何もかもが冷え切ってしまう冬場のツーリングは、人間の体温はもとより、気温に路面の温度、タイヤの温度にいたるまで、注意点がたくさんある。どんなシチュエーションのとき何に気を配って走ればいいのか、具体例を挙げてここで紹介しよう。
report●田宮 徹
ポイント1:気温5℃のときに70km/hで走ると、体感温度は-14℃!?
ヒトが肌で感じる体感温度は、皮膚表面の熱や水分が奪われると低くなる。
外気温に対して、風や湿度や日照量などが大きく影響する体感温度がどれほど低くなるかは、個人の代謝や年齢、服装などによっても異なるため絶対的な計算式や数値はないのだが、日本では風速が1m(時速3.6㎞)増すごとに体感気温が1℃下がるという目安が使われることが多い。
時速を風速に換算するには3.6で割ればいいので、70㎞/h走行時の風速は約19m/s。計算上は5(気温)−19(風速)=−14(体感温度)となる。寒い!
●防寒のキモは"首"から侵入する風を防ぎ保温すること。首はもちろん、手首、足首をウォーマーで包み込むと快適性がアップする。
ポイント2:逆光対策も万全にしておくべし
冬は太陽の高度(仰角)が低いというのは、誰もが実際の経験として知っていることだろう。これは、地球が太陽を1年かけて周回する公転に対して、1日で1周する自転の軸が23.4度傾いていることで生じる現象。
北半球にある日本では、太陽の南中高度がもっとも高い夏至の東京付近で、約78度まで太陽が上がるのに対して、冬至では約32度にとどまる。太陽光が低い位置から差すので、冬は逆光方向に走るとよりまぶしく感じるというわけだ。
バイザーを装備したヘルメットなら、低い光線にも柔軟に対応できる。
●写真はアライのプロシェードシステム(http://www.arai.co.jp/jpn/top.html)。逆光を受けたとき、シェードを上げた状態でも首の角度を変えるだけで対処できる利点がある。
ポイント3:マイナス3℃で凍結開始 橋の上や日陰には氷のワナが!
1m³の空気に含まれる水蒸気の最大量を示す飽和水蒸気量は気温によって異なり、温度が10℃低くなるごとに約2分の1となる。
そのため、空気が冷えると含まれている水蒸気の一部が水になる。放射冷却によって夜間に路面温度が下がると、周囲の空気が冷やされ結露し、さらに氷点下となれば凍結に至る。
夜間の橋梁区間は、日中に蓄積された地熱の影響を受けづらいことから温度が下がりやすく、この現象が発生しやすい。慎重に走ろう!
●通常、−3℃から路面が凍結し始めて、3℃から解け始めると言われている。ただし、条件によってはそれより高い気温でも凍結し始めることもある。解け始めが特に滑りやすく危険なので注意しよう
ポイント4:高い所は寒い! 標高が100m上がると気温は0.6℃下がる
一般的には、標高が100m高くなるにつれて気温は0.6℃下がるとされる。これが気温減率。
その理由を簡単に説明するなら、標高が上がると気圧が低下して空気が膨張しやすくなり、その膨張時に熱エネルギーが消費されるためである。「熱源の太陽が近くなる山の上に!」なんていう人もいるかもしれないが、地球と太陽の距離は約1億5000万㎞なので、標高が少し上がったくらいではまったく影響はない。
冬はなるべく標高が低い場所を旅しよう!
●標高が高いうえに風(風速8m程度から葉のある低い木が揺れ始める)があると体感温度も低くなる。路面だけでなく服装にも気を遣おう。
ポイント5:下半身には全筋肉の70%が! 動かすことよって効果的に発熱
ヒトは、食事を摂ると体内に吸収された栄養分が分解され、その一部が体熱として消費される。さらに体を動かすと伸縮により筋肉が発熱。これらが、運動すると体が熱くなる理由だ。
バイクに乗る際はしっかり食事をとり、出発前や休憩時に汗をかかないくらいの適度な運動をすると、自分の発熱により寒さを感じづらくなる。
ちなみにヒトの筋肉は、約70%が下半身にあるので、運動は下半身中心で行なうのがお薦め。筋肉量は30歳を超えると一気に低下するので老化予防にも効果的!?
●高速道路ではただでさえ同じ姿勢のまま走りがち。寒さが加わるとさらにガチガチになるのでこまめに筋肉を伸ばしてあげよう。
ポイント6:汗をかいた覚えがなくとも1日2.5リットルが消失!
ヒトは、生活しているだけでも1日に約2.5ℓの水分を失うとされる。このうち、食事などで補える水分量は1.3ℓほど。つまり1ℓ以上は飲料によって賄わなければならない。
冬はトイレが近くなることを嫌い、また発汗などによる乾きの自覚症状もないため、つい給水をおろそかにしがちだが、水分不足は脳梗塞や心筋梗塞といった病気にもつながるという研究結果もある。
利尿作用があるとされるカフェインを避けつつ、適度な給水を!
●紅茶、ウーロン茶、ほうじ茶などは冷たい状態であっても体を温める効果がある。コーヒーや緑茶は熱くても体を冷やしてしまうので注意。
ポイント7:気温が10℃下がると空気圧も“0.1”下がる
単純計算では、気温が10℃下がると冷間時のタイヤ空気圧は0.1㎏/㎠ほど下がる。
晩秋の暖かい日にタイヤの空気圧を調整して、そのまま一気に気温が下がる冬まで乗っていると、気づいたときには想像以上にタイヤの空気圧が減っていたなんてことも……。
さらに、夏であれば標高が高い場所に行くため、大気圧の低下にともなってエア圧が上がるシーンもあるが、冬はそのような場所に行く可能性も低い。走り出すたびにしっかり調整しておきたい。
●kg/㎠表示のエアゲージなら0.1kg/㎠。kPa表示のものなら10kPaほど変わるということ。小まめに計測するとその変化に驚くはずだ。
ポイント8:タイヤはストレートで温める
タイヤは冷たいとカタくなり、グリップ力が弱まりやすい。だから、しっかり温めてあげる必要がある。
走行によってタイヤが温まるのは、荷重で変形したタイヤが開放されて戻るときにズレが生じるヒステリシスロスがあるため。大きな荷重によりこれが発生しやすくなるので、直線区間で加減速を繰り返してあげるのが効果的だ。1速のまま低速(20〜30km/h)でブレーキングを繰り返すのも効き目大だ。
なおローリングは、タイヤがグリップしない状態で車体を寝かせるため転倒リスクが高く、まったく推奨できない。
●タイヤを温めるために無理に速度を上げる必要はなく、1速のまま20〜30㎞/h程度までの加速と減速を繰り返せば十分。慎重に行なおう。