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白バイ警察官になるためのファーストステップ、必要なのは執拗なアピールや根回し!?
警察官になっても、すぐに白バイ警察官になれる訳ではありません。白バイ警察官になるには、まず「白バイ隊員になりたい」と希望しなくてはいけません。しかし、いくら希望していて、バイクの運転が好きだとか上手いからと言っても、白バイ警察官になれる訳でもありません。まず、警察官として日々の勤務で実績を積み上げて、アピールすることが必要となります。今回は、そんな実体験をお話しようと思います。
非番や休みの日も、交通課へ配属希望をアピール
白バイ警察官に限らず、専門の課へ入りたい場合は、それぞれの課へアピールすることが必要です(刑事課、生活安全課、警備課など、色々あります)。そして白バイ警察官になるには、交通課へ入らなくてはいけない場合がほとんどです。しかし、勤務実績やアピールだけでなんとかなる訳でもないのです。仕事の実績によるアピール以外にも、非番や休みの日を使い、行きたい課で仕事している先輩や階級が上の人などに挨拶に行ったり仕事を手伝ったりして、自分の名前を知ってもらうことも必要です。
そこで可愛がられたりして認めてもらえると、希望の課への異動が実現しやすくなります。しかし、頑張って希望の課へ入る努力をしたとしても、人数の空きなどによって、まったく希望していない課へ配属となる残念なケースも多くあります。本当は刑事課を希望していたのに生活安全課に行くということもザラにあり、希望の課への道を諦める人が多いのも事実です。
また人間関係もかなり大事な要素になってきます。自分の直属の上司などに嫌われてしまったり、仕事で失敗を繰り返したり、適当な仕事をしていると、課の垣根を超えて悪い噂は瞬く間に広がってしまいます。
特に専門の課の人達は優秀かつ若い人材を欲しがっているので、新人警察官の仕事ぶりや評判、噂話などに敏感になっている人も多いのです。極端な話、理不尽な要求をしてくる上司がいても、口答えしようものなら将来、希望の部署へ行けなくなる恐れもあります。
希望する交通課へ入れたら
当たり前ですが、とにかく仕事を一所懸命します。パトカーでの取り締まり、徒歩での取り締まり、駐車違反の取り締まり、苦情や相談等も職務の一つです。与えられた仕事はもちろん、自ら進んで仕事をして、「気が利く新人がいる」と噂になるくらい先輩や上司にアピールし「白バイに乗りたい」という希望を言い続けます。
そして、仕事内容や勤務態度で一定以上の評価をしてもらえると、上司が白バイ警察官への希望調査に関する情報収集や白バイ警察官への推薦を積極的に行ってくれる可能性が高まるのです。上司に現役白バイ警察官の同僚や知人がいると話は早く、「白バイを希望している若い奴がいる」などと話をしてくれたり、名前を売ってくれる場合もあります。
意外と言うかやっぱりと言うか、コネの力が大きく働く場合もあります。都道府県警により異なると思いますが、様々な所属から名前の上がった白バイを希望する若い警察官が選ばれ、白バイ警察官を育成するカリキュラム等への参加が認められるのです。ですが、このカリキュラムには定員があり、交通課に入ってから運よく数カ月で声が掛かる人も入れば、数年待っても声が掛からない人もいます。
地域によって異なる白バイ警察官の育成
白バイ警察官を育成するカリキュラムに参加することが、まず最初のスタートとなります。カリキュラムの内容や期間については各県により異なるので、詳細については割愛します。また白バイ警察官の運用についても、それぞれの県で大きく異なります。大まかに言うと交通機動隊にしか白バイが配置されていない県があったり、交通機動隊とは別に各警察署に白バイが配置されていたりする県もあります。
交通機動隊にも各県で特色があり、白バイ隊員とパトカー隊員とに分けられて構成されている県があったり、白バイ隊員とパトカー隊員の兼務となっている県もあります。警察署に白バイが配備されている県では、警察署の白バイ警察官と交通機動隊の白バイ隊員とに分けられます。警察署と交通機動隊、どっちが上ということはありませんが、交通機動隊の白バイ隊員の方が交通取り締まりのプロという風潮があります。

晴れて交通機動隊の白バイ隊員になった!でも、喜びは束の間
交通機動隊配属の「新隊員」には人権なし
警察署の交通課は、交通取り締まりだけではなく、車庫証明や道路使用許可、運転免許証の更新、交通事故処理など、様々な業務を行っています。それに対し、交通機動隊は交通取り締まりに特化した部署となっています。そして交通機動隊は「機動隊」という名前の通りゴリゴリの体育会系となっており、上下関係や規律など警察署とは比べものにならないくらい厳しい所属となっております。もちろん、交通機動隊に新隊員として入ったものなら人権などありません。
これまで白バイ警察官と記述してきましたが、交通機動隊では隊員と言っているので、以下から白バイ隊員と言い直します。
そして、白バイ隊員の新入りはしばらくの間は名前で呼ばれず、「新隊員」と呼ばれることが多いです。ベテラン隊員の警部補や巡査部長には「おい、新隊員」と呼ばれ、少しでも返事が小さかったり、上司の癇に障るようなことがあれば、雷が落ちます。ただし、時間が経てば次第に名前で呼ばれるようになったりイジってもらえるようになり、それだけでも嬉しかったことを今でも覚えています。
ですが、今の時代で言うパワハラとは異なり、命を危険にさらす仕事である以上、敢えて厳しい指導をしてくれていたと思っています。白バイ隊員は他の警察官と異なり単独勤務が多く大変なことも多いので、現場で通用出来る白バイ隊員にさせるベく、必然的に厳しく教育されているのです。
「新隊員」の朝は早い
白バイの新隊員は先輩や上司が出勤する前に出勤し、事務所内の掃除、先輩・上司のブーツ磨き、仕事道具の準備があり、お茶・コーヒー出しの準備、なおかつ自分の仕事の準備もします。少しでも上司や先輩の気に入らない点があればお叱りを受けるので、朝から必死です。
もちろん、事務所掃除などにも意味があります。白バイ隊員たるもの、些細なことに気を配ることが出来なけば、公道で一般車両に気を配りながら取り締まり活動など出来ないですし、自分が事故を起こす原因になってしまう可能性もあります。日頃の勤務から周りの空気を読んだりすることが、状況を把握することの鍛錬になっているのです。
また、そんな生活にも慣れてくると、正規の出勤時間という概念がなくなっていきます。仕事が始まるまでの時間は、もちろん自主練習の時間であり、新隊員は勤務時間が始まるまでに外を全力でランニングして筋トレをするなど、体力トレーニングを行います。新隊員を指導する上司にもよりますが、私が新隊員の時は全力の早朝ランニングが課され、5km以上の距離を雨の日も風の日も1カ月くらいの期間走ったことを覚えています。
長い訓練期間の日々を経て、ようやく独り立ち

激痛に耐える新隊員
新隊員は、まずバイクの訓練をするのが仕事となり、仕事としてバイクに乗る以上、厳しい訓練となります。
バイクの訓練と言っても決してバイクに乗ることだけではなく、エンジンを掛けずにひたすらバイクを押して取り回しの練習をしたり、全力疾走で270kg以上の重さのバイクを人力で押し、隊員によっては嘔吐するくらいの訓練(!?)、修行を重ねます。ほかにもセンタースタンドを立てた状態で基本の乗車姿勢を取り、身体に染み込ませたり、私が新隊員の時は入隊して1カ月間はバイクのエンジンを掛けることすら許してもらえませんでした。しかもそれが毎日続くのですから、身体も徐々に悲鳴を上げていきます。
新隊員として交通機動隊に入る前は、警察署で不規則な生活をし、運動とは程遠い事務作業の連続でした。そんな怠けた身体で急に激しい訓練を始めるので、当然身体が壊れていきます。当時両膝にサポーターを付けていないとまともに歩けなかったり、風邪を引いて熱があって咳き込んでいても必死に訓練をしていました。とても「休みます」とは言えなかった記憶があります。
また、怪我をしても「骨が折れていなければ怪我ではない」とも言われており、怪我を隠したり、無理して訓練をする隊員がほとんどでした。毎日のように痛み止めを飲んで訓練に参加していたこともあります。そうして、基礎体力訓練ばかりの日々も終わりを迎えますが、バイクに乗れるようになってからが本当の戦いとなります。
バイクに乗れるようになったものの
「やっとバイクに乗れる」と喜べるのは一瞬で、体力トレーニングが終わる訳ではありません。体力トレーニングの時間が少し短くなり、その分、バイクに乗る時間が多くなりますが、バイクに乗っているとさらに身体へのダメージが蓄積されていきます。
当然ツーリングでバイクに乗るような爽快感を得られるようなものではなく、ひたすらパイロンを避けて全力でアクセルを開ける訓練を繰り返します。先輩や上司のように上手く乗ることが出来る訳もなく、転倒の連続です。毎日のように身体への擦り傷は増え、バイクを壊した時には修理もしなければなりません。怪我をして、バイクも壊れ、常に怒られ、心身ともに疲弊していきます。
ちなみに、訓練で使用しているバイクは、自分達の手で修理します。車両ごとに担当者が割り当てられ、それぞれの責任によりバイクを管理します。新隊員は整備すら出来ないので、先輩隊員の指導により車両整備をします。全開で走るバイクの整備なので、不具合などは許されません。車両整備をした際は先輩隊員からのチェックが入り、その後に上司からもチェックが入ります。もちろん、整備後に不具合箇所が見つかったら大変です。整備マニュアルとにらめっこしながら、夜中まで整備することも度々ありました。
唯一、気が休まったのが勤務時間後、自主訓練やバイク整備を終えて帰宅する前に、バイクを止めている車庫の中で、新隊員同士で愚痴を言ったり、夜遅くにみんなで外食をすることでした。今思えば、本気でやる大人の部活動のような時間でした。
白バイ隊員の公道デビュー「独り立ち」
都道府県警により、道路に出られるまでの期間や、一人で取り締まり活動が許されるようになるまでの期間は異なります。
私の新隊員時代は、バイクの乗車技術の効果測定を行い、合格点を取れると、路上走行する許可をいただけるというものでした。効果測定に合格することが出来ると、先輩隊員や上司と路上に出て路上訓練をします。
白バイ隊員は公道上で事故を起こすことは絶対に許されないので、路上訓練中も厳しい指導を受けます。また、新隊員訓練の途中で回復に時間が掛かる大怪我をしたり、訓練についていけないという理由で一人前の白バイ隊員になる前にフェードアウトする隊員も少なからずおりました。
先輩隊員や上司と共に路上走行や取り締まり活動を繰り返し、一人活動しも問題ないと判断されれば、独り立ちを許されます。隊員ごとに技量などが異なりますし、その時々の情勢により一概にどのくらいの期間で独り立ち出来るとは言えませんが、私の時は約1年くらいの訓練で路上に一人で出ることが許されました。
ここに紹介した訓練を続けていけば、最初は単純なバイクの操作もままならない隊員ですら、小回りやUターンが出来るようになるのです。
今回、白バイ隊員になるにはという内容で、当時の私の経験を基に大まかな流れを書きましたが、各都道府県警によって訓練の内容や期間が異なる点はご容赦下さい。
文●睦良田俊彦
睦良田俊彦(むらた・としひこ)1986年北海道生まれ
趣味:クルマ、バイク
歯科技工士を経て警察官となり、約15年間勤務(白バイ隊員歴約10年)。
警察学校卒業後は約3年半の交番勤務を経て交通部門へ。白バイ警察官として第一線で交通取締りをメインに活動し、ライダーのための安全講習、交通安全啓発イベント、マラソン大会先導、大統領車列先導など、様々な経験を重ねてきた。
県警主催白バイ大会での優勝経験もあり、白バイ新隊員の育成などにも携わった後、巡査部長の階級で依願退職。現在は退職後の夢でもあったライディングレッスンなど、ライダーのためになる活動が出来る場を作るべくYouTuber「臨時駐車場チャンネル」として活動。バイクイベント等に積極的に参加し、出身の北海道で開催のライディングレッスンで講師も務めている。