ツーリング

静岡県で感じた、冬ツーリングの醍醐味とは?

出先でもっと寒くなったらどうしようなどと思っていては、準備にキリがない冬の日の出発は苦手かもしれない。でも走り出してしまえば寒さが心地よかったりするし、出会う"暖"が極上に感じたりする。そんな"暖(トキメキ)"を求めて、静岡県を目指すことにした。

report●廣瀬達也 photo●平島 格、編集部

 

暖かさを探し東奔西走、静岡の冬

 

酔ったのを見計らって、欲しいモノをねだると、まぁだいたいのものは買ってくれた。今は昔の、幼き頃に祖父の家に遊びにいっては何度も繰り返された光景。そんな祖父の定位置が囲炉裏の一角、梁から吊るされた自在には鍋が、そして炭の上には焼酎を割るためのやかんがいつも掛けられていた。いつしか囲炉裏とはすっかり縁遠い生活となっても、冬になるとふと思い出す話だ。

とある日に熱海へ出かけたのは「囲炉裏の店があって珍しかったけど、ときに行列ができるほどの人気店らしい」という話を聞いたからだ。探せば近所にだってあるかもしれないが、高速道路を利用すれば2時間強もあれば行ける距離。あれやこれやと仮想空間をって悩むより早そうだと簡単な身支度をして出発した。ふと、そんな昔話を思い出していたこと、そして天気予報が明日の小春日和を予想していたのも弾みとなった。気が向けば安宿にでも泊まって久しぶりに伊豆ツーリングを楽しむのもいい。そんなノリである。

お目当ての店囲炉(いろり)茶屋はJR熱海駅からも程近く、またすぐ側にはバイク用の駐輪場もありというアクセスのよさ。訪ねたのは比較的暖かな日だったけれど、太陽が沈めばさすがに寒さに襲われる。
そんな冷え切った体を温めてくれたのは、炭の熱とおいしく焼きあがった料理。楽しんでいるうちに寒さは吹き飛んでしまった。このまま近所に逗留し、祖父を真似て「お湯割りで一杯!」というのもいいなぁ……なんて思っているうちに気分は上々。「ノンビリしたら帰ろう」なんて気持ちは暖かな陽気に包まれ影を潜めてしまったかのようだ。

 

囲炉裏に燃える炭の暖かさと料理のおいしさが染み渡る

JR熱海駅近くにあり、炭の燃える囲炉裏を囲んで食事を楽しめるのが魅力。ときに行列ができることもあるが、2人前より注文できるコース料理(3000円〜、税別)なら予約も可能。もちろん近海で獲れた新鮮な海産物料理(コース料理にも並ぶ)など豊富なメニューも人気の秘密。かつての旅館を利用した建物にも趣がある。

 

写真は月コース(3000円。税別)で一人分だけを撮影。

 

■囲炉茶屋■

営業時間11時30分〜15時(L.O.14時15分)、17時〜22時(L.O.21時)。火曜定休(祝日の場合は変更あり)。静岡県熱海市田原本町2-6 ☎︎0557-81-6433
http://www.irorichaya.com

 

 

 

国道136号を経由して南伊豆へ

 

熱川温泉の、海沿いの小道を行けばやがて荒々しい風景に包まれた

遅く起きた朝だけど「せっかくだから伊豆スカイラインまで上がり沿線から富士山でも眺めてみよう」と思いつつ南下。そうしているうちに「もう少しだけ」だなんて欲張りな好奇心が騒ぎ始めてしまった。

大川温泉や北川温泉、熱川温泉などの名湯が点在する国道136号を経由して南伊豆へ。そうそう、沿線にはバナナワニ園などの温室観光施設もあって、いつも脇目にしながら通り過ぎるだけだった。小春日和とは言え、さすがに少しばかり冷えた体を温めるには丁度いい冬の休憩スポットかもしれない。
 

「アメリカを見ながら入れる」というユニークなキャッチフレーズの北川温泉の黒根岩風呂。営業時間は6時30分〜9時30分と13時〜22時。19時〜21時は女性専用となる。入浴料は600円(北川温泉宿泊客は無料)。☎︎0557-23-3997(北川温泉観光協会) ※撮影のためにタオルを使用しています

 


 

湯気の上がる熱川温泉。源泉でゆで卵も作れる

 

南洋植物が点在する伊豆半島

 

 

さらに西へ。そして“暖”の中へ

 

大きく傾いた太陽に急かされるように西伊豆を北上する。西伊豆といえば点在するのが夕日のスポット。なぜか朝日より太陽の熱を感じられる気がするのは私だけだろうか?

少しだけ縦長になった夕日は赤提灯をイメージさせた。そしてそれは久しく訪ねていない静岡名物のおでん横丁の光景と重なった。太陽が沈んで冷え込み始めた空気の中で、頭の中に浮かぶ妄想に歯止めは効かなかった。〝黒はんぺんに牛スジ、大根……〟気が付いたときには、さらに西へとバイクを走らせ始めていた。

 

静岡には、青葉横丁と青葉おでん街という"おでんの街"がふたつある。いずれも味だけなく古きよき昭和の香りを漂わせる雰囲気が魅力。今回は青葉おでん街を訪ねた。

 

「好きなもの取って食べな」、「まぁ暖まっていきなよ」。そんな声に誘われて横丁の店をハシゴする。ハシゴしなきゃ腰が落ち着いちゃって「とりあえず○○」って言ってしまいそうだったからだ。同じように見える黒い出汁に浸された、同じようなタネでありながら微妙に異なる味に驚かされた。そうしているうちに串の本数が並んでいく。並ぶごとに体の芯から温まっていく静岡の夜である。

もうひとつのおでん街、青葉おでん街からも近い場所にある青葉横丁にも店が並ぶ

 

それぞれのスタイルでおでんのタネが並ぶ。料金は串の種類や本数で分かる明朗会計だ

 

 

■青葉おでん街■

〒420-0034 静岡県静岡市葵区常磐町2-3-8

 

 

静岡と言えばさらに名物があって、そのひとつが隣町・焼津の高草山。四輪車なら離合することも難しいほど幅の狭い、そして何度か切り返さないと曲がれないほどのカーブが続く山道を上ると、西側に大きく開けた夜景が楽しめるのだ。気温は下がり、風にも冷たさを感じているからおでんの効果は薄らいでいた。それにもかかわらず夜景を眺めていると妙にホカホカと暖かな気分になっていることに気が付いた。それはそこに光る灯りの数だけ人々の暖かな営みを感じたからに違いない。

 

 

寒さに包まれる冬だからこその暖かさを求めて西へ東へと走り回れば、そこかしこで暖と出会う面白さ。それは例えば温泉場の湯気や温室、灯火、そしてほんの少し体を動かしてみることで内側からこみ上げてくる心地よい暖かさだったりする。そしてそれは暖かな季節には気付くことの、味わうことの少なかったものかもしれない。そんな季節の変化をいっぱいに含んだ風にトキメキを感じながら走る冬のツーリングもまた楽しいと痛感するのだった。

 

 

 

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