中央アルプスと南アルプスの間に位置し、関東圏や中京圏からアクセスしやすい割にあまり知られていないルートも多く、通好みなのが中南信。厳しい自然環境や、そこに住む人たちの営みと歴史を肌で感じ取ってもらいたい。
report●櫻井伸樹
名峰に囲まれた山深いエリア 歴史と自然と走りを存分に
御嶽(おんたけ)の麓を目指しているといつの間にかスキー場の中を走っていた。それまで樹林帯にいたはずなのに急に景色が開け、まっすぐに山へと伸びるリフトの下を、右に左に車体を傾けながら走る。なかなか走りがいのあるワインディングだ。次々に迫りくるコーナーをやり過ごした所でバイクを止め、眼下を振り返るとそこには今走ってきた道が、のたうつ大蛇のように横たわっていた。いくつもヘアピンが重なる様子は、まるでどこかのサーキットのようじゃないか。御嶽スカイラインは御嶽湖から田ノ原天然公園まで僅か20㎞ほどのピストン道路だが、このサーキット風の景観が実に面白い。ツーリングの聖地、信州にありながら、まだまだ知られていないマニアックな道だ。
急峻な土地に息づく人々の営みが非日常的ながらも懐かしさを感じさせる
延々と深い谷間の国道を走り、そこからさらに狭い村道を行く。コーナーを曲がるたびに山からの清水に慌て、時には猿や鹿に驚かされ、やっとのことでその集落にたどり着いた。
駐車場にバイクを止め、看板を頼りに杉林の中を歩く。普段の運動不足を反省しつつ、少し汗ばんできた頃、展望台に到着した。
深い谷をのぞき込むと、山の稜線(りょうせん)にへばりついた小さな集落が一望できる。その斜面には家々をつなぐように道が蛇行し、いかにそこが急峻(きゅうしゅん)であるかが、手に取るように分かった。
日本のチロルとも呼ばれる「下栗の里」の風景は、険しい土地と気候の中で、人々が健気に営みを築いてきた賜物だ。地元の方がこの景色を知ってもらいたいと山道を整備し、展望台を作った。
今ではそれが認知され、多くの観光客が訪れるようになった。この景色は大自然の雄大さというよりも、そこで暮らす人々の情景に、郷愁や懐かしさを覚える、といった方が適切かもしれない。
日本人なら誰もがいとおしいと思えるこの貴重な風景は、信州ツーリングを語るうえでは絶対に外せない。
谷を想ふ
中南信エリアの核となるのは「伊那谷」と「木曽谷」のふたつの深い谷。これらは南アルプスと中央アルプスに挟まれた地域だけに、信州の中でも山深いのが特徴だ。特に南アルプスの西側を南北に走る国道152号は、北端の茅野市から南端の静岡県浜松市まで延々と深い谷間を走る国道で、道沿いで日没を迎えたら不安になるほど。
その一方で木曽谷は「中山道」という歴史街道であるため、奈良井や妻籠(つまご)、馬籠(まごめ)など宿場が多く活気もある。
また開田高原や、御岳ブルーライン、倉越パノラマライン、御岳スカイラインなど走りを堪能できるスポットも充実している。いずれにしても中央・南アルプス、御嶽といった名峰が周囲を囲んでいるので、山を上がれば自分だけの絶景地を見付けることができるだろう。
中南信エリアは急峻な土地が多く、空を見上げれば山々に切り取られた、キャンパスのような空が目に入る。
東信、北信と併せて中南信を走り、長野県を存分に楽しんでほしい。
走る・見る・食べるの全てが同時に味わえる信州に、是非足を運んでみてはいかがだろうか。
●御岳ブルーライン、倉越パノラマライン、御岳スカイライン、霊峰ラインのいずれも4月28日(日)に冬期閉鎖の解除を予定している。開通式の予定は特にない。
問い合わせ 木曽町おんたけ観光局 TEL:0264-22-4000