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映画『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーンが乗ったベスパの車種は?

オードリー・ヘップバーンが演じる「アン王女」が、欧州各国表敬訪問の最後に訪れたイタリアで、自由のない生活への不満と疲労感から密かに城を抜けだし、グレゴリー・ペックが演じるアメリカ人新聞記者の「ジョー・ブラッドレー」と偶然出会い1日の恋に落ちる……という映画『ローマの休日』。

アメリカでは1953年、日本ではその翌年に公開されたこの映画の中で、アン王女とジョーがスクーターでタンデムする名シーンはイタリア生まれのスクーター「ベスパ」の知名度向上に貢献したとされています。
ところで、そのときのベスパって車種って──?

2021年に生誕75周年を迎えたベスパ

2021年に登場した75周年特別モデルのベスパ。

2021年4月22日、ベスパは生誕75周年を迎え、初号機からの累計生産台数が1900万台を突破。その記念すべきモデル(GTS300の75周年記念特別仕様車)は、1946年から途切れることなくベスパを生産し続けているイタリア・フィレンツエ郊外のポンテデーラ工場で組み立てられたことが発表されました。

1950年頃のポンテデーラ工場の様子。レールに吊るされたベスパの車体が工房内を流れている。
1946年から途切れることなくベスパを生産し続けているポンテデーラ工場。写真は1950年頃の工場一帯の様子。

ベスパは、第二次世界大戦中には航空機やそのエンジンを製造していたイタリアのピアッジオ社が、戦後の復興期に民需を求めて立ち上げました。
じつは1950年代後半にベスパはとても小さなクルマの設計を手がけたことなどもあるので、歴史的には純粋なスクーターオンリーブランドというわけではないのですが、「ベスパ=世界でもっとも有名なスクーター」という認識は世界中に浸透しています。

現代に受け継がれる独自の車体構成

ベスパが「世界でもっとも有名なスクーター」と言われるようになった理由には、戦後の復興期にいち早く登場したパーソナルコミューターだったことに加え、その後に世界各国でライセンス生産されてきたことも挙げられます。

そんなベスパの象徴となってきたのが、軽量で強度にも優れるスチールモノコックボディや、タイヤ交換を容易にできるよう配慮した片持ち式のサスペンション。このふたつは、現代のベスパにも受け継がれています。それに加えて一時期は、スペアホイールの搭載や2ストエンジン&ハンドチェンジも大きな特徴としてきました。

ハンドチェンジ……とは現代のライダーには、あるいはベテランでもベスパにあまり詳しくない人にはなじみがない用語かもしれませんが、当初のベスパにはクラッチレバーがあり、発進時は自分でクラッチをつなぎ、左側グリップをレバーホルダーごとひねってシフトを選択する機構を採用していたのです。

「Pシリーズ」(1978年型)。2017年まで製造が続けられたハンドチェンジのロングセラーモデル「PXシリーズ」の源流となったモデルです。
2011年に再発売されたハンドチェンジの「PX」。空冷2ストエンジンながら、ユーロ3の排ガス規制に適合していました。

このハンドチェンジを受け継いだ完成系として、長年にわたり販売が続けられてきたのがPXシリーズ。その前身となるPシリーズの誕生は1978年型でした。
ベスパ自身が4スト化とオートマチック化に力を入れるようになってからもPXはラインアップに残り、なんと一度生産終了されたのちに最終型となるPX Euro3が2011年型として発売開始。125/150cc空冷2スト単気筒エンジンを搭載して2017年まで生産されていました。

個性のあるスタイリッシュな外観

ベスパが世界中で高い人気を誇り続けるのには、そのアイデンティティあるスタイリッシュなルックスも大きな理由となっています。75年という歴史の中で洗練されても、ベスパらしさは不変。

遠くからでも、スクーターに詳しくなくても、ベスパはベスパとして認識できる個性を備えています。しかも、イタリアンブランドらしくデザインセンスに優れ、街中にぽつんと置いてあっても、ピカピカに磨かれておらず錆がある状態でも、とにかく「絵になる」ルックスです。

過去には、サイドカーのベスパも販売されていました。写真は1955年モデル。

だからこそベスパはこれまで、世界各国で数々の映画に登場してきました。1979年英国の『さらば青春の光』、2008年米国の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』をはじめ、挙げたらキリがありません。そうそう日本のTVドラマでは、1979~80年に放送された『探偵物語』で松田優作が演じた主人公の工藤俊作が乗っているのも忘れてはいけませんね。

今日においても、ベスパが登場するアニメや実写映画はたくさんあります。2021年6月18日からは、ピクサーが手掛ける「あの夏のルカ」がディズニープラスで配信中。作中には緑色のベスパが登場します。

さて、そんな数々のベスパ登場作品のなかでも、圧倒的に有名なのが『ローマの休日』。
当初はスクープをものにしようと、職業を偽ってアン王女を連れ歩くことに成功したグレゴリー・ペックが演じるアメリカ人新聞記者のジョーが、アン王女を後ろからサポートしてタンデムでベスパに乗るシーンは大きな見せ場のひとつです。

ところで、『ローマの休日』に「ベスパ」が登場することを知っている人は多いと思いますが、この「ベスパ」が「何という名の車種」かまではほとんどの人が知りません。
しかし「ベスパ」とはブランド名であり、当然ながら「オードリー・ヘップバーンのベスパ」にも車名があるのです。

オードリーが乗ったのはフェンダーライトの……

そもそも、初期のベスパは愛好家から「フェンダーライト」と呼ばれています。しかしこれは正式な車名ではなく、フロントフェンダー上にヘッドライトが配置されていることに由来する愛称です。
フェンダーライトは、1946~1957年の間に生産。
『ローマの休日』が公開されたのは1953年なので、フェンダーライトなのは間違いありませんが、これは映画を見れば誰でもすぐにわかります。

1946年に登場したベスパ最初の市販モデル。排気量が98ccだったので「98」と呼ばれました。

ベスパの初号機。これは「98」と呼ばれていました。理由は簡単。排気量が98ccだったから。そして1948年には、排気量拡大で「125」となります。この段階までは、グリップ部での変速をロッドで伝えるロッドチェンジ方式を採用。

しかし1950年には、これがワイヤーチェンジ方式に変更され、その後のベスパの原型となりました。このワイヤーチェンジのフェンダーライトモデルこそが、『ローマの休日』の劇中車。映画に使われた年式については諸説ありますが、映画の撮影は1952年夏にスタートしており、1950~51年の「125」が使われたという説が有力です。

1951年の「125」。写真はベスパを製造、販売するピアッジオグループの公式サイトで「roman-holiday=ローマの休日」のタイトルをつけて紹介されているもの。

ちなみに『ローマの休日』はモノクロ映画で、ベスパの車体色を正確に知ることはできませんが、ジャケットに使われる写真やこれまで各所で実施されてきた展示会などから、薄いグリーンだったというのが定説。ただし、じつはシルバーやレッドで描かれた当時の映画ポスターもあって謎は深まるばかりなのです……。

2021年現在販売されているモデルのひとつ、ベスパプリマベーラ150/125。写真のカラーはベスパ伝統とも言えるグリーン。エンジンは空冷4ストローク単気筒OHC3バルブ124ccで、価格は150ccが49万5000円 、125ccが46万7500円 。
日本国内での正規販売はしていないのですが、ベスパには電動モデルの「エレクトリカ」もあります。「世界で最も有名なスクーター」のこれからの進化からも目が離せません。

レポート●田宮 徹 写真●ベスパ/八重洲出版 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実

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