ホンダは1970年代の後半、モーターサイクルの次の時代を見据え、多彩なエンジン形式を開発し投入したが、その中のひとつが400/500ccモデル用の水冷縦置きV型2気筒だった。以前に紹介した記事「ホンダはなぜ縦置きVツインを作ったのか?」に続き、ここでは同エンジンが搭載された派生型アメリカンモデルGL500カスタムの試乗記から、ホンダの縦置きVツインが目指した方向性を紹介しよう。


■今回の撮影車はフロントにセミエアサスを採用した81年型のGL500カスタム。ハンドルをGL用のセミアップタイプに変更しているものの、カスタムの純正はプルバックタイプが標準。なお初期のGL/CXシリーズは、フロントブレーキがシングルディスクだった。
乗り手を選ばない、フレンドリーな縦置きVツインモデル

昨今ではそういう話は聞かなくなったけれど、少なくとも70年代の2輪業界には、Vツインは乗り手を選ぶ……という雰囲気があったと思う。
その原因を作ったのは、ドゥカティやモトグッツィ、ハーレーなどで、低速域でギクシャクしがちだったり、振動とメカノイズが盛大だったり、スロットルのオンオフで車体が妙な挙動を示したり、ライポジの設定が何だか個性的だったりと、当時の海外製Vツインは、イチゲンさんお断りにして、ひと筋縄ではないキャラクターだったのである。
だからリアルタイムでGL/CXを体験したライダーなら、だれだって驚いたに違いない。何と言ってもGL/CXは、ホンダ初のVツインにも関わらず、ムチャクチャ乗りやすかったのだから。エンジンはどんなときでも従順だし、振動とメカノイズは小さく抑えられているし、縦置きクランク+シャフトドライブならではのクセはほとんど感じないし、ライポジも馴染みやすい。初のVツインで、よくもここまで完成度の高い乗り味が構築できたものである。

■70年代の日本の4メーカーは、ロードスポーツをベースとするクルーザー(当時はアメリカンと呼称)仕様を数多く開発。GL400/500カスタムは、その流れに沿って1979年から販売されたモデルで、ライポジ関連パーツやガソリンタンク、ショートマフラーのほか、500カスタムでは16インチのリヤホイールなどが専用設計されている。なお、ノーマルのGL500カスタムは写真のようにプルバックハンドルを装備した。

もっとも、徹底的にマイナス要素を抑えたGL/CXに対して、ツインとしての味が足りない、優等生すぎる、などという異論を述べる人も当時はいたらしい。実は僕自身も、過去にそういう印象を持ったことがあるのだが……。
今回久しぶりにGL500カスタムを体験した僕は、70年代のホンダの仕事に改めて感心することになった。このバイクの何がいいって、やっぱりエンジンである。同シリーズの縦置きVツインの魅力と言ったら、一般的には高回転のシャープな伸びだと思うものの(1万rpmはあっという間)、僕としてはコロコロした鼓動と振動が味わえる低中回転域も好印象で、適度な表情の変化を味わいながら山道を走ることが、ものすごく楽しい。
一方の車体については、アメリカンタイプのカスタムはSTDよりやや安定指向になっているのだが、ハンドリングはニュートラルで従順。もっともハンドルがノーマルのプルバックタイプだったら、多少は思ったるい印象を抱いた気はするが、エンジンをきっちり味わえるという面では、STDほど飛ばしたくならないカスタムの車体は、なかなか侮れない資質を備えていた。
当時の高性能指向のユーザーニーズにマッチしなかったり、同シリーズの製造コストの高さなども原因してか、残念ながらGL/CXの系譜は80年代中盤で途絶えてしまったけれど、この機種のマニアは世界中に数多く存在し(専門のウェブサイトが山ほどある)、近年のGL/CXはカフェレーサーを作る素材としても注目を集めている。
根強い人気は今後も続くだろうし、おそらくGL/CXを入手して唯一無二の世界をたん能してしまったら、そう簡単に手放す気にはなれないだろう。
ウイングGL500カスタムの各部紹介


■ホンダ初のVツインは、高回転化と小型化を徹底的に追及して開発。その象徴と言えるのが、昔ながらの構造でありながらエンジン全高が低くできるOHVと、吸排気効率の向上を実現する4バルブを組み合わせた、当時としては革新的な動弁系だった。クランクケースは一体鋳造で、シリンダーも一体型。そのシリンダー挟み角は80度で、Vバンク間に設置されたカムシャフトは、同軸上にウォーターポンプを備えている。クランクシャフトに対して吸排気ポートと燃焼室の角度を22度をひねるツイステッドヘッドは、後に形を変えてダートトラッカーのRS750Dに転用された。なお当初のGL/CXの点火は無接点式CDIだったものの、トラブルが多発したため、後にトランジスタ式に変更されている。


■ハンドル&シートの変更に歩調を合わせるべく、カスタムのステップは前方に移設。シフトペダルは何とも複雑なアールを描いている。その上に見える筒型の部品はセルモーターで、この位置は同時代の縦置きクランク、モトグッツィやBMWと同じだ。

■前後ホイールはホンダならではのコムスターで、俗に言う裏コムスター(写真)になるのは81年型から。なお同年からはフロントフロントフォークがセミエア式に変更されている。ちなみにGL/CXは、ホンダにとって初のチューブレスタイヤ採用車だった。

■GL400カスタムの後輪がSTDのGL/CXと同じ18インチだったのに対して、500カスタムは2インチ小径となる16インチを選択している。

■セパレート式のメーターは、STDのGL/CXとは異なるデザインだったものの、現代の目で見るとクルーザーらしからぬと思える構成。タコメーター内には水温計が備わっている。

■カスタム専用設計の燃料タンクは、クルーザーの王道と言うべきティアドロップ型。容量はSTDのGL/CXより5.5L少ない11Lで、幅が狭いためライダーのヒザとシリンダーヘッドが接触しやすいほか、航続距離も短くなるのが難点と言えた。

■座り心地のいい段付きシートは、クルーザーならではの形状。表皮にはダイヤモンドタイプのステッチが入る。
ウイングGL500カスタム主要諸元
◼エンジン 水冷4サイクル縦置き80度V型2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク78✕52㎜ 総排気量496cc 圧縮比10 燃料供給装置:京浜VB39(CV型)キャブレター 点火方式CDI 始動方式セル
◼性能 最高出力48ps/9000rpm 最大トルク4.1kgm/7000rpm
◼変速機 5段リターン 変速比①2.733 ②1.850 ③1.416 ④1.148 ⑤0.931 一次減速比2.242 二次減速比3.090
◼寸法・重量 全長2170 全幅875 全高1170 軸距1455 シート高ーー(各㎜) キャスター27度 トレール100㎜ タイヤサイズF3.50-19 R130/90-16 車両重量214㎏
◼容量 燃料タンク11L オイル3L
◼価格 45万8000円(79年)
文●中村友彦 写真●MCクラシック編集部

※本記事は、MCクラシックNo.1(2017年10月号)内の特集「’70年代国産500/550の世界」の一部を再構成したものです。
中村友彦(なかむら・ともひこ)
1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車から最新スーパースポーツまで、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車でロングランに出かけている。





































