思い出の道へカブで再び
免許を取ったばかりの頃は、高速道路を使わないのは当然だった。
お金はなく、ただ行きたい、走りたいだけだったし、仲間には50㏄も125㏄もいたから。
カブは原点、下道も原点。
あの頃のように、あの道を走ろう。いつもとは違う、爽やかな旅立ち。
report●石橋知也 photo●石橋知也/小川恭範
岩魚とジビエと、それに蕎麦に林道・裏道も味わう
輝く1970年代が終わろうとしていた。アメリカを往復横断した後だったので、日本の山奥に憧れた。
秩父から清里方面に抜ける中津川林道や、今回走ったクリスタルラインや周辺の林道を何度も何度も走った。
あの頃はもちろんダート。冬だと北側は凍っていたのに、南側は泥沼なんてこともあった。
だから久し振りに行ってみようと思った。匠亭の青木和夫さんとの再会も楽しみ。
クリスタルライン? 響きは美しいが、実際は狭い林道を舗装しただけ。あの頃はどの道も何とか林道とか何とか線だったが……。
その舗装林道は清里方面から甲府の郊外までを山麓を横断する。
川上村、金峰山辺りからの縦断路は通行止めが多い。崩れても交通量が極端に少ないから、なかなか復旧しない。
特に最近は大雨や台風などの影響が大きい。
スーパーカブC125とクロスカブ110の2台だから当然下道。
甲州街道はなるべく走りたくないため、東京から相模湖までは野猿街道、国道413号などを使う。大月辺りは相変わらず工事渋滞(あの頃もそう)。
甲府から諏訪へはいいペースで走れる。復路はクリスタルライン、柳沢峠・丹波村経由の大菩薩ライン、上野原丹波山線、奥多摩湖周遊道路、そして上野原、相模湖……とあの頃走った山道を贅沢につないだ。
日本の深き山と清流が育む"幸"に感謝
絶品ジビエを味わえる店へ
昨年訪れたとき、匠亭の青木和夫さんが言っていた。「5月の連休が終わったあたりからの岩魚がとてもいいですよ」
この言葉が忘れられなかった。
青木さんの話を聞いていると、ジビエや天然魚の本来の味わい方があることにいちいち感心してしまう。旨み、臭み、食感、調理方法、加工方法などには自ら撃ち、釣って解体・精肉し、料理する人でなければ知ることができない秘密が多く隠されている。
例えば猪肉の臭み。発情期の雄だから臭みがあるという。
確かに匠亭の猪肉は全く臭みがなく、硬くもなく、それでいて食感と旨みはしっかりある。
鹿肉は、今回特殊な加工を施したステーキをいただいた。
「同じじゃ飽きるでしょ。一度食べたからもう鹿肉はいいやではもったいないので、新しい食感と旨みに挑戦したヤツです。普通のもいいけど、こういうのもね。よく鹿肉はレバーのような味がすると言われますけど、元々鉄分が多いのでそうなんでしょう。どうですか、これ?」
いやいや本当に美味しいし、新しい。鹿肉がこんなに食べやすくなるなんて不思議だ。
「春は鹿の解体で忙しいんです。ちょうど駆除が始まった後なので」
他のハンターが持ち込むのだという。注文に応じて精肉して契約しているレストランなどへ出荷するのだ。これも青木さんの仕事。
この忙しさから、なかなか岩魚釣りに出かけられないでいた。青木さんたちプロは、一般者立ち入り禁止の山奥で釣る(例えば林道の閉まっているゲートの奥だ)。
自分のレストランで出す分だけ釣るし、産卵前の雌も釣らない。次の恵みを大切にするからだ。
「今でも魚はちゃんといますよ。ただ、鹿は少なくなる傾向ですね。気候の影響を受けますから」
あくまで大自然の営みの一部に、寄り添いながら人間も生きている。食するとは何か。また、行こう。
カントリーレストラン 匠亭
住所:長野県茅野市金沢2149
営業時間:12時〜14時/17時30分〜20時
定休日:火曜日(冬期は火・水)
TEL:0266-73-4862 URL: http://www.takumitei.com
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