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2025年7月4日、スズキはニューモデルとしてネオレトロのストリートバイク「GSX-8T」と「GSX-8TT」を発表した。その国内発売に先駆け、海外で行われた試乗会に参加したライダーのインプレッションをお届けする。
試乗ライダーはイギリス人モーターサイクルジャーナリストで、マン島TT参戦などレース経験も豊富なアダム・チャイルド氏。期待のスズキ製ネオレトロはいったいどんな仕上がりなのだろうか?
スタイリングは1970〜80年代の名車がモチーフ
近年、各バイクメーカーの車両ラインアップは、小型でコスト効率の高いエンジンプラットフォームを軸に構築される傾向が強まっている。そして、この傾向を最も如実に示しているのはスズキである。Vストローム800/DEやGSX-8S、GSX-8Rですでにその実力を発揮している汎用性の高い776cc並列2気筒エンジンは、今回新たに登場した2機種のバイク、GSX-8T/TTにも搭載されている。両機のシャシーは人気ロードスポーツモデルのGSX-8Sから流用されたもので、足周りのパーツや、ホイールベースなどのディメンションも共通している。


GSX-8T/TTがGSX-8Sと異なるのは、1970年代後半から1980年代初頭のスズキ製バイクの雰囲気を愛するライダーの心をつかむようなスタイリングとなっていることだ。特にGSX-8TTは80年代スタイルのヘッドライトカウルを装備しており、空冷4気筒DOHC2バルブモデルのクラシックなGS1000をほうふつとさせるデザインである。この2台は日本のスズキとイタリアのスズキデザインセンターとの提携により設計されており、GSX-8Sをベースとしながらも、独特の雰囲気と風格を備えている。

また、GSX-8SとGSX-8T/TTの違いは外観だけではない。スズキはGSX-8T/TTに通常の鉛バッテリーより2.1kg軽量なリチウムイオンバッテリーを搭載し、また、完全新設計のヘッドライトをGSX-8Sよりもハンドルバーに近い位置に配置することで、より軽いステアリング操作を可能としている。さらに、バーエンドミラーを装備し、えぐりが入った燃料タンクは16.5Lの容量を確保(GSX-8Sは14L)。セパレートタイプのシートは、前後どちらともGSX-8Sより面積が広く、柔らかい。




このレトロなニューモデルに、スタンダードなGSX-8SやスポーティなGSX-8Rよりも値段が高い分の価値があるかどうかを見極めるため、私はスロベニアで開催された試乗会に参加した。

中身は最新スポーツネイキッド
GSX-8T/TTには、少なくとも2つの見方がある。まず、その価値に懐疑的な見方をするならば「これらは単なるスタイリングの試みであり、GSX-8Sの装いを変えたに過ぎない」ように見える。ベース車のGSX-8Sは優秀なバイクではあるのだが、軽量化されたバッテリーや新しい位置に配置されたヘッドライト、バーエンドミラーなどでスズキのエンジニアやマーケティングスタッフがどれだけストーリーを作り上げようとも、GSX-8T/TTは本質的にはGSX-8Sと同様だと言える。

一方で、スズキがレトロバイクというコンセプトをこれほどまで見事に実現したことは称賛せざるを得ない。ほぼ全てスタイリング上の仕事ではあるが、彼らは見事にやってのけた。フラットボトムの丸型ヘッドライトやレトロデザインのシート、8ボールエンブレム、ブラックアウトされたエンジン、バーエンドミラー、そして高品質な仕上げは、実際に目の前にしても見事なものである。ヘッドライトとアンダーカウルを備え、金属製燃料タンクがレトロなストライプで彩られているGSX-8TTもまたすばらしく、特に黒の車体色に赤いホイールが組み合わされたモデルはとてもいい出来栄えだ。スズキの歴代のバイクの中でも最も印象的なビッグマシンを覚えている世代の私たちにとって、このGSX-8T/TTには魂を揺さぶる何かがある。

現代の規制に適合するバイクを、フォード コルティナがクールだった時代を率直に匂わせるものに作り変える手法は、今に始まったことではない。ヤマハとカワサキは、それぞれXSRシリーズとZ-RSシリーズでこれを展開してきた。しかし、それは容易なことではないのも確かだ。エモーショナルなデザインだけでなく、各種センサーやマフラーの触媒などといった現代の必須装備をうまく隠すことも必要だからである。スズキはそれをうまく成し遂げている。

もしかしたらこの時代だからこそかもしれないが、GSX-8TTは本当に琴線に触れる存在である。乗った感触は堅牢でメカニカル、金属質で重厚、まさにレトロ系バイクのあるべき形だ。ライディングモードやトラクションコントロールのレベルなどを表示するデジタルダッシュボードと多機能なスイッチボックスは、このバイクがいつの時代のものかはっきりさせるものであり、GS1000を筆頭としたスズキのGSシリーズが世界を席巻していた時代、ジェームズ・ボンド役がまだロジャー・ムーアだった時代にこんな装備が提示されたとしたら、未来のファンタジーとして笑われただろう。しかしながら、過去と現在を融合させることは、しっかりと機能するレトロモデルを創り出すためのひとつの技巧なのである。


個人的には、GSX-8T/TTに関してスズキはいくつか小さな失敗を犯したと感じなくもない。車体色のバリエーションに赤×白、あるいは青×白のウェス・クーリー・レプリカカラーがあったら最高にクールだっただろう……と思うのは私だけだろうか? それと、GSX-8TTにはもう少し手を加えても良かったのではないかと思う。ステップを高くしたりハンドルバーを低くしたりして、ストリートファイターモデルらしさをもっと出して、GSX-8Tとは異なる個性を出すのもアリだったのではなかろうか? そして、GSX-8Tが9599ポンド(記事制作時のレート換算で約191万円)、GSX-8TTが9999ポンド(約199万円)という価格設定は、ベースとなっているGSX-8Sが7499ポンド(約150万円)だということを考慮するとかなり高額と言える。





☆後編へ続く……
GSX-8T/TT(ヨーロッパ仕様) 主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:84.0mm×70.0mm 総排気量:776cc 最高出力:61kW<82.9ps>/8,500rpm 最大トルク:78Nm(8.0kgf・m)/6,800rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2,115 全幅:775 全高:1,105/1,160 ホイールベース:1,465 シート高:815/810(各mm) タイヤサイズ:フロント120/70ZR17 リヤ180/55ZR17 車両重量:201/203kg 燃料タンク容量:16.5L
[車体色]
ゴールド、マットブラック、マットグリーン/ブラック、マットグリーン
report:Adam Child photo:スズキ/Motocom/Jason Critchell まとめ:モーターサイクリスト編集部




















































