ホンダは電動バイクを高い稼働率と決まったルートが想定されるビジネス向けに有効と考えて開発している。その第一弾として東京モーターショー2019で「ベンリィe:」を発表。2020年4月に法人向けでの発売を予定している。
具体的にどのような活躍を想定しているのか? 開発陣にそのねらいを聞いた。

原付一種(いわゆる50ccクラス)となる「ベンリィe:I」。一充電あたりの走行距離は87km(30km/h定地走行テスト値)。価格は73万7000円

「ベンリィe:I」をベースにフロントバスケット、リヤキャリヤ、フットブレーキ、ナックルバイザーを装備した「ベンリィe:Iプロ」。価格は74万8000円

「ベンリィe:」シリーズを担当した武藤祐輔さん。本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 技術主任。2005年入社後、コミューターの車体設計で東南アジア向けなどの機種に携わる。電動車両との出会いはバランス制御技術を取り入れたパーソナルモビリティ「UNI-CUB」(*1)
──ビジネス用として、電動バイクの可能性を教えて下さい。
「システムとしては、PCXエレクトリック(*2)で採用されているバッテリー『ホンダモバイルパワーパック』2個を動力源とするEVシステムを搭載しています。
排ガスを出さないことや優れた静粛性といったEVならではのメリットは、きっと早朝の配達業務や食品のデリバリー等で活躍してくれると思います。現状、スーパーカブの音でさえも気になるという情報も耳にしていますので。
また、配達業務等で多いとされる、重い荷物を積載しながらの細い道での方向転換を考え、リバース機能も装備しました。走りに関しては、ベースとなっているエンジン車両のベンリィと同等の走りができる予定で、さらにEV特有のレスポンスの良さも感じてもらえると思います。
航続距離はPCXエレクトリックとほぼ同等で、そのほか、フットブレーキやLEDヘッドライト、フル液晶メーターなども備えています。ビジネス車両なので、街なかで見かける機会も多く、一般の方にも電動化の波を身近に感じてもらえるかもしれません。まずはビジネスユースで展開していき、さらに将来的には一般の車両にも拡大していけたらいいですね」

原付二種(いわゆる125ccクラス)となる「ベンリィe:II」。一充電あたりの走行距離は43km(60km/h定地走行テスト値)。価格は73万7000円

原付二種(いわゆる125ccクラス)となる「ベンリィe:II」。一充電あたりの走行距離は43km(60km/h定地走行テスト値)。価格は73万7000円

「ホンダモバイルパワーパック」は容量一つ1kWで、総充電時間は専用充電器で約4時間

ベンリィe:シリーズのメーターまわり。スイッチボックスにはリバーススイッチがある(「R」のマークのスイッチ類)

(*1)2012年に発表された「UNI-CUB」。人との調和を目指し、歩行するような全方位への自由自在な動きと、両足の間に収まるコンパクトなサイズを両立した新しいパーソナルモビリティとして開発された

(*2)125ccのスクーター「PCX」をベースとした電動モデル。現在は企業、官公庁などを対象としたリース販売のみ
ベンリィe:とともに東京モーターショー2019で発表された電動ビジネス三輪モデル「ジャイロe:」。
こちらも同じく「ホンダ モバイル パワー パック」2個を採用。低床の大型リヤデッキが特徴で、旋回性や走行安定性、そしてワンタッチパーキングといった使い勝手が追及されている。

「ジャイロe:」は左右後輪の回転差を調整するディファレンシャルギヤ、後輪の浮きを抑えるスイング機構、スタンド掛けが不要なワンタッチパーキングを備える。

「ジャイロe:」を担当した前田康幸さん。本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発部 完成車統括課 技術主任。2004年入社後、小型コミューターモデルの車体領域の設計に携わる。その後はタイで東南アジア向け車両の責任者となり、2015年の帰国後もコミューターやEVモデルの開発責任者を歴任
──三輪のほうがEVに向いている気がしますが、その点はどうなのでしょうか?
「この車両のポイントとしては、 まずは一般ユースと比べ、使われ方がハードになるぶん、耐久性を重視した構造に作り上げているという点です。
また、三輪という独特の形状がバッテリー自体の重さを打ち消してくれるメリットとなりましたが、反面、リバース機能に関しては、三輪という形状に合わせた制御が必要となり、さらに慣れないバックへの不安を軽減させ、より使いやすいセッティングに苦労しました。
そして、シート下のバッテリーの取り出しも、なるべくアクションを少なくし、負担を減らすということがテーマとなっています。日々の使用に耐える耐久性を実現すると同時に、毎日使うからこそ、使い勝手や操作性をアップさせ、一つ一つのアクションを減らし、お客様の負担を減らすということにこだわって、 車両を作り上げてきました。
走りに安定感は出ますが、三輪というスタイルや車重量の面から最高速はベンリィe:が上。実際の登場もベンリィe:の後にはなりますが、日々、快適に乗れ、仕事に集中できるモデルとなっています」
レポート●モーターサイクリスト編集部 写真●岩崎竜太 編集●上野茂岐