■蒸発現象 イメージ
歩行者が消える?超危険な「蒸発現象」による事故を防ぐ方法
2024年10月、岡山県内の道路である現象が原因となる交通事故が起きました。横断歩道を渡っていた高齢の女性をクルマがはねた、という事故です。クルマを運転していたのは地元の警察官でしたが、どうやら不注意などではなく「歩行者の姿が見えなくなる」という現象が起きていました。
この事故は「蒸発現象」によって起きたものだと考えられています。
熟練ドライバーでも防ぐのは難しいといわれている蒸発現象のメカニズムや防止策を考えていきましょう。
蒸発現象とは?
蒸発現象とは、自分のクルマのライトと対向車のライトが交錯するエリアで光の交差が起きて、そのエリアにいる歩行者などの姿がまるで蒸発してしまったかのように見えなくなる現象です。物理の世界では「グレア現象」とも呼ばれています。
この現象が起きる条件がそろうと、しっかり前方を注意していても歩行者などの姿が見えなくなってしまうので、重大な交通事故につながります。
図でいうと、2台のクルマのヘッドライトが交差する道路の真ん中付近で蒸発現象が起きて、中央にいる女性の姿が消えてしまうのです。

蒸発現象が起きやすくなる条件
蒸発現象は強い光によって発生します。強い日差しを浴びて目がくらみ見えにくくなった経験は誰にでもあるはずですが、その現象がクルマのヘッドライトによって起きると考えればわかりやすいでしょう。
蒸発現象が起きやすくなるのは主に夜間です。とくに、歩行者から30~50mほど離れた位置でヘッドライトを照射すると起きやすくなるといわれています。周囲が真っ暗になった夜間だけでなく、薄暗くなってきて目がまだ暗さに慣れていないタイミングや、太陽が沈みかけて西日が目に入りやすい夕暮れどきにも蒸発現象が起きるそうです。
さらに、視界が悪いうえに乱反射によってまぶしさが強くなりやすい雨降りの日も蒸発現象が起きやすくなります。冒頭で紹介した2024年10月の事故も、夜間・雨天という条件がそろっていました。
なお、蒸発現象が起きる条件下では、歩行者の服装などは大した影響がありません。歩行者の立場で夜間の事故を防ぐには、できるだけ明るい色の衣服を着たり、反射材を身につけたりといった対策が有効とされていますが、たとえこれらの対策を取っていても蒸発現象が起きると歩行者の姿は消えるか、見えにくくなってしまいます。
蒸発現象が怖い理由
蒸発現象が怖い最大の理由は「歩行者が『いない』と錯覚してしまう」ことです。とくに夜間は仕事が終わって早く自宅に帰りたい、待ち合わせの場所へ急いでいる、周囲にクルマが少ないなどの理由で、ついスピードを出し過ぎてしまいやすくなります。そんな状況のなか、いないと思っていた場所で突然目の前に歩行者がいることに気付いても、回避は間に合いません。
さらに、横断歩道を歩いている歩行者の多くは、たとえ周囲にクルマがいても「クルマが止まってくれるだろう」と考えがちです。もちろん、歩行者を発見できれば誰でも止まったり減速したりといった危険回避を取るのは当然ですが、存在している歩行者が見えないのだからどうしようもありません。ノーブレーキで接触し、歩行者に重大な危険を与えてしまうのが、蒸発現象の最も怖いところなのです。
蒸発現象による事故を防ぐために有効な対策やアイテム
蒸発現象を完全に防ぐことはできません。暗さ・天候といった自然現象、周囲の交通、なによりも人間の身体のメカニズムが折り重なって発生する現象なので、絶対に蒸発現象を起きないようにするのは不可能です。
蒸発現象による事故を防ぐためには、まずこういった危険な現象が道路で起こり得ると知っておかなければなりません。そのうえで、危険な現象に「自分も遭遇するかもしれない」という心構えをもっておいてください。そうすれば、夜間で人が少なくても、横断道路の周囲では蒸発現象が起きるかもしれないという危険予知が可能になります。これだけでも、人を傷つけず、自分自身も不幸にしない運転を実践できるでしょう。
また、蒸発現象はいわゆる「ロービーム」のほうが起きにくいといわれています。直線的な光線を発するハイビームよりも前方斜め下を照射するロービームのほうが蒸発現象を回避しやすいので、対向車が近付いてきたらお互いがロービームで走行するよう心掛けてください。
雨天時や日ごろから夜間のぎらつきが苦手な方は、サングラスやサンバイザーを活用してください。とくに、明るさを確保しつつ夜間のぎらつきを抑えるイエロー系のサングラスを着用すれば、蒸発現象が起きにくくなります。
蒸発現象を完全に防ぐのは不可能ですが、日ごろからの心構えと便利なアイテムを活用して、悲惨な事故を起こさないように気をつけましょう。
レポート●鷹橋公宣 写真●鷹橋公宣/モーサイ編集部
◯鷹橋公宣(たかはし きみのり)
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、「note」では元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。