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【アウトドアのプロ】が指南「ウエアの防水と撥水ってどう違う? どっちも濡れないんなら一緒じゃない?」

雨中でのライディングで濡れずにすませるのはなかなかに難しい

バイク乗りに伝わることわざのひとつに「キル‏‏ヤムヌグフル」というものがある。漢字に直すと「着る止む脱ぐ降る」だ。

ツーリング中に雨が降り始め、バイクを止めてレインスーツを「着る」。しばらく走っていると雨は「止み」、レインスーツの中は蒸れて暑くなってくる。もう大丈夫だろうと思ってレインスーツを「脱ぎ」、走り始めると、また雨が「降り」始めてくる。

この繰り返しをしているうちに着たり脱いだりが面倒臭くなってきて、そのうちに体はしっかり濡れてしまっている。バイクとレインスーツの関係はそういうものである、という笑い話だ。

「撥水ウエア」は雨を水玉にして弾く。撥水効果が持続しているあいだだけ、防水効果がある

さて、今回はレインジャケット、レインスーツなど雨を防ぐ衣料の話だ。このジャンルでよく聞く言葉に「防水」と「撥水」があるが、このふたつを混同している人が実は多い。撥水加工済みのレインウエアと防水のレインウエアは似ているようで全く違う。

「防水」とは「水をふせぐ性能」のことで、「撥水」は「水を弾く現象」のことだ。性能と現象という言葉の違いからもわかるように、このふたつはじつは同列に比べられるものではない。

「撥水」を最も端的に表しているのが「ハスの葉」で、葉の上で水玉がコロコロしている。つまり水を弾いている。買いたての傘がパラパラと水を弾いているのもこの「撥水」だ。

しかし傘や雨具は使っているうちにこの撥水効果が落ちて、しっとり濡れてしまうようになる。傘の場合は内側に接してるものがないから直に水が内側に落ちてくるようなことはない。しかし、衣類の場合は撥水効果がなくなると、生地が内側で体や中に着ている服に接しているために、中まで水が浸透してしまうことになる。

ハスの葉のように永続的に撥水効果がある生地が作られれば、撥水と防水が100%両立するのだろうけれど、衣類としての耐久性や通気性のことを考えると、生きているハスの葉と同じようにはいかないのが現状と言える。

つまり、撥水ウエアというのは主にナイロン系の元々撥水性のある糸を使って織ったものに、撥水スプレーや漬け込みで撥水加工を行なったもので、後加工の撥水剤が落ちてしまうと防水性能は無くなってしまうと言ってもいい。

 かたや、防水ウエアというのは防水性能のあるさまざまな生地を使って作られた衣類のことだが、その防水性能にもさまざまなレベルがあって、全てが100%の防水性をうたったものではないということも覚えておかなくてはいけない。

最初はオイルかパラフィンを素材の生地に染み込ませて防水していた

昔から雨の多い国では防水衣料が発達している。イギリスも雨の多い国だから、レインコート、レインジャケットの発達が著しい。

今でもオイルドコートやオイルドジャケットのブランドとして知られている「バブアー」もそのひとつだ。

また、別の老舗有名ブランド「ベルスタッフ」というバイク用のジャケットも、オイルを生地に染み込ませて防水効果を高めている。

これらは油によって水を弾くというものだ。ただし、オイルを染み込ませてあるから重いし、オイルの匂いもする。好きな人はこの匂いが大好きなのだが。

ロウを熱して生地に染み込ませ、防水効果を高めた服もある。アウトドアウエアではスウェーデンの「フェールラーベン」がポリエステル65%、コットン35%の生地にワックスを染み込ませたG-1000という生地でウエアを作っているし、日本でもガレージブランドでロウ引きジャケットを作っているところがある。オイル引きもロウ引きも昔ながらの方法で、メンテナンスは必要だが、メンテナンスは自分でできるし、それがまた良くて、好きな人はいなくならない。

A&F「バブアー ソーンプルーフドレッシング UAC0001」は2750円。メンテナンス用オイル。防水性や耐久性の持続のために、同ブランドのオイルドジャケットに塗り込んで使う。

防水布の先駆け「マッキントッシュ」はゴム引きで防水

「マッキントッシュ」と言ってもパソコンやスマホのブランドではない。イギリスにある老舗の衣料ブランドで、イギリスではレインコートのことをマッキントッシュと呼ぶほどだ。その歴史はなんと1823年にまで遡る。

チャールズ・マッキントッシュと発明家のトーマス・ハンコックによってマッキントッシュクロスという防水布が作られたのがそのはじまりだ。これは2枚のコットン生地の間にゴムの溶液を塗り、熱で接着させたもので、今では「ゴム引き」と呼ばれるものだ。

特許を得たその布、マッキントッシュクロスを使って、1830年にレインコートが発表される。それまでオイルやパラフィンによる防水布しかなかった世界には画期的な製品として受け入れられ、イギリスの軍や国鉄、警察をはじめとした国の機関から、民間では漁業関係者に至るまでレインウエアや防水ウエアを必要とする人たちに使われるようになっていく。

当初はゴムが硬かったり剥離しやすかったりしたらしいが、それも改良され、現在では高級レインウエアとしてその名が知られている。

「ラーメン合羽」PVCはシームレスにもでき、防水性が高い

バイク乗りのレインウエア、特にズボンの方では未だにこれを越すものはないのではないかと思われるのが、通称「ラーメン合羽(ガッパ)」である。マッキントッシュクロスがゴムだったのに対してこちらはPVC(ポリ塩化ビニール)がコーティング素材となっている。

PVCクロスのいいところは表生地をビニール面にして熱溶着させることで縫い目のないシームレス構造に造ることもできるという点。これによってバイク用のレインウエアでは「シートに座っている股の部分からの水漏れがない」ズボンを作ることができる。

長時間雨の中を走るときに、股の部分の水漏れがいかに不快なものか、また、見栄えの悪いものか、レインズボンを脱いだときに股のあたりの濡れを「お漏らし」したのと勘違いされたことがある人なら分かっていだだけると思う。

ちなみに、バイクのシートなどに使われている、いわゆる合成皮革と呼ばれるものもこれで、これを最初にバッグに取り入れたのはグッチだと言われている。ルイヴィトンのバッグでもPVCを使ったものは非常に多い。

「ロゴス レインアタッカー ズボン」価格はオープン。サイズはM、L、LL、3L。カラーはブルーのみ。溶着でしっかり防水。沿岸作業、養殖業、水産加工業の御用達だ。軽く、動きやすくて快適なことも特徴としている。

「60/40クロス(ロクヨンクロス)」では、濡れた糸が膨れて撥水

「シエラデザインズ」のマウンテンパーカなどに使われているオリジナルの生地は60/40クロス、通称ロクヨンと呼ばれているが、これは横糸にコットン約60%、縦糸にナイロン約40%の比率で織り上げられていることからその名が付けられている。

横糸のコットンが水を吸って膨張すると、糸の目が詰まって水を通しにくくなる。さらに縦糸のナイロンによる撥水性が加わって、水を弾くようになる。濡れるとことによって撥水性能が生まれるというわけだ。

コットン特有の通気性があるため雨は防ぎ湿気を排出する防水透湿性を持った素材であり、ゴアテックスに代表されるフィルムによる完全防水透湿素材ができるまでは画期的な素材であった。化学素材のような劣化の仕方をしないことから、今でも多くのファンを持っている。

60/40クロスの登場は1968年。「シエラデザインズ・オリジナル60/40マウンテンパーカー」の採用からだった。

防水透湿フィルム「ゴアテックス」が、蒸れを解決してくれた

マッキントッシュクロスもラーメン合羽も防水性ということでは100%の威力を発揮しているのだが、逆に言えば100%の防水性があるということは体から発散される汗や蒸気が衣服内にこもるわけで、つまりは「蒸れる」ということでもある。運動量が多い場合はこれが結露して内側が濡れ、「防水性が落ちている」と勘違いしてしまうほど。この問題を解決したのがゴアテックスだ。

「防水でありながら透湿」つまり「水はブロックするが水蒸気は通す」という排反した要素を兼ね備えたのが、それまで医療用、外科用として使われてきたゴアテックスフィルムである。これをウエアやブーツに採用したものはアウトドア用のレインウエアやトレッキングブーツなどとなって、今や世界中で使われている。

「モンベル ストームクルーザー ジャケット Men’s」は2万2880円。サイズはXS、S、M、L、XL、M-R、M-W、L-R、L-Wで、カラーは7色の設定だ。「ゴアテックス」による防水透湿効果だけでなく、カットパターンやシーム処理のしかたも防水性が高いものとしている。

「ゴアテックス」にも弱点はある。汚れや、局所的な水圧には……

夢のような素材であるゴアテックスだが、表生地や裏生地が汚れたり、表生地の撥水性能が落ちたりすると本来のパフォーマンスを発揮しなくなる。

また、膝をついたり重たいものを背負ったりしたときには、ゴアテックスフィルムの耐水性能を超える圧力が加わってしまうために、そこから水が染み込むということはある。これがバイクの場合にはシートに座りっぱなしの股の部分ということになるので、非常に都合の悪いこととなる。先に「バイクではラーメン合羽のズボンが最強」と書いたのはそういう意味だ。

バイクでは特に下半身の運動量はあまり多くないので、上はゴアテックスのジャケット、下はラーメン合羽のズボン、というのが僕個人のオススメのスタイルだ。ただし、見た目を気にしない機能最優先、という話ではあるが。

また、ゴアテックスでは表生地の撥水メンテナンスと裏生地の汗や脂の汚れ落とし(洗濯)も重要なポイントで、メンテナンスフリーと思っていると大間違いだ。

防水透湿性を持つウエアこそ表地の撥水は不可欠

ゴアテックスは防水透湿性を兼ね備えたフィルムで、フィルム単体ではウエア生地として成り立たないから、ウエアの生地素材としてはそのフィルムの表と裏に生地を貼り付けてあるものが一般的だ。これが3レイヤー(3層構造)と呼ばれるタイプとなる。

表生地には撥水加工が施されているが、使っているうちに撥水効果は落ちてくる。最初はキレイに水を弾いてくれていたものが、濡れても水を弾かなくなってしっとり濡れてきてしまう。そうするとどうなるかというと、表生地全体が水の膜となってしまい、内側の蒸気を排出できなくなってしまう。

結果的に濡れはしないが蒸れてしまい、運動量が多い場合には結露が起きて内側も濡れるという現象が起こってしまう。ゴアテックスの効果を発揮させようと思ったら、表生地の撥水は非常に大切で、つまりはこまめなメンテナンスが必要になってくる。使いっぱなしでいいものではないのだ。

また、ゴアテックスとよく似た防水透湿性能を持つフィルムはさまざまなメーカーが開発しているが、構造はほとんど同じなので表地の撥水メンテナンスは不可欠と言える。

「モンベル O.D.メンテナンス はっ水スプレー 330mL」は1320円。シリコーン樹脂のスプレーだ。防水透湿素材の性能を損なわずに撥水性能のメンテナンスをするのに最適。

防水、撥水グッズを選ぶならば結局、自分の使い方にあったものにするのがいちばん!

以上のようにどの布、どの素材で作ったレインウエアにもメリットとデメリットがあり、どのようなシーンで使うのか、ということが最も重要なポイントである。

「蒸れてもいいから絶対に濡れたくない」というのであればゴム引きやビニール引きのウエアがいいだろうし、「快適なのが一番! 蒸れるのはイヤ」というのであればゴアテックスを使ったモデルがいいだろう。

着ているのが短時間なのか長時間なのか、運動量は多いのか少ないのか、見た目優先か機能優先か、価格帯、メンテナンスのしやすさ、それぞれを考慮した上で選択することになると思うし、これがオールマイティのベスト1というものはない、ということも理解していただきたい。

レポート●鈴木アキラ 写真●鈴木アキラ/エイアンドエフ/モンベル/ロゴスコーポレーション

プロフィール●鈴木アキラ

フリーランスライター。アウトドア全般のスペシャリスト。1960年、青森県生まれ。遊び方、用品、調理などに豊富な情報とノウハウを持つ。『アウトドアで活躍! ナイフ・ナタ・斧の使い方』(山と溪谷社)、『オートキャンパー』(八重洲出版)ほか著作/寄稿多数。映画『八甲田山』(1977年・東宝映画)の雪山ロケでエキストラをしていた経験あり。

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