甲信

【おとなの信州探訪】非日常の佳景を求めて信州ツーリングへ:前編

走るために食べ、食べるために走る

信州の魅力と言えば爽快なワインディングや絵はがきのような美しい景色はもちろんだが、牛、豚、鶏(とり)、羊、馬、鹿から猪(いのしし)など、バラエティあふれる多彩な『お肉』が味わえることにもある。
至福の味を求めて、さぁ走り出そう。

report●小川恭範 photo●編集部

※本記事はMotorcyclist2019年9月号に掲載されていたものを再編集しています。

 

旅の途中は感受性が高まる

今年の梅雨はとにかく雨雲が本州に居座り続けた。
雨がそぼ降る中を無理に出発し、ずぶぬれになったオッサンふたりがメシを食っているページなど誰も見たくはないだろう。
毎日の天気予報をチェックし続けること1週間。

雨予報が突然晴れに変わったのを見た瞬間、「?」と編集長の関谷へメールを送る。数秒後「!」の返事で出発決定。
翌日早朝、東京から関越道を経由して上信越道を西進する2台。
関谷の乗るホンダCB650R、そして自分の相棒カワサキ ヴェルシス1000SEは、異なる〝直4〟サウンドを響かせながら長野へ。

トンネルを抜け、群馬から長野に入った瞬間、それまで10日以上ご無沙汰だった太陽のまぶしい光が全身を包み込む。
インカムの存在も忘れて思わず嬌声を上げてしまう(旅の間ずっと関谷のネタにされた)。

東部湯の丸SAにて極太フランクフルトのホットドッグと、『信州りんご豚』の肉巻きおこわを食べ〝お肉初(ぞ)め〟。

●上信越道・東部湯の丸SA「湯の丸 おこびれ処」の(左)ソーセージドッグと(右)信州りんご豚の野沢菜ミートパイ(380円)。ソーセージドッグは2種類の味が選べて共に420円だが、オープンから10時までなら240円のコーヒーが付いて500円という破格のセット価格

豊田飯山ICで一般道へと下り、千曲川と付かず離れずの国道117号をのんびり走る。
JR飯山線・戸狩野沢温泉駅をかすめ、上越飯山線こと県道95号に入る。
この道は飯山市内を抜けて新潟県上越市へ抜ける道で、田舎町を過ぎて鍋倉高原の山間路へ入ると、ワインディングは路肩のすぐ近くまで背の高い草が生い茂る。

●県道95号は場所により眼下に飯山市を望める気持ちいいワインディングでもある

例年11月上旬から5月下旬まで冬季閉鎖となるので、夏の時期が最高の道だと関谷は言う。
長野県側はタイトな舗装林道だが、抜けるような青空の下、爽快に緑の回廊を駆け抜ける。
長野県と新潟県との県境、上杉謙信が信濃への進出の際に通ったと言われる関田峠をクリアしたが……新潟県側は曇天だった。

●越後と信濃を結んだ古来よりの交通の要所が標高1116mの関田峠(写真はそこへ至る上越飯山線)。尾根沿いを縦走する総延長約80㎞の自然道「信越トレイル」でも有名だ

●関田峠にて。右上に見える「関田峠道路改修碑文」を読むと、峠を開通させた人々の熱いドラマが伝わる

峠を新潟県側へ少しだけ下った先にある、グリーンパル光原荘横の駐車場にバイクを止め、標高990mから高田平野を見下ろせば、所々海面も散見できるもののぶ厚い雲が、佐渡島も能登半島も強力にブロックしていた。
「ここは天気が良いと、日本海に浮かぶ佐渡島や能登半島まで眺めることのできる、絶景ポイントなんだけどなぁ」と関谷は残念そうだ。

●長野県との県境に広がる光ヶ原高原。好天時は佐渡、能登半島が望め、日本海に沈む夕日や上越の夜景も楽しめる。空気が澄み渡った日には、北アルプス槍ヶ岳も見えるという

近いうちの再訪を期して県道95号を戻ると、「峠へ向かうときチラッと見えた池へ行ってみよう」とインカムから関谷が言う。

それはまた何だろうと思って寄り道すれば大当たり。
その池はたたえられた水と背後にある鍋倉山との調和が素晴らしく、その風景はハリセン10発分ほどの衝撃を自分に与えた。
人一倍あると自負していた好奇心が、今やすっかりしなびていることに改めて気付かされたからだ。

関谷と同じ風景を見ていたはずなのに、寄ってみようという発想すらなかった。
湖面を眺めつつ、最近の思考停止を大いに反省。
すると目の前の景色が、さらに鮮やかさを増したような気がするのである(実のところ、ここは田茂木池という農業用の温水ため池だった)。

●県道95号沿いにあるものの、特に看板も出ていない田茂木池。横には砂利の広場あり。周辺には驚異的な保水力を誇るブナの原生林が広がっており、名もなき滝からは澄み切った湧き水があふれ出していた(下写真)

 

神話に彩られる〝信濃〟

409号、97号、504号と長野県道をつなぎ野尻湖へ。
湖底からナウマン象の化石が出土したことでも知られ、湖畔には博物館もある。
遠く古代へ思いをはせるには絶好のスポットだが、ナウマン象の肉はさすがに食べられない。

北信だけが奇跡的に晴れ上がるというリアル〝天気の子〟状態にも陰りが見え始め、徐々に灰色の雲が空を占める割合が増えてきた。
雲とのチキンレースを何とか制し、陽光差す幻想的な戸隠・鏡池に到着。

●(上二枚)戸隠連峰が湖面に映える鏡池

●看板には少しコワい注意書きも……。紅葉時も美しいが10月の土日祝はマイカー規制が行われるので要注意(もちろんバイクも近づけない)。駐車場まではシャトルバスが運行される

ちょうど風が凪(な)いでいたこともあり、まさしく鏡のような水面が戸隠連峰を映し出していた。
そこは広く知られる日本神話〝天の岩戸〟伝説の舞台でもある。

天照大御神(あまてらすおおみかみ)が弟・須佐之男命(すさのおのみこと)の目に余る暴れん坊ぶりに怒り心頭、天の岩屋に姿を隠した……という話はフワッと覚えていたものの、女神の引きこもり状態を解消するとき、すさまじい力持ちの天手力雄命(あまのたぢからおのみこと)が放り投げた岩の戸が、伊勢志摩から空を飛んで信濃へ落下。
それが戸隠山になった……というくだりを最近知って、戦慄した。

同じ景色を見ていても、目に映っているものが持つ歴史やエピソードを少しでも知っていれば感動は深まる。
尊敬する日本一のツーリングライダー・賀曽利 隆さんも「旅を一層楽しくしたいなら、行き先の歴史を勉強することですよ」とおっしゃっていた。

今回はたまたまだが戸隠の由来を記憶していたことで、確かに鏡池周辺の風景を見る目が変わったのは事実。
全くもって好奇心はしぼませている場合ではないのだ。

次に訪れた鬼無里に至っては、名前の由来からしてダイナミックすぎる(そこへ至る県道36号もダイナミックに曲がりくねる)。
伝説を要約するだけでも紙幅が尽きそうなので、ここは各自で調べていただきたい。
多くの人が信州に心奪われるのも、各所に深い歴史が見え隠れしているからだろう。

●林間のワインディングを快走する関谷。CB650Rはコンパクトかつエンジンはパワフルでハンドリングも良く、意のままに扱えるとご満悦

 

後編はコチラ(順次公開)

 

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