バイクライフ

【アウトドアのプロ】が勧める「バイクでチェアリング」……自然の中に座っただけでゆったり時間を満喫!

■ぜいたくな時間の使い方といえば、それは「昼寝」につきる。わざわざバイクで移動して、イスで寝る? それがいいのだ。

イスさえあれば、訪ねた先がお気に入りの場所になる!

チャネリング? モーサイ大丈夫?と思ったアナタ、安心してください。チャネリングではなくチェアリングですから。でも、「チェアリング」って何? 聞いたことない、と思った人も多いかもしれない。チェアリングはイスの英語「chair+ing」、最近のアウトドア界で「イスを持って野外に遊びに行く」ことを指す新しい造語なのだ。そして、その楽しみ方とは……!?

公園に行ったり、観光地の見晴らしのいい場所に行ったりした時に、ベンチやいい感じのイスがあると、なかなかゆったりした時間が過ごせるものだ。

しかし、逆にせっかく公園に行ったのにベンチが空いていない時の、あの残念な気分「先を越された感」といったらない。そこで無いかもしれないなら自前で持っていってしまおうというのが、そもそものチェアリングの考え方らしい。

それをさらに一歩進めて、お気に入りのイスを持って好きな場所へ遊びに行こう、せっかく行くならランチセットとか、コーヒーセットを持っていくのもいいだろう、そんな遊び方が最近流行りのチェアリングなのだ。言ってしまえば「デイキャンプの軽いバージョン」とも言えるだろう。

テントの入手は、チェアリングでのデイキャンプの延長線上にあるべきもの

話は少し変わるが、バイクでキャンプに行きたいと思う時、最初にテントを買ってしまう人がいるけれど、それは間違いだ。テントは言い換えれば「家」なのだから、いきなり家を買う人がいないように、ソフトハウス=テントはじっくり考えて最後に買うべきものだ。

バイクキャンプを始めようかと考えている人がいるなら、僕がまずオススメしたいのが「バイクでのチェアリング」だ。バイクに乗せられるイスだけでもいいし、できれば湯沸かしのできるセットを持っていくのがいい。1冊の本でもいい。好きな場所まで走って見晴らしのいい場所でイスに腰掛けて空を眺める。そういう時間が好きだと感じるならば、キャンプ道具の準備を始めるのもいいだろう。

そして何度かデイキャンプ(泊まらない日帰りのキャンプ)に出かけて、やっぱり野外で1泊してみたいと思うようになってから、マットやシュラフ、そして最後にテントを買うべきだ。テントは揃えたキャンプ道具を収納できるだけのスペースが必要になるからだ。

テントには着替えと寝具だけが入ればいいと思っている人がいるかもしれないが、昨今キャンプ場でも盗難が多発しており、テント外に荷物を置いて寝るのは危険と言える状態になっているからである。

そもそも「イスを携帯」って、どうやってきた? どんな製品があった?

座り心地のいいイスは世の中にいくつもあるが、持ち運びということを考えれば軽くてコンパクトに収納できるものであることが望ましい。民間で持ち運びに便利なイスに、最初に目をつけたのは多分、屋外で絵を描く人たちであっただろう。

それ以前に携帯に優れたイスを必要としたのは軍の指揮官たちであったと思われる。指揮官たちはプライドもあり、兵士との違いを示すために直に地面に座るということをしない。

日本でも陣内では折りたたみイス「床几(しょうぎ)」が使われている。神社なども同様だ。これらは中国から伝来したものと言われている。現在でもこの床几に似たイスはたくさんある。

「ペンドルトン カスタム スツール」1万4850円。サイズは37.5×38×高さ43cm。木製部材質は国産ナラ無垢材。写真のプレーンスターほか、ハーディングブルーアイス/ツーソンネイビーブルー/ソノラオリーブの計4色を設定。
「アディロンダック ミリタリーチェア」6930円。サイズは展開時が29×17×高さ29cm、収納時が2.5×18×20cm。重量765g。座面は蝋引きした16ozコットンキャンバスで、フレームは鉄のガンブルー仕上げ。写真のカーキとオリーブの2色を設定。

日本のアウトドアイベントとして有名な「お花見」は地面に敷物を敷いての直座りだが、これは桜の枝の下という場所的な問題があるだろう。茶道の野点(のだて)の影響もあるかもしれない。背もたれ付きの座椅子があればいいのに、と思った人もいるかもしれないが、アウトドア用にはちゃんとあり、カヌーイストなどに愛用されている。

「CRAZY CREEK クレイジークリーク HEX2.0 オリジナルチェア」8580円。サイズは83×38cm。収納時は12×42cm。重量は614g。フレームにはカーボンファイバーを使用。ロイヤルブルー/エメラルド、オリーブ/スレート、アリューシャンブルー/スレート、カッパー/スレートの4色を設定。

キャンプは主にアメリカから入ってきた遊びなので、当初からイスを使うものとされてきたが、なかなか携帯性に優れるイスは少なく、映画監督が使っていたことから名付けられたディレクターズチェアを使う人が多かったが、1961年、画期的な製品が登場する。マクラーレンのガダバウトチェアである。

アルミフレームで収束型に折りたたむことができ一世を風靡したが、マクラーレンはさらに儲かるベビーカーの分野に移行してしまい、現在はイスの製造は行っていない。ちなみにF-1の分野で有名なカーメーカーのマクラーレンとは全くの別会社だ。ガダバウトチェアはニューヨーク近代美術館(MoMA)ほか多くの美術館でも収蔵されている。

「マクラーレン ガダバウトチェア」。エイアンドエフのヴァガボンドというオリジナルブランドから、復刻版として「ヴァガボンドチェアー」として販売された。現在はどちらも廃番となっている。

その後しばらくアウトドア界のイスの分野では大きな変動は見られなかったのだが、金属バットやテントのポールなどのアルミ製品を作る韓国のDAC社がヘリノックスというブランドで極めて斬新なイスを発表する。チェアワンがそれだ。ヘリノックスはチェアワンを元にしてさまざまなバリエーションを展開し、今に至っている。

アウトドアメーカー各社もこれに似たイスをいろいろ作っているし、パチモノ、レプリカ商品もWebではたくさん出回っている。似たような感じだし、安いからと言ってネットでポチッとするのはやめた方がいい。強度も全く違うし、メーカー保証もない。

「ヘリノックス タクティカルチェア/マルチカモ」1万6280円。チェアワンのバリエーション。

バイクに積むときにいちばん気になるのは、イスの長さ

バイクで運ぶとなると重さはあまり考えなくてもいいけれど、重要なのは収納性、特に長さだ。ハンドル幅を超えるようなサイズでは走行時の安全性に欠ける。最近は使用時には快適なサイズで使えて、収納時はコンパクトになるイスがたくさんあるから、それらから選ぶといいだろう。

その先駆けとなるのはカーミットチェアで、BMW好きのモーターサイクリスト、カーミット・イースターリングによって1984年に作られ爆発的な人気を得た。木製のフレームで味わいがあり、組み立ては最新のアウトドアチェアから比べると多少手間がかかるが、それでもバイク乗りがバイク乗りのために作ったイスとしては注目に値する。

今でもアメリカのテネシー州の工場で1点ずつハンドメイドされている。カーミットチェアもオリジナルは4万円超えの高価なイスなので、コピー商品やレプリカ商品が多数存在する。

バイクでのチェアリングにオススメ、3タイプ! 「グリベルのトレッキングチェア」「ヘリノックスのチェアワン」「ヘリノックスのビーチチェア」

携帯性、汎用性、快適性を主眼として3種類のイスを選んでみた。どれも僕が長年使って耐久性、バイクでの積載性を試した上での製品である。左からグリベルのトレッキングチェア、ヘリノックスのチェアワン、同ヘリノックスのビーチチェアだ。ペットボトルとの比較でその収納時のサイズ感も分かっていただけると思う。

グリベルのトレッキングチェアはピッケルやヘルメット、アイゼンなどを製造しているメーカーが山用に作ったイスなだけにその携帯性が特徴で、3本の脚が半分に折りたためて非常にコンパクトになる。

ただし、現行品ではないので最も近い製品となるとモンベルのL.W.トレールチェアあたりになる。これらは脚を半分に折りたたまなくていい分だけ、セッティングが簡単だ。3本の脚部分を展開するだけでいい。もちろんバイクでの積載も十分可能なサイズに収まっている。

ちなみにこのタイプの座面高の低いイスは普通にヒザを立てて座ると、ヒザ周りも腰回りも窮屈だ。あぐらをかくようにして座るのがオススメだ。

チェアワンは先に書いたが、最近のアウトドアチェアの世界を書き換えたと言ってもいいほどのエポックメイキングな製品で、軽量性、収納性、快適性に優れている。

4本のフレームによって座面が吊り下げられた状態になっており、座った時の包まれ感が最高だ。背もたれも適度な角度に傾斜しており、もたれかかってゆったり座ることができる。

ミリタリーカラーを含めたカラーバリエーションも豊富だ。日本ではモンベルとエイアンドエフがシート生地などの異なったシリーズで別々に展開している。フレームや強度は同じものだ。

ビーチチェアはヘリノックスチェアのひとつで、その名の通り浜辺で使うことを想定して作られており、砂地でも潜り込みにくい脚部の設計や低い座面高、そして背もたれの長さが特徴だ。座面の低さと背もたれの傾斜で足を投げ出して座るのに最適で、そのため一度座ると立ち上がりたくなくなってしまう。昼寝に最高のイスで、僕はキャンプの夜、座ったまま朝まで寝てしまったこともあるくらいだ。

そして何より、イスは体のサイズとの関係が最も重要だから、できる限り現物に座ってから購入することをオススメしたい。ちょっとした座面高の違いや背もたれの角度などで座り心地は全くといいほどに異なる。ネットのレビューなど、どんな体型の人が書いたか分からない記事を参考にして買ってはいけない。

軽量性を追求したモデルや体重の多い人は耐荷重もチェックしたい。もちろんメーカー保証のある製品であることが重要ポイントだ。

筆者所有のイスたち。向かって左から……
「グリベルのトレッキングチェア」は現在販売されていない。中古品はweb上で数千円程度にての出品が見られる。
「ヘリノックスのチェアワン」。単純にチェアワンと言っても数種類あり、たとえばタクティカルチェアは1万4080円から。展開時は52×53×67cm。収納時は14×35cm。座面高は34cm。総重量は1020g。耐荷重は145kgだ。
「ヘリノックスのビーチチェア」。ビーチチェアにも複数あるが、たとえばビーチチェアメッシュ/ブラックは2万4200円。展開時は59×73×80cm。収納時は55×15×23cm。座面高は27cm。総重量は1260g。耐荷重は145kg。
上写真の3種のイスを収納すると、このようにコンパクトになる。左のペットボトルは500mL。
「モンベル L.W.トレールチェア26(ワインレッド)」2860円。ほかにブラック、ブルーグリーン、イエローも設定。展開時のサイズは高さ27×幅28×奥行き25cm(座面高26cm)。収納サイズは7.5×34cm。重量は331g。耐荷重は約80kg。フレーム素材はアルミニウム合金。サイズがちょっとだけ大きい座面高が33cmの「L.W.トレールチェア33」(3300円)の設定もある。
携帯用のイスだと、小さなサイズで座面高が低くなりがち。その場合、楽に座るにはあぐらをかくようにすればよい。

チェアリングの遊び方ベスト5 座れば、いつもとは違う時間が流れる

チェアリングで楽しいのは、そのゆったりした時間だ。しかも、頭の切り替え、気分の切り替えに行くわけだから、通勤電車の中のようなスマホでのゲームやLINEでの雑談で終わらせてしまうのはもったいない。オススメを紹介しよう。読書、昼寝、バードウォッチング、コーヒー、ランチの5つである。

最も気軽にできるのが読書で、文庫本を1冊持っていくだけでもいいし、小振りな植物図鑑を持っていき、イスの周りに生えている植物たちを調べてみるのも楽しいだろう。眠くなったらそのまま昼寝をしてしまえばいい。それも休日の時間の過ごし方としては最高だろう。

昼寝は最も贅沢なチェアリングの時間の使い方だが、これにはハイバックつまり背もたれの長いタイプのイスが必要になる。しかし、最近はコンパクトに折り畳めて軽量なハイバックチェアもあるから心配いらない。

双眼鏡を持ってバードウォッチングもいいもの。木のある公園などならどこからか鳥の声も聞こえてくるだろう。声の主を探してみるのはなかなか楽しい。声と想像した姿がずいぶん違う鳥たちもたくさんいる。

美味しいもの好きならコーヒーとランチがオススメだ。まずはコーヒー。ミルを使って豆を挽き、ストーブとケトルで湯を沸かし、ドリッパーで淹れる。またはパーコレーターやナポリターナなど、好きな道具を使って淹れる。いい香りが周囲に広がり、家で淹れる一杯とはまた違った味わいを満喫できるだろう。

道具だてが面倒な人はインスタントだって構わないし、紅茶が好きな人はそれだっていい。ドーナッツやクッキーなど甘いものがあればなおいい。それだけで十分素敵な時間が過ごせるだろう。

サンドイッチや惣菜パン、おにぎりなどを持っていけば、ふだんとは全く違った解放感の中でランチが楽しめる。なぜ外で食べるご飯がこんなにも美味しいのか、という問いにはこう答えたい。「吹く風が最高のスパイスになっているからだ」と。

読書といっても、ビジネス新書や流行のタイトルは、空気を悪くするので持っていかない。自分の心が必用としているのは?……そう、持っていくのはその本だ。
バードウォッチングに双眼鏡は必須だろう。心地よいさえずりを頼りに、枝に休む野鳥を探す。見つからなければ、うまく隠れた鳥を讃えよう。名前が分からなければ、自分だけの呼び名をつけてあげよう。
チェアリング中、自然の中で淹れるコーヒーは格別だ。できればミルで挽く豆の香りや、ゴリゴリした感触も楽しみながら、時間をたっぷりかけてのお手前としたい。
陽の下でいただけるランチがあれば言うことナシ。舌と胃が満たされると、人はすぐに幸福になってしまう。なんて簡単な存在なんだろう。

レポート●鈴木アキラ 写真●鈴木アキラ/エイアンドエフ/モンベル/ヘリノックス(順不同)

プロフィール●鈴木アキラ
フリーランスライター。アウトドア全般のスペシャリスト。1960年、青森県生まれ。遊び方、用品、調理などに豊富な情報とノウハウを持つ。『アウトドアで活躍! ナイフ・ナタ・斧の使い方』(山と溪谷社)、『オートキャンパー』(八重洲出版)ほか著作/寄稿多数。映画『八甲田山』(1977年・東宝映画)の雪山ロケでエキストラをしていた経験あり。

CONTACT

○エイアンドエフ(ペンドルトン/アディロンダック/クレイジークリーク/ヴァガボンドチェアー)

https://www.aandf.co.jp/#/

○モンベル(L.W.トレールチェア)

https://www.montbell.jp/

○ヘリノックス(チェアワン系)

https://www.helinox.co.jp/

https://www.helinox.jp/

(順不同)

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