのダウンサイジングと軽量化に貢献した。
発表資料を読む限り、パワー特性のブラッシュアップや軽量コンパクト化が果たされた新エンジンは、かなり実用的でワイドレンジに使えそうなミドルVツインに仕立てられている模様。だが、ドゥカティ伝統のデスモ機構の廃止、そしてV2としての究極のパワー追求したエンジンではないことに冷めた反応をするエンスージアストもいるだろう。とはいえ、多用な機種への応用も想定したワイドレンジな設定も含め、常用域でも楽しめる「ドゥカティVツインの新章」は、少なからず期待を抱かせる内容だと感じられた。
まとめ●モーサイ編集部・阪本 写真●ドゥカティ