■「駐車禁止」「駐車余地」規制標識の部分アップ
これって駐車違反?禁止場所やルールのキホンと点数・反則金
日本では人が住む街だけでなく滅多に人やクルマが通らないような場所にまで道路が整備されていて、2023年度末の時点でその実延長距離は122万1220kmに及びます。そのなかで、16万9303kmは、クルマを停めたり止まったりしてはいけない「駐車禁止・駐停車禁止」の規制が敷かれた道路です。つまり、日本の道路の約14%は「止めてはいけない場所」になります。
知らなかったでは済まされない駐車違反のルールと、違反をしてしまった場合の点数・反則金などをおさらいしておきましょう。
意外と間違っているかも?「駐車」と「停車」の違い
まずしっかりおさらいしたのが「駐車」と「停車」の違いです。クルマを停めることのすべてを広く駐車と呼んでも日常会話は成立するかもしれませんが、法律上の考え方ではまったく意味が違います。
駐車とは、クルマが継続的に停止していて、すぐに発進できない状態です。
もう一方の停車とは、クルマが停止しているもののすぐに発進できる状態を指します。
たとえば、道路の脇にクルマを停止させて目の前のお店に入っている状況だと、クルマはただちに発進できるとはいえないので駐車にあたります。
反対に、同じ場所でも運転席にドライバーが乗っている状態で同乗者だけが降車している状況なら、クルマはただちに発進できるので停車にあたります。ただし、ドライバーが乗っていてもクルマが故障して動けなくなっていたり、車内に運転免許を持っていない人しか残っていなかったりする状況ではクルマはただちに発進できないので、停車ではなく駐車になると考えてください。
標識などで示されている「指定」の場所だと違反になる
クルマの免許をもっている人なら学科の講義でかならず習っているはずですが忘れがちなのが、駐車禁止には「指定」と「法定」が存在するという点です。駐車禁止における「指定」とは、標識などによって「ここは駐車禁止ですよ」と表示されている場所・区間を指します。

中央がバツ印になっているものが駐車も停車もできない「駐停車禁止」、中央が斜線になっているものは駐車のみが認められない「駐車禁止」の標識です。
なお、上部に「8-20」などと書かれていることがありますが、これは規制を受ける時間を指しています。「8-20」だと、8時から20時までの間は駐停車禁止・駐車禁止の規制を受けますが、それ以外の時間帯には規制を受けません。ほかにも「土曜・日曜・祝日を除く」や「人の乗降を除く」といった補助標識が付属していることがあり、柔軟に規制内容が変わります。
標識がなくてもアウト!「法定」の禁止場所
指定の禁止場所は、標識などでしっかり示してくれているのでわかりやすいのですが、つい違反しがちなのが「法定」の禁止場所です。たくさんあるので、順番にチェックしていきましょう。
まずは駐車余地と駐車方法の関連です。

クルマを道路に駐車するときは、右側に3.5m以上、左側に0.75m以上の余地を空ける必要があります。ほかの交通のじゃまをしてしまうような駐車はダメですよ、というルールです。
交差点や曲がり角は、クルマが停まっていると交通の流れをジャマしてしまうだけでなく、後続車両がその存在に気付かず追突する危険もあるので、駐車も停車もできません。とくに交差点内や曲がり角に駐車していると極めて迷惑であり、ほかのドライバーから通報される可能性が高いので「ちょっとだけ」のつもりでも駐停車は禁物です。


周囲への迷惑になるといえば、バス・鉄道・路面電車に関連するルールも重要です。
バスなどの停留所がある場所では、標示板・標示柱を中心に10m以内は駐車も停車もできません。駐停車禁止なので、たとえば「電話がかかってきたので折り返しの連絡をするためにクルマを停めた」といった事情でも違反になります。
なお、停留所周辺の駐停車禁止はバスなどの運行時間内に限定された規制です。このルールに従えば、最終便が通り過ぎて始発便が到着するまでは違反になりません。
ただし、夜間8時間以上の路上駐車は道路交通法の駐車違反ではなく「車庫法」という別の法律の違反になる可能性があります。駐車違反よりも重い罰を受けるので、運行時間外でも危険回避などの事情がなければ停留所周辺への駐車・停車は避けてください。

踏切の中は列車との接触事故につながるので駐停車禁止です。踏切の前後10m以内も列車やほかの交通に危険を及ぼすので駐車も停車も禁止されています。

都電荒川線や東急世田谷線などの路面電車が走っているエリアでは、ほかのエリアにはない駐車禁止を意識する必要があります。停留場などの安全地帯は、その左側部分と両端から前後10m以内が駐停車禁止です。もちろん、軌道敷の中は駐車も停車も禁止されています。
日ごろから路面電車が走っているエリアを運転している方はもちろんですが、東京・大阪・函館・福井・愛知・岡山・広島といった方面に仕事や観光で出向く方は注意しておきましょう。

次は設備などの関連をチェックしていきます。最も身近なのは、車庫や駐車場など自動車を停めるスペースの規制です。車庫・駐車場に作られている自動車用の出入り口の3m以内は駐車が禁止されています。
この規制のいちばん気を付けたいポイントは車庫の所有者や駐車場の契約者でも関係がなく、等しく規制を受けるという点です。たとえば、自宅の車庫前や自分が契約している駐車場の前に駐車していた場合でも駐車違反になってしまうという点は覚えておきましょう。

街なかには火災に備えて消防活動用の水利が整備されています。万が一の事態に駐車車両がジャマで水利が使えないと消火活動に遅れが生じてしまうので、周辺5m以内の駐車は禁止です。

道路工事が行われている場所では、その側端から5m以内の駐車が禁止されています。工事現場の周辺は交通の流れが変化しやすく、駐車車両があれば危険を生じさせやすいためです。

このほかにも、
●トンネル内
●勾配の急な坂道・坂道の頂上付近
は周囲の交通に危険を及ぼすため、駐車も停車も禁止されています。
駐車違反の罰則、点数・反則金は?
駐車違反の罰則や点数は、違反を犯した場所が駐車禁止なのか、それとも駐停車禁止なのかによって変わります。さらに、ドライバーが車を離れている状態の「放置」であるかどうかによっても重さが変化します。
放置駐車違反の場合は、駐停車禁止場所で3点・1万8000円、駐車禁止場所で2点・1万5000円です。(普通車の場合)なお、ここでいう「放置」とはドライバーがクルマから離れていてただちに発進できない状態なので、駐車したばかりであるとか、すぐ目の前の店にいるとか、エンジンを切らずにハザードランプをつけていたといった事情は考慮されません。
放置に該当しない駐車違反の場合は、駐停車禁止場所で2点・1万2000円、駐車禁止場所で1点・1万円です。(普通車の場合)
駐車違反で「黄色いステッカー」を貼られた!どう対応するのが正解?
ひと昔前の話ですが、駐車違反の取締りといえばパトカー・ミニパトで警察官が巡回して違反車両を探し、サイドミラーに取り外し不可の輪っか状の標章を取り付けたり、タイヤの位置にチョークで線を引いたり、タイヤに輪留めをかけたりといった方法が主流でした。
しかし、2006年6月に改正道路交通法が施行されてからは、それまでの取締り方法ではなく、フロントガラスに「黄色いステッカー」などと呼ばれる「放置車両確認標章」が貼り付けられるようになっています。
放置車両確認標章は、従来の輪っかや輪留めと違ってドライバー側で剝がすことが認められていますが、原則としてドライバーは標章をもって警察署に出頭しなければなりません。というのは建前で、じつは「出頭しなくてもよい」というのが実情です。
標章をもって警察署に出頭すると、標章の貼付時に確認した情報をもとに駐車違反の切符処理を受けます。では出頭しないとどうなるのかといえば、車検証上の使用者のもとに放置違反金を納めるための「仮納付書」となぜ駐車違反をしたのかを弁明する「弁明通知書」が郵送されるだけです。仮納付書を使って放置違反金を納付すれば、違反点数は加算されません。
ただし、使用者のもとに仮納付書などが郵送されるほうが都合が悪いシチュエーションも存在します。たとえば社用車や友人から借りたクルマで駐車違反をしてしまい、使用者に知られたくない場合は、自ら出頭して切符処理を受けたほうがベターです。
駐車違反の検挙は減少している……その原因は?
警察庁の発表によると、2023年の駐車・駐停車違反の検挙件数は14万5311件でした。過去にさかのぼると、2020年では19万1127件、制度が変更される前の2005年ではなんと159万3377件も検挙されており、明らかに検挙数が激減しています。
減少の理由はいくつかありますが、最大の理由は、制度の変更によって警察から委託を受けた駐車監視員による取締りも行われるようになり、「駐車違反は摘発されやすい」という意識が高まったからでしょう。迷惑な違法駐車が減少しているのだとすれば、交通社会が良い方向へと向かっているのかもしれません。
しかし、裏にはほかにも大きな理由があります。
じつは、制度が変更されたことによって、現場警察官が駐車違反を取り締まる機会が少なくなり、次第に駐車違反のルールを熟知している警察官が減っているのです。
とくに法定の駐車・駐停車禁止は警察組織のなかでも「間違えやすい」という認識で、警察署の運用によっては交通専門の係員でない交番・パトカー勤務員には「取締りをしないように」とお触れを出しているケースもあります。
そのため、若手のなかには、駐車違反の切符処理をしたことがない、といった警察官もめずらしくありません。
駐車違反の検挙数が激減したのは、迷惑な違法駐車が減ったのではなく、警察官に「駐車違反を取り締まる知識・スキルがなくなっている」のが裏の理由としてあるのです。
とはいえ、駐車監視員による取締りが行われている、SNSの普及によって迷惑な違法駐車がネット上に晒されることも多いなど、社会全体で「違法駐車を許さない」という意識が高まっているのは間違いありません。
検挙数が減っているからといって「取締りが甘いので違法駐車でもお構いなし」と油断するのは禁物です。たとえ短時間でもクルマを駐車する必要があるときは、公共の駐車場や有料のコインパーキングなどを利用し、ルールを守るように心がけましょう。
レポート&図版●鷹橋公宣 写真●モーサイ編集部
◯鷹橋公宣(たかはし きみのり)
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、「note」では元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。