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年齢を重ねても「イメージ通りに動けているか」プロライダーに見てもらう
国体に出場するスキーの腕前を持つ友人が、年に一度は必ずスクールでフォームのチェックを受けているという。客観的なアドバイスを受けることによって「イメージ通りに出来ているかどうかを確認できる」とのこと。だが、寄る年波には勝てず「年々イメージと違うことが増えていくが、自分では気づかないもの。それが確認できてしまう」と苦笑いを浮かべる。
これはスキーに限ったことではなく、フィジカルなテクニックが要求されるバイクでも同じではないだろうか。ベテランでもビギナーでも、自身の状態を客観視してもらうこと、つまり「イメージ通りか、そうでないか」を知るのは大切なことだ。
筆者の周りでも「乗れるつもりでスーパースポーツを買ってはみたものの」や「走れるつもりで峠に繰り出してはみたものの」など、意識先行(カン違い)による苦労話は後を絶たない。話で終わっているならまだしも「走る・曲がる・止まる」がイメージと違っていれば、最悪の場合はアクシデントにつながってしまう。
もちろん、「自分は日々鍛錬、切磋琢磨を欠かしはしない」とか「まったりツーリング派だし」といった、走りの確認を必要としないという方々もいらっしゃることだろう。だが、国際級ライダーというプロフェッショナルのコーチがアドバイスをしてくれるとなったら、どんな乗り方をしている人でも、得るものは大きいだろう。むしろ、「テクニック」や「まったり」といったベクトルや志向がより鮮明となり、かつ充実させられることは想像に難くない。
そこで、筆者が選んだのはモーターサイクリスト誌や当サイトモーサイwebでも執筆している国際級ライダー、鈴木大五郎氏が運営する「BKライディングスクール」だ。一般の方々と同じ条件で教えを乞うべく、自腹で受講料を支払ったことも付け加えておこう。取材が前面に出ることでなにかしら贔屓があるわけでもなく、また提灯記事でもないということは、はじめにお断りしておきたい。

■すでに15年続いているという鈴木大五郎氏のBKライディングスクール。座学もわかりやすく、進行がスムーズなのはそうした歴史の積み重ねによるものに違いない。開催はおよそ月に2回ほどで、平日と週末が選べるようなスケジュール。

■運営&講習をしてくれる鈴木大五郎氏。ロードレース国際ライセンス所持。AMA、鈴鹿8耐、JSB1000などでレース活動を行ってきたほか、BMWの公認インストラクターも務める。

■富士山麓、静岡県富士宮市にある富士宮白糸スピードランド(以下、白糸スピードランドと表記)は、全長800mというコンパクトなコース。それでいて、カートレースが開催されるほどコース幅にはゆとりがあり、また110mというメインストレートでは胸のすくような加速体験も可能とする。スクールで使用する250ccクラスには申し分のないコースだ。
「転倒してもいい」レンタルバイクだから、存分に練習できる
鈴木大五郎氏は、このBKライディングスクールの他にもさまざまなライディングレッスン、走行会などを運営している。その中から今回は、白糸スピードランドというコンパクトなサーキットでのレッスンを選んだ。理由は自宅から近いということも大きいが、レッスンがすべてレンタルバイクで行われ、転んでも修理費などが請求されない(例外アリ)ことに安心感があったからだ。
そもそも自分のバイクで転びたくないからレッスンを受けるのだから、転んでもいいレンタルバイクを使えるのはうれしいこと。そして、スピードがさほど高くないコースというのも、動体視力が日々衰えつつある筆者にはふさわしいと思えたのだ。
ネット上にあったBKライディングスクールの感想を見ていると「ステップワークで腿パンパン」「初めて膝すりできた」「スパルタ、けど楽しかった」など、スパイシーなコメントが数多く寄せられている。参加を終えた今、これらのコメントに筆者は大きく頷いている。
例えば、ステップワークとは左右ステップへの荷重でバイクの方向を変える練習で、コースインして最初にやることになる。筆者も時折この練習をしていたので「ちょろい」と思っていたが、BKでは立ち乗りが指示される。はじめこそ振り幅大きく、グイグイ向きを変えていたものの太ももへの負担は半端ない。疲れるのと比例して振り幅も小さくなり、ハンドルで向きを変えようとすると「ハンドルで曲げないで!」と大きな声がかけられる。
そうして息があがったころ「シートに座ってステップワーク!」と救いの声。すると、ステップ荷重の意識と動きが身についたのか、立ち乗り同様に曲げられるようになっていた。が、悲しいかな筆者の体力は早くも底をつきかけていたのだった。

■およそ15~20分程度の走行を8セットほどこなす。ショートコースとはいえ、この設定はかなりハードで、体力に自信のある方でも腹パンになること間違いない。このショットは午前中のものなので、筆者の体力&集中力もかろうじて残っていたものの、正直なところ午後はヘトヘトな走りになっていた。
ところで、スクールの参加者は21名とされていて、これが3つにグループ分けされる。コースインは一度に1グループなので、他のグループが走っている間は見学と実質的な休憩時間になる。この間、参加者同士で「キツイっすね」とか「立ち乗り不安だったけど、できるもんだね」など会話も弾んでいたが、筆者は荒い息を整えるのに精いっぱいだった。
グループは、A「BKのリピーター」、B「サーキット経験あり」、そしてC「サーキットもBKも初めて」という3つだ。そして、フルコースを使うのは後半で、午前中はコースを分割して小さなオーバルがふたつ設定される。ひとつのグループが7人といっても、オーバルごとに人数も振り分けられるので「順番待ちで走れる時間が意外と少ない」などということはまったくない。
コース上では鈴木大五郎講師と、サポートコーチの上田講師が間近から走りを見て、メガホンで「目線!目線!」「ハンドルで曲げない!」などなど大声でハッパをかける。また、数周しているうちに声をかけられ、コース上でより詳しいコーチングがなされる。すぐ近くから観察され、すぐさま声がかけられるというのも、コースがコンパクトであることの大きなメリットだろう。
筆者が受けた「客観的アドバイス」は上半身の保持が筋力不足、持久力不足からバンク中の姿勢が「なってない」とのこと。また下半身のホールドについても「つま先の向き」などこと細かく指摘された。もちろん、他の参加者に対しても同様のアドバイスがなされていた。

■スクールの参加者は21名とされ、リピーターやサーキット経験者といった分け方で3グループが構成される。走行もグループごとなので、コース上が混雑するようなことは一切なかった。それゆえ、参加予約はいつでも倍率が高くなりがちなので、希望者はこまめなチェック、早めの予約が無難だろう。
さて、コース上のふたりに加え、パドックにはもうおひと方、武田氏が講師として出席。バイクのジャーナリストで、テクニックはもちろん、メカにも通じていて朝方はレンタル用バイクの整備もしていた。
レッスンの内容はもとより、コース上で指導されたことなどを相談すると、「だったら、こうしてみたらいい」「そういうの苦手な方たくさんいますよね」など、じつに気さくに受け答えしてくれた。イメージと自分の実走行が違って迷い、苦しみ始めた筆者にとっては「温かな灯台」のようで、とても嬉しい存在だった。
この武田講師が冗談交じりに「大五郎先生はスパルタだから」と言っていたとおり、コース上での教えも、またスクールの進行も、決して甘いものではない。

■パドックでコーチングや質問に答えてくれたのが、こちらの武田講師。本職はバイクのジャーナリストなので、質問に対する答えは的を射ているだけでなく、じつにわかりやすい言葉を使ってくれるのがさすが。
午前中、2本目となるコースインでは早速「膝すり」の練習となるため、筆者を含め参加者の間にちょっとした緊張感が走った。それでも、ステップ荷重の練習で車体を倒しまくってコーナリングすることに抵抗がなくなっていたのか、ほとんどの参加者が膝を路面近くまで繰り出すことができていた。
中には、筆者のように倒し過ぎてステップが先に路面を削ってしまう方もいて、「イン側はつま先(でステップを踏む)!」や「もっと膝を柔らかくして!」などと檄が飛ぶ。
失礼ながら、はじめは見かけからボロいと思っていたレンタルバイクの頼もしさには感心した。クラッチレバーのストロークがありえないくらい長くて「クラッチ滑ってる?」と思ったり、タンクに「2速のみ」と張られているバイクにはシフトレバーがついておらず、クラッチをつなぐと2速ホールドだったりする。だが、エンジンやブレーキ、サスペンションはしっかり機能するよう整備されているため、コースでの練習に不足はない。
また、ハイグリップタイヤとは対照的な一般タイヤで練習できるのもいい経験になるはずだ。一般タイヤなのにフルバンクでも予想以上にグリップしていて、上田講師に「このコースはハイグリップな舗装ですか?」と尋ねたほど。答えは「普通の舗装です」で、二度ビックリした次第。

■BKの大きな特徴となるのが、こちらのレンタルバイク。車両はホンダ VT系が多い。転倒しても、あるいは壊したとしても修理費が請求されない。もちろん、例外(故意に転倒するなど)もあるが、バイクでサーキットを走りたい、だけど自分のバイクでは転びたくないという方にはうってつけだろう。レンタルバイクの料金は受講料に含まれている。

■見た目のくたびれ具合に最初たじろいだものの、気づいてみれば実に気分よくコースを走ることができていた。ちなみに、BKライディングスクールではレーシングスーツのレンタルも行っているので(2000円)、持っていない方でも安心して参加可能。
走る→その場でアドバイス→また走る「コンパクトなコースだからフィードバックが早い!」
そうして、午後の部になるとフルコースでの練習走行が始まる。それまでと同様に3グループに分けられ、走行中は追い越し禁止となる。ただし、ショートカットエリアを使って、自分のタイミングでコース復帰することで順番を変更することもできる。
追い越したい場合だけでなく、後ろから追い立てられるのが気になる方や、途中で一息入れたい方にとっては便利なシステムだろう。当然、筆者も集中力が欠けてきた頃にはこれを活用していた。

■国際級ライダーの先導や追走をしてもらえるのは、言わずもがなサーキットレッスンの大きなメリット。サーキット志向の方でなくとも、必ずや得られるものがあるはず。筆者の場合は最終コーナーのライン、1コーナーの進入を特に意識して観察していた。
また、フルコース走行では鈴木&上田両講師もバイクでコースイン、このショートカットエリアを活用して、ほぼ参加者全員の前か後ろを走行してくれる。講師のライン取りやフォームが間近で見られる、あるいは走行後にアドバイスが受けられるというのは、サーキットを用いたスクールの醍醐味だ。
コンパクトなコースとはいえ、250ccのバイクにとって不足はなく、最終コーナーから第1コーナーにかけては痛快そのもの! インフィールドの切り返しなども公道ですぐ応用できそうだし、サーキット初心者にもうってつけだと思う。
一日のスクールを通して、筆者は一度だけ転倒したものの、スピードが低かったことやレザースーツのおかげで膝の打撲で済んだ。原因は寝かし過ぎて、膝がつく前にステップを擦ってしまったこと。とはいえ、誤解を恐れずいえば、コースでの転倒はいい経験にほかならず、スクールならば原因や対策までアドバイスがもらえるのだから、転ぶことを恐れることなくチャレンジすべきだろう。
結果として、筆者としてはフォームやブレーキのかけ方など「客観的なアドバイス」を多数得られたこと、またタイヤの使い方や体力増強といった課題も見えてきた。さらに、ちょっとした「自信」がついたことや、ささやかながらテクニックの「進歩」が感じられるなど、満足感は計り知れない。丸まる一日を費やし、2万円(平日料金、週末は2万3000円)という受講料を差し引いてもおすすめできることは間違いない。
特に、ライディングについて迷っている方やサーキット初心者の方、参加して後悔しないどころか、リピーターとなること請け合いだ。

■コース上では鈴木&上田講師に声をかけられ、また呼び止められてより具体的なアドバイスや注意を受ける。小さなサーキットなので、メガホンで声が届くというのはメリット。だが、講師がすぐ近くで見ていることもあり、ごまかしが効かないという緊張感もあるのだ。

■こちらは、転倒した後ということもあり「まったくなってない」シーン。個人的には、上半身の保持(腹&背筋の強化)ステップに対する荷重の方向(スクールではファイティングポーズと表現される)といった課題が見つかった。一方で、コーナーへの進入、きっかけ作り(荷重移動)などはイメージ通りで、ちょっとした自信につながった。
レポート●石橋 寛 写真●石橋 純/八重洲出版
BKライディングスクール
http://www.mu-ad.co.jp/bkrs-info.html
BKライディングスクール事務局
Eメール bkridingschool@aol.com