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リカージョン=再帰の意が込められた車名は、ちょうど30年前に登場したスズキのターボマシンXN85を受けてのものか? 2013年の東京モーターショーに、流麗かつコンパクトなフォルムをまとって登場したのが、ミドル排気量並列ツインエンジン+インタークーラー付きターボを搭載したリカージョンだった。
クラスを超えたパワーと良好な燃費をねらった588ccパラレルツイン+ターボ
第43回東京モーターショー2013で、スズキはターボバイク「リカージョン」を参考出品車として出展した。久びさの過給器付き(ターボ)で検討されたコンセプトモデルの概要について、まず最初に当時の開発者インタビューで説明された内容を、以下に項目としてご紹介しておこう。
●大人のこだわりを盛り込んだコンパクトなロードスターモデル
●同出力帯(最高出力100psを目標)のモデルと比較して、50%アップの燃費向上も目標にした
●ベースエンジンは、水冷4ストローク並列2気筒OHC2バルブのロングストローク型
●理由は、低回転域でのトルクを引き出しやすい特性とするためで、OHC2バルブの採用は、低回転域での機械的フリクションを少なくするねらい
●これが同時に、ベースエンジンの低回転域トルクに振った特性も含めて、ターボラグの低減に効果があると判断
●588ccツインで単室容積は軽自動車より大きいため、タービンは軽自動車用よりも大きなものを採用
●スーパーチャージャーではなくターボを選択した理由は、上燃費目標も含めて、排出エネルギーを回収しやすく、スーパーチャージャーより構造が複雑にならないから
●ターボの選択は、XN85での経験のほか、スズキの軽自動車用ターボでの実績とノウハウがあり、それを活かせる部分もあるため
●上記のようなねらいがあったが、コンセプトモデルのため、圧縮比、エンジンのボア・ストローク、過給器圧などは非公表
ここまで記したことの繰り返しになるが、新開発となる588cc水冷4ストローク2気筒OHC2バルブは、低燃費を前提とした、フリクションの非常に少ないシンプルなロングストローク型エンジンとして、過給が立ち上がるまでの低回転域のトルクをしっかり確保していたという。そしてブーストが本格的にかかり始めるのは約4000rpm以降で、100psを発生する8000rpmからレッドゾーンまで2000rpm以上の余裕がある仕様だった。
新気はメインフレーム内のピボット付近から取り込まれ、エンジン下、サイドスタンド横のエアクリーナーボックスを通ってIHI製ターボのコンプレッサー部へと導かれる。そこで過給されたエアは、シート直下のCFRPカーボンテールカウル内にあるインタークーラーで冷却され、空気密度を高めた後、ミクニ製フューエルインジェクションが噴出するガソリンとともにエンジン燃焼室内へ送り込まれる。
■エンジン下に配置のエアクリーナーボックスから、エンジン前部下にあるコンプレッサーを経由してシート下にあるインタークーラー、そしてFIへ、下から上へと圧送される新気の流れは、外部に見えるアルミパイプをだどることでも確認できる。
NAエンジンでは味わえない、フワッと飛ぶ感覚をコンパクトな車体に込めた
リカージョンは、車体にも当時の最新技術が注入され、アシスト機能を装備する前後連動ABS+トラクションコントロールがライダーの負担を軽減している。当時スズキの二輪車で初採用だったVストローム1000ABS用のトラクションコントロールをベースに、電子制御スロットルならではのプログラミングを組み込んで、より高い完成度を実現できたという。
シャシーはコンパクトで、前後タイヤの間隔はミドル~ビッグバイク並みながら、シングルシートのテールカウルがキュッと小振りなため、250ccクラスのような印象を受けるほどの車格。シート高はそこそこの高さなものの、タンクからカウルにかけての大胆な絞り込みが功を奏し、両足接地では比較的まっすぐ地面に足が下ろせる。そして上半身を軽く前に倒せば、スッとセパレートタイプのハンドルに手が届くライディングポジションとなっていた。
スタイリング的にはハンドルをもっと下に設定したかったようだが、ユーザーフレンドリーな面も考えて、試行錯誤の末に現状のライディングポジションへと落ち着いたとは、当時の開発者の弁。
そんなリカージョンはあくまで参考出品車であり、このまますぐに登場するモデルではなかった。ただし一方で、決して荒唐無稽な夢物語でもないという印象を抱いたが……。
2013年の第43回東京モーターショーの会場に設定された超ワイドパノラマスクリーンでは、CG処理されたリカージョンが独特なエキゾーストノートを響かせつつ縦横無尽に駆け抜け、そんなプロモーションビデオの最後に「風は自分でつくる」というキャッチコピーが出てきた。このひと言は、まさに21世紀にターボバイクを送り出したスズキ開発陣の思いだったのかもしれない。
リカージョンの走行フィーリングは大排気量のNAエンジンとまったく異なり、当時の開発者は、たとえるなら「フワッと飛ぶ感覚がある」と語っていた。もっとも、残念ながらリカージョンは市販には至らなかった。個人的にはコンパクトな車体に搭載されたミドルターボを是非とも味わってみたかったが、おそらく、その夢が実現する日は来ないだろう。
■シリンダーが20度前傾した、エンジンの前方下部に配置されたターボチャージャー。燃焼後の排出ガスは一般的に900°C以上と言われ、これがタービンの翼車を20万rpm以上で回転させるという。その力を受け、同軸のコンプレッサーの翼車は同等の風量で空気を圧縮。
■10.2kgmもの最大トルクに対応するため、クラッチ容量は余裕を持たせた仕様に。そのため、スリムなシリンダー幅からクラッチカバーは大きく張り出した。ならば目立たせてしまおうという意図から、この部分はアルミ地肌を露出させた形状とスタイルになっている。
■カーボン製シートカウルの下部で、リヤサス用のリンク上に配置された9コアの空冷式インタークーラー。
■熱交換のために必要な走行風は、縦目2灯式ヘッドライトの左右に設けられたフロントカウルの通風口から導入され、カウル外へ放出される。
■速度とギヤ段数が上面に浮かび上がるタコメーターは1万2000rpmまで刻まれ、レッドゾーンは1万200rpmから。この計器を中心に据えて、左右にはフルカラーTFT液晶ディスプレイを配置している。右側にはMODE、NAVI、INFOの文字が確認できる。
■ハンドルスイッチにも新たな試み。左右ともタッチパッドを採用し、指先をスライドさせれば多彩な機能を引き出せる模様(グローブをはめたままで操作可能)。だが、ホーンやセルスターター、キルスイッチなどは直感的に操作しやすいボタン式としている。
■細いシート前端部につながるアルミタンクの大胆な絞り込みができたのは、エアクリーナーボックスをエンジン上部から下部へ移設したため。タンクの容量は当時未発表だったが、小ぶりな外観から想像するに11Lくらいか。満タンで300km以上は走れる想定をしたとの開発陣のコメントから想像するに、燃費は27.2km/L以上だろうか?
■リカージョンから2年後の2015年東京モーターショーに出品された二輪車用ターボエンジン「XE7」。並列2気筒インタークーラーターボエンジンは、リカージョンと異なりDOHC4バルブを採用。展示名に即せば排気量は700cc前後だが、その2年後にこれを搭載したと思しきモデル名のみ「GSX700T」として欧州に流布したが、市販化には至らず。ただし、過給機を除く機構は2023年以降のスズキ製800ccツインモデルに活かされているようだ。
スズキ・リカージョン主要諸元
■エンジン:水冷4ストローク並列2気筒OHC2バルブ+ターボチャージャー+インタークーラー 総排気量588cc 圧縮比─ 燃料供給装置:電子制御燃料噴射 点火方式トランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力74kW(100ps)/8000rpm 最大トルク100Nm(10.2kgm)/4500rpm
■変速機 6段リターン 変速比── 一次減速比── 二次減速比──
■寸法・重量 全長2100 全幅770 全高1100 軸距1450(各mm) 車両重量174kg タイヤF120/70ZR17 R160/60ZR17(ダンロップ・ロードスポーツ)
■容量 燃料タンク── エンジンオイル──
■車体色 シルバー×ホワイト
文●モーサイ編集部・阪本一史 写真●スズキ/別冊モーターサイクリスト編集部
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