■「一時停止」について
一時停止はどのくらい「ピタッ」と止まらないといけないのか?3秒ルールはホント?
警察官として交通取り締まりの現場にいると、たびたび「違反してないケド?」と否認するドライバーに出会います。そして、現場で最もドライバーと揉めやすいのが「一時停止」の違反です。
一時停止の取締りでは、高確率で「止まった」「いや、止まっていない」という問答を繰り広げることになります。なぜなら、取締りをおこなう警察官とドライバーとの間で「止まる」という行為の理解が異なるからです。
一時停止はどのくらい「ピタッ」と止まる必要があるのかを解説していきましょう。
「一時停止」の意味
一時停止に関する規定は、道路交通法第四十三条に明示されています。
「車両等は、交通整理が行なわれていない交差点またはその手前の直近において、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあっては、交差点の直前)で一時停止しなければならない。」【引用】道路交通法|e-GOV
この条文のとおり、法律には「一時停止しなければならない」と表現されているだけです。したがって、どのような状態が一時停止に該当するのかは不明確ですが、法律の考え方や目的から判断すると、一時停止とは次のような状態だと定義できます。
1.停止線または交差点の手前直近であること
2.タイヤの回転が完全に止まること
1.の部分が守られていないと「停止線を過ぎていた」「止まるべき位置で止まっていない」という理由で取締りを受けます。また2.の部分が不十分でも「きちんと止まっていなかった」と指摘されることなり、あえなく違反切符を切られてしまうでしょう。
警察とドライバーの間にある「止まる」の認識の差
実際の交通取締まりの現場で警察とドライバーが揉める原因になりやすいのは、間違いなく2.の「止まる」という部分です。
なぜ警察とドライバーの間には「止まる」という行為の認識に差があるのでしょうか?
一時停止の定義に従えば、ほんのわずかにでもタイヤが回転している状態では一時停止とはいえません。四角四面にとらえれば、1mmでもタイヤが回転していれば違反になります。
実は、一時停止の標識や停止線がある場所でも、タイヤの回転がしっかり止まらないまま、徐行状態で通行するドライバーは少なくありません。そして、そういったドライバーの多くは自分では「ちゃんと止まった」と誤解しています。
ドライバーの多くに「ちゃんと止まった」という誤解が生じる理由のひとつと考えられるのが「重力(G値)」の存在です。高速度で走っているクルマが急に減速すると、車内のドライバーには大きな重力がかかり、停止直前に解放されます。急ブレーキをかけて停止するときに、まるでシートに打ちつけられるようなガックンとした衝撃を受けますが、それと同じ現象が軽度に起きるため、人間の身体は「止まった」と誤って認識してしまうのです。
もちろん、取締り中の警察官からみれば「減速はしたが停止はしていない」という状態なので、切符処理の対象となってしまいます。
一時停止の3秒ルールはホントに通用するのか?
一時停止のときに「1・2・3」と3秒数える、いわゆる3秒ルールを守れば取締りを受けずに済むというウワサがあります。教習でアドバイスする自動車学校もあるそうなので、実践しているドライバーも多いでしょう。
たしかに、一時停止をしてしっかり3秒の時間を取り、左右の安全を確認していれば、警察の取締りを受ける事態は避けられるはずです。そういう意味では、3秒ルールは正解だといえます。
ただし、単に「1・2・3」と数えればいいわけでもないことを覚えておいてください。
法律は何秒停止していれば一時停止として認めるといった明確な基準を示していないので、3秒ルール自体に根拠はありません。
また、いくら3秒の停止時間を確保していても、物理的にクルマが停止しただけで周囲の安全をしっかり確認せずに発進するようでは、一時停止というルールが設けられている趣旨に反してしまいます。
過去には、一時停止をしたものの安全確認が不十分なまま交差点に進入してほかのクルマと衝突した事故について、「ただ一時停止をしただけで事足りるとはいえない」と裁判所が判示したケースもあります。
いわゆる3秒ルールは、一時停止をして左右をしっかり確認したうえで発進するなら「最低でも3秒くらいの時間はかかる」という安全運転のコツのようなものだと考えておきましょう。
停止ギリギリのきわどい徐行でも警察は取り締まるのか?
一時停止違反の取締りを受けたドライバーのなかには「ピタリと止まったはずなのに警察に取締りを受けた」という方が存在します。
ここで、警察サイドのお話をしましょう。
交通取締りの現場にいる警察官の多くは「できれば揉めたくない」と考えています。一時停止の違反に関しては、ピタリとタイヤの回転が止まっていなくても停止する意思が見受けられて安全確認をしているようなら、ある程度は見逃しているというのが実情です。
もちろん、ルールはルールなのでわずかにでもタイヤが回転していれば違反ですが、微妙なところまで取締りの対象にしていると、違反切符のつづりが何冊あっても足りないくらいの件数になってしまいます。
ただし、停止ギリギリの徐行でも、明らかに停止する意思が見受けられかったり、ほかのクルマや歩行者に危険を与えてしまったりすると取締りの対象になりやすいので要注意です。
きわどい徐行では取締りを受けない可能性があるとはいえ、あくまでも停止する意思があり、かつ安全確認を怠らず周囲の交通に危険を与えていないことが大前提になると考えてください。
レポート●鷹橋公宣 画像●モーサイ編集部
◯鷹橋公宣(たかはし きみのり)
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、「note」では元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。




































