目次
「昭和感」と「エモい」意匠をまとったホンダGBの派生型クルーザー


「昭和」というワードが、SNSで存在感を放っているようです。旧車は言うにおよばず、喫茶店や歌謡曲などと同じく、いわゆる「エモい」とされるニュアンスで使われているのでしょう。バイクの世界でも、レトロやクラシック路線が大流行りであることはご存知かと思いますが、2024年の10月にラインナップに加わったホンダGB350Cは、まさに「昭和感」あふれる1台と言えます。雰囲気だけでなく完成度の高いバイクなので、ベテランはもとより、昭和を知らない世代にもオススメしたくなりました。
2021年にGB350、次いでスポーツテイストの意匠をまとった派生モデルのGB350Sという2車がデビューして以来、同シリーズはとにかく売れ行きが好調だそうです。たしかに、エンストする気がしないほどトルクフルな空冷単気筒エンジンと、取り回しが楽チンなパッケージは誰にでも好感を持たれるもの。スニーカー感覚でスッと走り出せるバイクとして、筆者も食指が動いたほどでしたが、ミドルクラスのネイキッドモデルはライバルがひしめくレッドオーシャン(競合過多の既存市場)。頭ひとつ抜けるために、各メーカーがしのぎを削っている状況です。
そこで、ホンダはGB350にクラシックテイストを加えたCモデルを追加し、フルブーストをかけてきました。合わせて3モデルになるGBシリーズで、全体の売上げアップを目論んだのでしょう。とはいえGB350自体に魅力がなければ、ネオレトロだなんだと言っても「小手先だけの衣装替え」と思われアップどころか足を引っ張ることにもなりかねません。
しかし、そんな懸念は実車を見た途端に消え去りました。どこかに強いインパクトを覚えるのではなく、たたずまいそのものが質感や存在感をアピールしているのです。たとえてみれば「手のひらに乗るような仏像が得も言われぬ存在感をたたえる様子」と言ったらいいでしょうか。鉄で作られたディープフェンダー、随所にしっとりと光るクロームメッキ、あるいは前後で分割されたシートなど、GB350Cを構成する要素が、渾然一体となることで生まれたアピアランスに違いありません。


2000~3000rpmを多用して流すのが楽しい空冷単気筒エンジン

またがってみると、GB350とは違って、シートが平坦なことに気づきました。ですが、座り心地が悪いわけではなく、お尻の収まりがちょうどいい。タンク形状もわざわざ変更されたそうですが、普通にまたがると自然にホールドでき、すぐさま乗りやすさを直感。そして、背筋を伸ばした状態で腕をおろせばそこにハンドルがある。なにもかも自然体でいられるというのは、GB350Cの大きな美点だと思います。
そしてエンジンをかけると、GBらしいロングストロークを感じさせる排気音が響きます。マフラーの長さ、出口形状が変更されたことで音質も変わるかと予想していましたが、これはさほど違いを感じませんでした。348ccという割にはおとなしい、個人的にはそんな印象ですが、ロングツーリングや流す走りを楽しみたい方には音疲れしづらく、これくらいがちょうどいいのかもしれません。
軽いクラッチを握り、シーソー式のシフトペダルを踏んでスタート。ここで従来のGB350の頼もしいトルク、芯のある回転感が思い出されました。とうていエンストなどはしなさそうなパワーデリバリーと、186kgの車体にマッチした変速比の設定によって、それこそ水を得た魚かのような走り出しが味わえました。また、エンジンスペックも他のGBと同一なのですが、発進と同時くらいにシフトアップしていくと気持ちのいい加速をしてくれます。
決してスピードを上げなくとも、エンジンの美味しいところである2000~3000rpmくらいを多用して走れば、これほど感触のいいバイクは滅多にありません。むろん5000rpm以上まで回るものの、高速度・高回転域にプライオリティはなさそうで、出力特性はあくまで低中速域が優先されている印象です。
ホンダらしい乗りやすさに磨いて眺める楽しさも加えた、長く付き合える1台
GB350Cは、さまざまなパーツの追加によって、素のGB350に比べて7kg車重が増えています。駐車場での取り回しなどに影響が出るかと予想していましたが、気になるようなものではありませんでした。そもそもGBシリーズは重心が低めな一方、ハンドルなどコントロールポイントが高めに設定されており、元々が軽めの車重と相まって取り回しのしやすさは抜群です。それゆえ、多少の重量増は気になることなく軽やかに走れるのでしょう。
一方で、重量増によって走りに重厚感が増した、つまりは安定感や直進安定性が増したかと言われると、さほどの違いは感じないというのが筆者の本音。鈍感なだけかもしれませんが、仮にブラインドテストができたとしても正答できる方はレアではないかと(笑)。同じように、1cmライダー側に寄せられたというハンドルや、GB350に対しキャスター角が27°30′から27°50′へ寝かされたことによる違いも体感することはできませんでした。
これらの違いは、筆者を含めた一般的なライダーにとって「ささいなポイント」と受け止めて差し支えないかと思います。
ところで、GB350Cを手に入れようと考えると、どうしてもライバルたちを思い浮かべてしまうでしょう。大型自動二輪になる800ccのカワサキ・メグロK3をはじめ、ベネリ・インペリアーレ400、はたまたロイヤルエンフィールド・クラシック350などなかなか魅力的な顔ぶれです。それでもGB350Cはホンダらしく乗りやすさや、取り回しの楽チンさといった面でのアドバンテージが大きいです。
またこのスタイリングで、カジュアルな乗り味まで提供してくれるとなれば、長く付き合いたくもなるというもの。しかも、レトロな雰囲気を持ったバイクは、大切に磨きたくなるような存在でしょう。とりわけGB350Cは「昭和」「エモさ」に事欠きません。ピンときたら、ぜひ実車をチェックしてみてはいかがでしょう。
GB350C各部の紹介
空冷単気筒の348ccエンジン

シンプルなメーター

C専用の前後分割タイプシート

C専用のディープフェンダー採用の前輪

リヤも専用設計のフェンダーとマフラーを採用

違和感なくフィットする緩やかな樽型形状グリップ

燃料タンクもC専用の形状

自然で取っつきやすいライディングポジション


【GB350C主要諸元】
■エンジン 空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク70.0×90.5mm 排気量348cc 圧縮比9.5 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力15kW(20ps)/5500rpm 最大トルク29Nm(3.0kgm)/3000rpm 燃費38.6km/L(WMTCモード値)
■変速機 5段リターン 変速比1速3.071 2速1.947 3速1.407 4速1.100 5速0.900 一次減速比2.095 二次減速比2.500
■寸法・重量 全長2205 全幅790 全高1105 軸距1440 シート高800(各mm) キャスター27°50′ トレール120mm タイヤF100/90-19M/C 57H R130/70-18M/C 63H 車両重量186kg
■容量 燃料タンク15L エンジンオイル2.5L
■車体色 ガンメタルブラックメタリック、プコブルー
■価格 66万8800円
report&photo●石橋 寛
ホンダ
TEL:0120-086819(お客様相談センター)
https://www.honda.co.jp/motor/