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全盛期は4つの排気量があった! 70年代のレジャーバイク、スズキ バンバンシリーズ50/75/90/125って知ってる?

レジャーバイクに新風を吹き込んだ個性派バンバン

50/75/90/125ccのバンバンが出揃い人気の絶頂を迎えたバンバンシリーズ1974年のカタログ。その威勢を表してか、表紙のおじさんの身なりもぶっ飛んでいる
1971 年に国内販売されたバンバン90。シリーズ中で最も太い前後6.7-10インチのバルーンタイヤが標準装備された。タイヤ幅は約170mmで、これは後のTW200の後輪(180mm)に匹敵
バンバン90(1971)

1970年代が明けて間もなくレジャーバイクブームが国内に到来する中、国内第3のメーカーであるスズキが開発を目指したのは、北米市場を意識し、砂地をはじめとした不整地で遊べるバイクだった。

我が国でのレジャーバイク黎明期の代表作は、60年代後半に登場したホンダのモンキーやダックスらで、両車の特徴は車体を極力軽くコンパクトに作り、ハンドルを折りたたんで4輪のトランクにも積みやすくしたこと。旅先での短距離移動、ないし近所のお散歩の足としてのレジャーバイクを具現化したのだが、スズキが目指したのは別のキャラクターだった。

車名のVanvan(以下バンバン)は、VAN(英語で「前衛」を意味する)をふたつ重ねることで、飛び抜けて前衛的なモデルを意図したもの。同車は当初、砂の上など不整地を走って楽しいバイクを第一のねらいとした。環境保護に関する規制が厳しくなかった70年前後のアメリカには、まだ砂漠や海岸沿いにはバイクが乗り入れられる場所が各地にあってダート天国だったというが、そんな地で受け入れられる魅力的なレジャーモデルを目指したのだ。開発陣は、実地見聞を兼ねてアメリカに出かけ、現地でのバイクの使われ方やユーザーの嗜好調査などを実施。その結果導き出されたのが、砂地で気軽に乗れるダートバイクだった。

もうひとつ、最初に開発されたバンバン90の特徴は、大人の乗れるレジャーバイクということ。アメリカ市場に渡ったコンパクトな日本製バイクには、それ以前にモンキー、カワサキ・コヨーテ、スズキMT50ホッパーなどの例があるが、多くが子供向けのミニバイク需要をねらったもの。それらと異なるバンバンの開発意図は、発売時のバンバン90のアメリカ市場向けカタログでの、以下の宣伝文句が物語っている。

「新しいジャンルのバイクを紹介します。あなたはこれに乗り、どんな場所にも好きなときに到達できるでしょう。大きく太いこのタイヤは、ラフロード、ガレ場、砂の上や雪の上、泥濘や水たまりもスムーズに通過できます。公道走行もできて操作も簡単……(後略)」。

子供向けのクリスマスプレゼントではなく、大人に向けて好きな道を走れることを提言しているのだ。

90登場の翌1972年に登場したバンバン125。90の小径・極太の10インチタイヤに対して、より現実的な選択なのか車輪は前14/後12インチ化された
バンバン125(1972)
バンバンの人気沸騰を反映し、1972年には50ccモデルも国内に登場
バンバン50登場後の1973年、シリーズに加わったバンバン75
バンバン75(1973)

北米市場での不振と、日本での予想外のヒット

1975年のスズキ総合カタログ。表紙を飾るのはバンバン50(左)と同75(右)

同車の最大の特徴は極太のレクタングルタイヤだ。見た目のボリュームからバルーンタイヤとも言われるが、低圧で使用される同品(標準指定空気圧は0.8kg/cm2、不整地走行では0.6㎏/cm2以下)を、砂地でも普通の舗装路でも違和感なく走らせるには相応の試行錯誤があったという。砂をうまく噛むタイヤパターンと舗装路で違和感のない走行性を両立する難しさだが、スズキ開発陣はタイヤメーカー・ブリヂストンの協力でこれを製品化するのだが……。

足着き性のよい車高と前述のタイヤでの砂地等での高い走破性を実現した同車は、フタを開けてみると、アメリカ市場でのセールスは芳しくなかった。大柄なアメリカ人にとっては車格が小さすぎると評価され、馬力を食われる不整地での90ccは非力すぎるとの意見が多くを占めたという。そして、当初の油圧ダンパーなしでスプリングのみのフロントフォーク(後に油圧式に変更)は、不整地での走りで物足りないとの評価も下された。スズキ側は、その部分を特徴的なレクタングルタイヤの空気圧調整で補ってもらう意図(そのためエアポンプとエアゲージが標準装備された)があったが、前例のないレジャーバイクは、結果的に彼の地では浸透しなかったのだ。

ねらった場所で評価を得られないことは、作り手としては残念だったに違いない。だが、バンバンの前衛性は意外にも自国で評価された。国内では71年の東京モーターショーで展示され、今まで見たこともないフォルムデザインが注目を集めたのだ。90を販売した翌年には日本での入門クラスの50ccにもバンバンが投入されるが、これも意外なる90の人気が後押ししてのもの。72年のバンバン50登場でさらに人気を加速し、月産3000台でも売り物が足りないとの記述が、当時の誌面には出てくる。

1975年の総合カタログ。50で3バリエーション(オートクラッチ/スタンダード/スポーツ)、75で2バリエーション(スタンダード/スポーツ)のほか、90と125を加えて大所帯となったバンバン

72年10月のモーターサイクリスト誌で掲載された「売れてるクルマ再発見特集」という記事では、販売店のこんなコメントが紹介されている。

「なんというか、今まで見ないようなMCということで、人目を引きつけているようです。特に若い人たちに人気が集中しているようで、高校生なんかあっちこっち触ってみたりします」「人気の原因は、車体が軽くて乗りやすそうで、しかも安心感があって、なんとなくシャレたバイクと感じられる……」という具合に、実に好評。90から始まり、裾野の広い50(72年)、さらに上級クラスの125(72年)、中間機種の75(73年)の登場なども、70年代前半のバンバン人気をよく表している。

1970年代のバンバン人気にあやかり、現代風にアレンジして2002年に登場した軽二輪版のバンバン200。エンジンは信頼性の高い200cc 4サイクル空冷単気筒SOHC 2バルブを搭載。価格32万9000円

バンバンシリーズ(50/75/90/125)主要諸元

まとめ●モーサイ編集部・阪本  写真・資料●八重洲出版アーカイブ、スズキ

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