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衝撃を与えた「“中免”で乗れる70万ハーレー」X350
「“中免”で乗れる70万ハーレー」として、69万9800円の値付けでエントリーモデル・X350がデビューしたのは2023年10月のこと。
多くの人に衝撃を与えたのは確かだろう。実際、我々がX350を取り上げた記事を展開しても、その都度かなりの反応がある(他メディアの記事なども同様に見える)。
註:今の時代「中免」なんて言い方しない、という声もあったが、これはハーレーダビッドソンジャパンがキャッチコピーとして使っているものなので、それはそれとしてほしい。

ネガティブな意見もある。全体のトーンとしては「こんなのハーレーじゃない」となり、各論は概ね次のような感じに集約できると思う。
①ハーレーと言えば高級車である。
②ハーレーと言えば大排気量のV型2気筒エンジンである。
③中国で生産されているのが気になる。
④エンジンや車体は中国メーカー「QJモーター」のものを使っている。ハーレー自身の設計ではない。
これはバイクに限らない話だろうが、①に関しては、エントリー商品の登場でブランドが大衆化し、高級感が損なわれる……という心理はわからないでもない。熱心なファンや、憧れを持つ人はその思いが強くなるだろうと思う。が、X350(およびX500)の登場したことで、世界中でハーレーの売上が拡大 → 大排気量の新型モデルの開発も進む、なんて考えたらどうだろう。
②に関しては、ハーレーダビッドソンはXシリーズだけを売るようになったわけではない。大排気量V型2気筒エンジンはしっかりラインアップされているし、むしろ排気量の拡大や新技術の投入など進化を続けている。
③もバイクに限らず様々な商品で語られている話で、それに関してはもう個人の価値観だ。
④について、ハーレは2019年6月にQJモーターとの提携を発表した際「QJモーターの銭江工場で生産される新しいモデル(Xシリーズ)は、ハーレーダビッドソン製品に適用される厳格な品質基準とテストプロセスに準拠する」とコメントしている。
では、実車はどうなのか? 筆者はX350に乗るのは今回が初めてである。
加えて筆者は、大型二輪免許を有している。ハーレーオーナーになったことはない。だが、いわゆる「ビッグツイン」や新旧スポーツスターに乗ったことはある──という視点をあらかじめお伝えしておく。
ハーレーダビッドソンX350の足つき、エンジンフィール
さて、X350の実車を見てみると、かなりカッコいい。往年のダートトラックレーサー「XR750」のデザインをモチーフにしつつ(とはいえ自分はその活躍に胸を熱くした世代ではないけれど)、モノショックの現代的なスポーツバイクにマッチしていると思う。
デザインに関して車体・エンジンの「ベース車」があるということは、正直どうでも良い気がする。というのも、その「ベース車」をそもそも日本で見ないからだ。
またがってみると、結構バックステップであるのに驚かされたが、足つきは良い。シート高は777mmで、身長170cmの筆者では両足のカカトがわずかに浮くくらい。片足では足の裏の全面が接地する。車重も195kgで、多少車体が傾いても不安感はないし、押し引きも苦労しない。


エンジンは360度クランクの並列2気筒で、最高出力36馬力。近年、様々なメーカーが並列2気筒エンジンを採用しているが、その多くは270度クランクで、傾向として低回転では「デュルデュル」とした音、高回転では「バイーン」という感じの音になる。
X350の場合、低回転では「ボー」という感じ。回していくと「フォーン」となり、4気筒っぽいような雰囲気もある。……いずれにせよ、擬音語が稚拙で申し訳ない。
エンジン特性は回した分だけ出力が出てくる、一直線なタイプに感じた。高回転でガツンと盛り上がるようなゾーンは無いが、いわゆる「谷」もなく扱いやすい。加えて、低回転でもしっかり力があり、高いギヤで2000〜3000rpmから引っ張ってもついてくる粘り強さもあった。
今回試乗したのは市街地がメインだったが、6速走行時のエンジンの余力を見ると、高速道路でパワー不足を感じることも無いと思う。
走行環境的にハンドリングについて何か言うのは難しいものの、基本的にはオーソドックスなロードモデルといった印象だった。サスペンションは少々硬い気がしたが、筆者の体重が59kgとやや軽めなのも影響しているかもしれない。オーナーとなったらサスペンションをソフト目に、ちょうどいい具合を探ってみると思う。

ハーレーダビッドソンX350は、同クラスの日本車と比較検討できる
乗ってみて印象深かったのは、日本車の250ccクラス、400ccクラスのモデルとほぼ同じ感覚で乗れる扱いやすさだ。輸入車と言えば個性が強い──翻って、クセがあるものも少なくない。しかし「個性の王者」みたいなハーレーが、こんな「普通に乗れるバイク」を出したことに驚かされる。もちろん良い意味で、だ。
そして、69万8000円という価格。
これもまた、ホンダ レブル250:250cc単気筒/63万8000円やカワサキ エリミネーター:400cc並列2気筒/81万4000円、ロードスポーツではヤマハ MT-03:320cc並列2気筒/68万7500円などの日本車と同クラスだ。
ただ、足つき面ではクルーザーのレブル250、エリミネーターに分があるだろう。
装備が物足りないという向きもあるようだが、実際に車両価格は安い。数百万円もする大排気量ハーレーと比べればそうなるだろうが、価格帯を考えると「普通」という感じだ。欲を言えば、安全装置という面でトラクションコントロールはあったほうが嬉しいか。
日本車は400ccクラスにもカラー液晶メーターが普及しつつあるなか、X350はアナログ指針式のスピードメーター+小型のモノクロ液晶。ちょっとシンプルすぎる気はするが、空冷時代のスポーツスターも似たようなメーターが付いていたような。ハーレーのベーシックグレード伝統のスタイル……?

いずれにせよ、冒頭で述べたように、そしてハーレー自身が件の2019年の発表で伝えているように、X350(およびX500)はエントリーモデルである。既存のハーレーファンより新興国でのブランド展開や、新規ユーザーをターゲットにして開発された車両である点を忘れてはいけない。バイクビギナーもそのターゲットに含まれるだろう。
(熱心なファンから辛口の意見を述べる人が出てくるのは恐らく日本に限らずの話だろうし、それはハーレーも重々承知のはずだ)
そして、奇しくも日本では「普通自動二輪免許」の枠に収まり、日本車と同じような感覚で乗れ、価格も日本車同等だ。実車に触れてみて、その狙いは見事に達成されていると感じた。
その一方、レブル250やMT-03などはベテランライダーからも選ばれている。コンパクトなマシンが好き、ダウンサイジング、求めやすい価格など理由は色々あるだろう。そうしたベテラン層にひとつ強調したいのは、ストリートファイター系ネイキッドが増えてきているなか、X350は貴重な丸目ヘッドライトのネイキッドなのである!
筆者はベテランと言えるほどバイク経験は無い。が、オジサン世代のひとりとして丸目ネイキッドは大好物である。そこだけを理由にX350を選んでも、裏切られることはないと思う。筆者が試乗してわかったのは、デザインだけでなく、X350は「中身」も確かだったということ。イメージだけで語るよりも、まず一度、実車に触れてみてほしいと思う。
ハーレーダビッドソン X350主要諸元(2025年モデル)

【エンジン】
水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:70.5×45.2mm 総排気量353cc 圧縮比:11.9 燃料供給装置:フューエルインジェクション
【性能】
最高出力:27kW(36ps)/8500rpm 最大トルク:31Nm(3.1kgm)/7000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2110 全幅:── 全高:── 軸距:1410 シート高:777(各mm) キャスター:24.8度 トレール:100mm タイヤサイズ:F120/70ZR17 R160/60ZR17 重量:195kg
【容量】
燃料タンク:13.5L エンジンオイル:3.2L
【車体色】
コズミックブルー、ダイナミックオレンジ、ドラマティックブラック、ホワイトパール
【価格】
69万9800円




レポート●上野茂岐 写真●ハーレーダビッドソン
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