日本における夏の暑さは東西南北を問わないが、2018年の暑さは平年を軽く上まわっている。しかし、ツーリングで夏の北東北まで足を伸ばすことができたなら、その変化をライダーの肌なら感じ取れることだろう。遠くて行きづらいけれど、いつもよりも北へ。最果てムード漂う津軽半島、龍飛崎を目指しバイクを走らせる。「最高の涼」を味わう、少しばかりの知恵を働かせて。
report●五十嵐重明 photo●沖 勇吾/編集部
夜20時の逃避行
早起きが苦手でねえ──。
宵っ張りの朝寝坊。余暇を過ごすのに、いきなり苦行から始めるのが馬鹿らしいと、出発予定の朝に出かけなかったこと数知れず。旅先ではかえって早起きになるのだけれど、なぜか自宅では起きられない。
だから今回の旅は夕方出発にしようと決めた。朝4時に出れば青森には昼過ぎに着くけれど、私の〝起床力〟だと、とても現実的には思えない机上の空論だ。しかし、それを12時間ほどずらして夕方16時に出発したらどうだろう? 日付の変わるころには着きそうだ。
夕方出発としたのにはもうひとつ理由がある。涼しくなる時間から走り出すことで、酷暑灼熱喧噪の都会をうまくパスできる。そして、夜のうちに目的地近くまでたどり着いておけば、翌朝、東北の雄大なパノラマをすぐに味わうことができるのだ。朝イチでそんな感慨とともに走り出せることに比べれば、ビジネスホテル代など決して高くはない。目的地まで片道700㎞以上になる移動距離を2日に分散することで、疲労や退屈を回避する効果も得られる。旅のささやかな演出のひとつだ。
結局初日は岩手・一ノ関まで450㎞ほど走り宿泊することにした。ここから青森までは約250㎞。翌日、7時に宿を出れば10時には無理せず到着するのである。
20時発一路北へ! 夏旅は夜出発がおすすめだ!
仕事を早抜けして16時に出発する予定が、残務で20時にずれ込んだ。早く行けと、スタッフに追い出されて出発(汗)。
東北道を順調に走り那須高原SAに22時、23時30分福島・国見SA着。本日は2時まで走ることに決め、さらに北へ。
予定より30分早く一ノ関ICに到着。最寄りのビジネスホテルに入り本日の走行終了。遅れをかなり取り戻した。
7時に宿を出て再び北へ。岩手山が顔を見せた。盛岡周辺の広大な景色が昔から大好き。この爽快感が最高なのだ。
思い出した〝宿題〟
北へ──涼を求めるには当然の方角ながら、今回の目的地を選ぶ際、私はあることを思い出した。
20年あまり前、学生のころは日本一周もしたし、何度も東北に足を運んでいた。なのに、ついぞ津軽半島だけは訪ねることができなかった。もちろん社会人になってからも青森へは何度も行っているのだが、付け根の五所川原や鰺ヶ沢、深浦、あるいは下北半島はまわっていながら、ここだけが残ってしまったのだ。
関心がなかったわけじゃないのに、なぜかたどり着けなかった。津軽を目的地に何度旅に出ても、下道を流しながら北上していくと、例えば八幡平、あるいは八甲田に寄り道し、五所川原辺りまで来て思い至る。「龍飛崎まで行ってると東京に戻れない!」。……まあ、ソロツーリングなんて行き当たりばったりさと、次の機会を待つうちに、早20年の月日が経ったというわけだ。
では、私はなぜ津軽に興味を持っていたのだろう。それは小学2年のころ流行った「津軽海峡・冬景色」の影響かもしれないし、高校のころにはまった太宰 治の故郷だからかもしれない。あるいは当時読んでいたバイク雑誌の記事の影響か。とにかく自分にとって訪れるべき辺境だったことは間違いない。
社会人になってそんな思いはすっかり忘れていたのだが、「北へ!」というキーワードから、やり残した宿題を思い出したのだ。
津軽の走りどころ
●岩木川の河口にある汽水湖、十三湖。
●五所川原から北へ向かう国道339号とほぼ並行して走る「米マイロード」。
●観光化されているとはいえ、一度は見ておきたいと立ち寄った太宰治の生家、金木駅近くの「斜陽館」。
●竜泊ラインを南から走ると、まずこのような荒涼とした海岸線を走り、続いて右頁のようなヘアピンの続く道で標高を一気に上げる。走りも眺めも大満足!
●龍飛崎と竜泊。旧字と新字を使い分けるようだ。
ついに念願の龍飛崎
先入観もあるが最果て感はやはり抜群だった。海の向こうの松前半島を眺めながら、その達成感をジンワリと味わった。階段国道は観光化される以前から訪ねたかった場所。標高差70m、362段もあり、上下往復したら息が上がったが、そのぶん海風を涼しく堪能。近くの「青函トンネル記念館」では、坑道を利用し海面下140mに降りて、地底の涼も体験しようと考えたが、16時半発の最終便に間に合わず今回は断念。
かつては大型車の通行規制もあった竜泊ラインだが、いまでは完全2車線道となり、ワインディングの路面状態も申し分なし。1290スーパーアドベンチャーは抜群の動力性能と落ち着いたハンドリングで、標高差をものともせず痛快な走りを堪能させてくれた。
半島の東の突端、高野崎に向かう途中で見た夕日もまたどこか最果ての雰囲気。津軽で生活する人々は、毎日何を考えてているのだろう……と、妙な想像を巡らせてしまうのだった。
(後編に続く)