クロスカブ50で身近な秘境「陣馬山」を走る!!
カブについて話をする人は、なぜかみんな健やかな笑顔を見せる。その理由って、乗るだけでも分かるのだろうか。
ここ最近、ささくれ立った心に悩まされていたカブビギナーが、シリーズ中でも特にコンパクトなクロスカブ50で「実証実験」を行った。
report●上野茂岐 photo●柴田直行
ナイセストピープルになりたい
クロスカブのエンジンを切る。聞こえてくるのはせせらぎの音だけ。毎日見ている多摩川に注ぎ込む支流のひとつ、浅川の清涼な流れだ。こんな穏やかな気分になるのはカブだからだろうか……なんて訳知り顔で語るつもりは一切ない。だって、カブに乗ってツーリングをするのは何たって初めてなのだ。
だけど、バイクに乗っている最中「終始穏やかな心地でいられる」という稀有な体験をしたのは本当だ。いや、そもそもこんなにも落ち着いた気分になったのはいつぶりだろうか。
というのも、私事で恐縮なのだが、肺炎をこじらせたり、手術のため入院したりと体の不調が続いた去年、気持ちもあまり外向きにならず、愛車のナナハンでちゃんとツーリングに行ったのは何回だったろう。
そんなときにスーパーカブ50を愛用するカメラマンから「最近バイク乗ってないんだって? カブにしてみたらいいのに。カブはいいぞ~、ちょっと出掛けようと思ったらすぐ乗れる気軽さがあってさ」と言われたのだ。
しかし、それはある程度小さなバイクなら何だっていいのではないか。何なら愛車のPCXでもいいわけで(と言いつつ、PCXもお買い物以外にあまり乗っていない)と、また閉じた思考になりかけたとき、そのカメラマンの言葉には続きがあった。
「それでいていざ走り出しちゃうと夢中になって、いつまでも走っていたい気分になるんだ」
サイズだけでなく、仮に購入するとして価格的にもハードルが低く、夢中になれる世界がある……。
ならばと、閉じた世界からの脱出を試みたのである。
ジャンプなんてしなくても"大脱走"はできる
向かった先は東京都内にある手近な山、陣馬山。カブビギナーとしては首都圏からそんな遠くに行くのも大変だろうと、正直に言えば“安パイ”を切ったのだが……結論から言うと正解だった。片道50㎞でこんな非日常感が味わえるなんて!
そのひとつが、峠越えをする街道の入り口を見誤って迷いこんだ道。所々路肩が崩れているような荒れ具合だったが、〝秘境感〟を味わいながら夢中になって走った。
トコトコと文章ではよく表されるが、擬音でいうならばパルパルパル……と聞こえるカブ系独特のエンジン音が、確かにいつまでも走っていたくなるような牧歌的なリズムを刻んでくれたからだ。
それに狭い道で行き止まりに遭遇しても、タイヤ径が14インチのクロスカブ50はクルッとその場でUターンできるし、最悪、持ち上げて自転車感覚で難所から脱出もできる(実際何度かした)。
陣馬山

●地図を見る限りこの先に神社があるようだ……って本当!? まぁ、間違っていても押したり引いたりで帰れるので全然気にしませんが
また、とにかくバイク自体が歩みを進めることを全力でサポートしてくれるようで、それがストレスなく夢中に走れる理由であり、また冒頭に記した〝穏やかさ〟の源なのだろう。
宮城県仙台市に住んでいた学生時代、初めて乗った50㏄のバイクでここと同じように日の光もあまり届かない青葉山の暗い森を、意味もなく上ったり下ったりしたのを思い出し、笑みがこぼれていた。
街道筋に復帰し、童謡「夕焼小焼」作詞者の故郷にちなんだ休憩施設、夕やけ小やけふれあいの里で昼食を取り、峠越えを目指すと……峠の手前でオオ!? なんと補修工事のため通行止めではないか。
だがガッカリな気分にもならない。素直に「また来よう」と思ったのは、カブだからだろう。訳知り顔で語るつもりは一切ないが、夕焼けを背に、東へと走る帰路、心からそう思った。「実証実験」は続くのである。
夕やけそば

●トロロと卵で夕日を、のりでカラスを表現した「夕やけそば」をランチに。そばは手打
ちでコシがあり、トロロは粘り気が非常に強く、かわいいくせしてかなり食べ応えがある

●正直、クロスカブ50はスピードが出ない。その分、取材を行ったのがまだ冬時期だったにもかかわらず、手がかじかむこともなくあまり寒さを感じないという意外な恩恵にも。ちなみにクロスカブのウインカーは昔のカブ同様に右側配置である

●「キミより小さい体なのに、僕のクロスカブは、キミの3倍以上も"馬力" があるんだぜ」と自慢したのが気にくわなかったのか、コッチを見てくれない夕やけ小やけふれあいの里のポニーくん