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GTRは日産だけじゃない! ブリヂストンのオートバイ【350GTR】(1967~1971)は、北米市場に向けた渾身の最終モデルだった

国内販売されず、北米向け専用だった幻の名車「350GTR」

ブリヂストン350GTR
ブリヂストン350GTR

ブリヂストン(以下BS)と言えば、だれもが知る世界的なタイヤメーカーだが、1950年代から60年代にかけて、BSのサイクル部門(現ブリヂストンサイクル・自転車などを製造)は有力なオートバイメーカーだった。ただし、当時の大手4社(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)のような多機種展開をできる規模ではなかったため、後々の業績悪化への懸念もあったほか、本業のタイヤ製造に専心する意図からも、BSは1971年にモーターサイクル事業から完全に撤退することになる。そして、1967年に発表された輸出専用の350cc空冷2ストツイン350GTRは、同社の最後を飾るモデルとなった。

同車が登場した1967年は、350ccクラスの量産スポーツモデルにおいて、開花期と言える年であった。それは国内の現存MCメーカー4社にも当てはまるし、同年を最後に国内でのオートバイ販売をやめ、北米市場輸出を主軸に据えたBSにとっても同様だった。

その前段をかいつまんで紹介すれば、BSオートバイで人気を博した好例が2サイクル単気筒のBS90だが、これをベースにシリンダーを2個並べたのがBS175で、1965年に輸出を開始(国内向けにはBS180の車名で1966年発売)。BS初のツインとなる同車は、北米でエンジンとコンパクトな車体の好バランスが評価され、レーサーの改造ベースとしても人気を博した。これを契機に、BSは2サイクルモデルにおいて北米市場を中心に350/500ccへと大排気量化が進むと見越し、開発を進めたのが350GTRだったと言われている。

北米大陸での100マイル巡航が可能な性能をねらい、自社製の堅牢なデュプレックスクレードルフレームをおごり、タイヤは自社新開発の前後19インチを採用。加えてBSのお家芸と言えるポーラスメッキシリンダー+ロータリディスクバルブ吸入方式、6速ミッションに乾式クラッチ装備と、当時の国産ライバルにもまったく引けを取らない装備を誇っていた。

ただし、国内のライダーにとって、輸出向けの同車は当時“幻の名車”。簡単に手に入らぬ存在だった。だが、それから30年以上の時を経て、好事家たちの手により350GTRは少しずつ北米から里帰りを始めた。今回試乗機会が与えられたのも、そうした車両の1台だ。

ちなみに、350GTRの生産台数は約1万台弱。内訳は1967&68年生産の初期型(メッキタンク)が約6800台、北米側のBSオートバイ取扱い元ロックフォード社の追加オーダーにより製作されたアップマフラー仕様の1969年型350GTOが約1000台、1970~71年にかけての後期型350GTR&GTOを含めた約2000台と言われている。

ブリヂストン350GTR

■対米輸出車として1967年6月に発表の350GTR。350ccは当時の市販2スト車での最大排気量で、ライバルはヤマハ350R1、カワサキA7など。100マイル(≒160㎞/h)巡航できる性能を目指し、エンジンは当時のレーサーで定番の並列ツイン+ロータリーディスクバルブ。車体側は同社初のデュプレックスクレードル(ダブルクレードル)フレームで前後19インチを採用。試乗車は1970年製の後期型で、前期型に対してシート横社名ロゴ、タンク&サイドカバーグラフィックの違いや、グラブバー、フロントブレーキスイッチや反射板の有無などが異なる。

試乗:堅牢な快速クルーザー350GTR

ブリヂストン350GTR

さほど予備知識を持たずに接したGTRで若干戸惑ったのは、左側のキック始動だった。左レバーは海外旧車にはあるが、1960年代の国産車では例を知らない。しかし、左グリップのチョークレバーを作動させつつ踏み下ろせば、いとも簡単にエンジンは目覚めた。173cmの体格でも少し高めと感じるシート高だが(両足カカトは2cmほど浮く)、またがると車体はコンパクト。エンジン両側に膨らむロータリーバルブ吸気のキャブレターも足元前に配置され、乗り手に干渉しない。

それで楽な気分になったが、シフト操作でまた戸惑った。ニュートラルからかき上げても、シフトの入る感触がなかったからだ。レーサーパターンかと思い踏み込んでわかったが、同車はかき上げトップがニュートラルで、以降1~6速まで踏み込むのだ。なぜその方式にしたのかわからないが、BSのリターン式シフト車は他も同じ方式というから、BS技術者のレーサー的なマシンへのこだわりだろうか。これも当時の国産モデルでは異色の部分だ(ただし慣れで解決可能)。

中庸的な手応えのクラッチを切ると、カラカラ……という音が聞こえる。1980~90年代のホンダNSR250Rなどで聞いた懐かしい音だが、これで同車が乾式クラッチだったことも思い出した。クラッチミートは、湿式ほどのスムーズ感ではないが難しいわけでもない。2000~3000rpmの間でつなげば、抵抗なく前進するからだ。また同時に、アイドリングから割と重厚な印象で「フォーン」という音を奏でるエンジンは、意外に低回転からトルクが厚いことにも気づく。

輸出向け車、幻のマシン、レーサーメカニズムの反映といったGTRの特徴に、ピーキーで気むずかしいイメージを勝手に醸成していたのだが、おそらく当時の国産350cc群の中に入れても、ワイドレンジなトルクの部類に入るだろう。その証拠に街中をトップ6速の3000rpm前後(速度は60㎞/h+α)からスロットル操作だけで加減速しても、穏やかで常用的なピックアップが得られるのだ。もっと言えば、2000rpmに落としてもそこからジワジワと加速できるから、一気に前述の思い込みは消し飛ぶことになる。

とはいえ、ここが本領ではない。4500rpm付近を境にエンジンは音質を変えつつ加速を鋭くし、さらに開けると6000rpm(回転計の黄色ゾーン)から上はさらに回転上昇を鋭利にして上り詰める。いわばおいしい刺激的なパワーが2段階の変化で味わえるのだが、恐怖心や緊張感は増さない。エンジンは鋭利さを増しても、車体は実に安定しているからだ。

前述の100マイル巡航を満たすべく、車体は高速直進安定性を意識したのだろう。同車のキャスター角は当時の車両で標準的ながら、トレールと軸距は350ccクラスでは長めの部類。それが前述の印象につながっているのだが、かといって重ったるいわけではない。カッチリしていると言った表現が適切で、それはコーナリング時や切り返し時も同様だ。

BSは同社で最後の旗艦モデルに、奇をてらうような刺激は入れず、剛球一本の技術を結実させた気がする。GTR=北米の直線路でも堂々と安定して走れる「グランドツーリングレーサー」的な乗り味を盛り込みたいという技術者の最後の意地が感じられるかのようだったが、もしBSオートバイがその後も続いたら、技術者たちはどんな刺激と性能を盛り込んだろうかと思わずにはいられない。

この後350ccクラスは1970年代に入り、500とも750㏄とも異なる軽快でコンパクトな車体を指向しながらも、短い隆盛の時代を終えた。1975年の免許制度改正により、自動二輪に中型免許が導入され400ccまでのバイクが当該免許の上限となったことで、勢い400ccモデルが日本市場の花形クラスとなるのだが、そこには当然BSオートバイの姿はなかった。

当時としては高性能な40psの並列ツインは、スリーブレスのポーラスメッキシリンダーのほか、6段変速、乾式クラッチなど、先進的な機構を採用
吸気方式はBS伝統のロータリーディスクバルブで、キャブレターはクランクケース左右カバー内に配置。シリンダー背面に配置の円筒形パーツは、ギヤ駆動の発電用オルタネーター
右側ステップ根元付近の前に、エンジン側から突き出るギザ付きのシャフトは、変速用のもの。いわば、シフトとフットブレーキの関係は、左右逆取り付けが可能な仕様となっている
日本製モデルでは先駆けと言える速度&回転別体メーター。速度計は140マイル(≒224㎞/h)、回転計は1万2000rpmフルスケール。回転計内6000~8000rpmの黄色帯は、エンジンのピークパワーゾーンを示す。速度計に内蔵の黄色ランプは、オーバードライブ設定となる5速に入った際に点灯
前ブレーキは180mm径ドラムで2リーディング式。当時の性能としては不満のない制動力のレベルと言える
リヤも180mm径のドラム式だが、こちらはワイヤ直引きの1リーディング式。タイヤは当然BS製で前後3.25-19サイズ。当時の旗艦モデル専用品だったと言われている
右サイドカバーはオイルタンクで、残量確認の点検窓付き。反対の左サイドカバー内にはバッテリーのほか、若干の小物スペースを配置
タンクエンブレムを持たず、シート横に車名を入れる意匠もBS独自の斬新な意匠。テールランプをカウル状に覆う形状も当時の国産車と一線を画すデザイン

ブリヂストン350GTR主要諸元

■エンジン 空冷2サイクル並列2気筒ロータリーディスクバルブ ボア・ストローク61×59mm 総排気量344.9cc 圧縮比9.31 気化器:ミクニVM26キャブレター 点火方式バッテリー 始動方式キック
■性能 最高出力40hp/7500rpm 最大トルク4.0kgm/7000rpm
■変速機 6段リターン 変速比1速2.460 2速1.647 3速1.250 4速1.000 5速0.852 6速0.759 一次減速比3.095 二次減速比2.400
■寸法・重量 全長2110 全幅825 全高1115 軸距1375 シート高810 最低地上高145(各mm) キャスター27度 トレール105mm タイヤF3.25-19 R3.25-19 乾燥重量165kg
■容量 燃料タンク15L オイルタンク2.5L
■発売当時価格 ──(輸出車)

実はブリヂストンだけじゃない、GTR入り車名のバイク

ブリヂストン350GTRの車名、その由来を示す資料は見つけられなかったが、おそらくは高性能なGT(グランドツーリング)モデルを表す意味で、Rが付けられたと考えられるが、ほかにもGTRが付けられたバイクを調べてみると、2台を発見。意外にもベスパに125GTRというモデルが存在。1968年ごろに発売され1970年代前半にかけて生産されたベスパ125GTRのRはrinnovato(イタリア語で、リニューアル的な意味)との説があり、先代にベスパ125GTがあるので、その改装版ということになる。ベスパ125GT系は当時の同社ではスポーティなモデルではあるが、究極のスポーツというニュアンスではない。

ベスパ125GTR

また、カワサキにも1986年登場の輸出向け専用車で1000GTRが存在。GPZ900R系の水冷4気筒を排気量アップしたエンジンを搭載し、専用の大型カウルまとったグランドツアラーモデルで、同車のGTRの車名の由来も不明だが、高性能なGTの意味でRが付加されたと思われる。なお、カワサキは2008年登場の後継モデル1400GTRでもGTRを使うものの、これもグランドツアラー。2輪の世界では、究極のスポーツモデルにGTRの車名を与える例はあまりないようだ。

カワサキ1000GTR

※この記事は別冊オールドタイマーNo.24(2017年1月号)「特集350ccロードスポーツ」の一部記事を再構成の上、加筆したものです。

まとめ●モーサイ編集部・阪本一史  写真●岡 拓

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