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【元警察官】が解説!「ギア入れ」って?坂道駐車でニュートラルだと…クルマが勝手に走り出すことも!

■「ギア入れ」って?

「ギア入れ」とは?MT車を駐車するときはギアを入れておく必要があるのか?

クルマを運転するとき、必ず最後にはクルマを止めて降りることになります。仕事でクルマを運転する人なら、一日に何度も「運転→駐車」を繰り返すことになるでしょう。
MT(マニュアル・トランスミッション)のクルマなら、駐車時には「ギア入れ」をするのが基本だと自動車学校や教習所で習ったはずです。ところが、ネット上の意見をみると「ギア入れはしないほうがいい」という人も少なくありません。
本当にMT車を駐車するときはギア入れをする必要があるのでしょうか?

「ギア入れ」とは?

「ギア入れ」とは、MT車を駐車してエンジンを切りクルマを離れる際、ギアを1速(ローギア)または後退(リバースギア)に入れておく措置のことです。そうすることで、駐車中のクルマが不意に動き出してしまう事態を防げます。

とくに坂道など勾配のある場所に駐車する際は、自走事故を防ぐためにギア入れは必須です。
2025年5月には、神奈川県海老名市の住宅街で、駐車中のトラックが勝手に坂道を下り始めて住宅の駐車場に突っ込み、納車1か月も経っていない新車が廃車になってしまう事故が起きました。また、兵庫県神戸市でも、ユニック車が坂道で自走事故を起こしています。この事故では、運転手の男性がユニック車にひかれて重症を負いました。

どちらの事故も「サイドブレーキの引きが甘かった」ことが原因で、ギア入れをしていれば事故は防げたでしょう。仮にサイドブレーキをしっかり引いていたとしても、油断は禁物です。クルマのサイドブレーキはワイヤーの張力で後輪のブレーキを作動させ続ける構造であり、ワイヤーが伸びたり切れたりするとブレーキが利かなくなってしまいます。
そもそも、サイドブレーキは制止している状態をキープするためのものであり、大きな制動力はないので、急な勾配の坂道では不十分です。
ギア入れはMT車を駐車する際の基本だと心得ておきましょう。

「ギア入れはやめておけ」派も存在……その理由は?

ところが、ネット上では「ギア入れはしない」「ギア入れをするべきではない」といった意見もチラホラ見かけます。
「ギア入れはやめておけ」派の主張は、おおむね次のとおりです。
●サイドブレーキだけで十分
●そもそもめんどくさい
●ギア入れをしていることを忘れてエンジンをかけると、いきなりミッションがつながってしまうのでかえって危険
●ギア入れをしたまま駐車しているところにほかのクルマが突っ込んでしまうとトランスミッションが壊れる

サイドブレーキは、静止しているクルマの状態を保つための機構であり、運転時に使用するフットブレーキに比べると制動力は高くありません。ワイヤーが切れたり伸びたりするといきなりブレーキが利かなくなることもあるので、ギア入れは必須です。

また、普段ギア入れをする習慣がない人だと、ほかの人がギア入れしたMT車に乗ったとき、発進時にいきなりクラッチがつながって思わぬ事故を起こしてしまうおそれがあります。とくにローギアとリバースギアはトルクが大きいのでいきなり強い力がはたらき、急発進で衝突したり、いきなりバックして壁などに激突したりといった事故につながります。
最近のMT車はクラッチを踏み込まないとエンジンが始動しない仕組みになっているものが多いですが、他人のクルマや会社のクルマなどは要注意です。

追突事故時にトランスミッションが壊れるおそれがあるという心配はもっともかもしれません。しかし、ギア入れしている状況なら完全に停止しているはずなので、たとえ追突事故に遭っても駐車禁止などの場所でなければすべて相手の責任です。当然、修理費用は相手側が100%の責任をもつことになるし、そもそも自走事故の危険と「事故に遭うかもしれない」という不安とを天秤にかけることがナンセンスでしょう。
やはりいろいろな理由を考えてみても、ギア入れを否定できる根拠にはなりません。

大型車はギア入れNGってホント?

ギア入れ反対派の意見は道理が通っていないものばかりですが、大型車に限ってはギア入れをしないほうがいいかもしれません。
というのは、大型車の多くは、圧縮された空気の圧を利用するブレーキシステム「エアブレーキ」が搭載されています。重たい車体をしっかりと制動するためには、普通車と同じ油圧ブレーキでは力が足りないのです。

ただし、このエアブレーキも万能ではありません。
もしギアを入れたまま駐車していて、その間にタンク内の空気が抜けきってしまうと、ギアがローまたはリバースから抜けなくなってしまうのです。駐車時のギアポジションをニュートラルにしたまま休憩や仮眠をとっているドライバーが多いのは、エア抜けによるトラブルを想定しての対策だと考えられます。

ただし、駐車時のギア入れがトラブルを招くのはエアブレーキが不調をきたしたときだけです。とくに大型車は荷台が重くなることが多いので、エアブレーキといえども過信してはいけません。大型車でも、勾配のかかった場所に駐車する際は、上りならローギアに、下りならリバースギアに入れるのが基本です。

MT車で駐車・自走事故を防ぐコツ

MT車を駐車する際に自走事故を防ぐには、確実にサイドブレーキを利かせたうえでギア入れをすることが大切です。ただし、クルマが不調をきたしている状況だったり、急勾配の場所であったりするときは、それだけでは安心できません。

自走事故を防止するために大きな効果を発揮するのが「輪留め」です。
前後輪をしっかりと挟み込んでおけば、タイヤが勝手に転がろうとしても物理的にロックできます。トラックなどの大型車なら当然装備しているアイテムですが、急勾配の場所に駐車する機会が多いなら普通車でも使用したほうがいいでしょう。

もうひとつ、自走事故を防ぐコツとして有効なのが「ハンドル切り」です。
上り坂の場合は右に、下り坂の場合は左にハンドルを切って駐車しておけば、タイヤが転がり始めても縁石などの障害物に当たって止まってくれます。たとえ縁石がない場所でも、長い坂を自走して大事故になってしまう事態を防いで事故を最小限に食い止めることができるので、ぜひ実践してください。

そして、そもそも自走事故を防ぐには「勾配がある場所に止めないこと」が大切です。勾配がある場所をできるだけ避けて平たんな場所に駐車すれば、自走事故に発展するリスクを大幅に軽減できます。やむを得ない事情がない限り、少々の面倒はガマンしてリスク排除に努めるほうが賢明でしょう。

レポート●鷹橋公宣 イラスト●モーサイ編集部

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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