【農場ピクニックって何だ?】
「十勝らしさ」を実感できる注目の観光手段
食糧自給率40%以下の日本において、1200%という驚異的な農業王国、それが北海道・帯広市を中心とする十勝エリアです。考えてみれば、広大な平野が広がるイメージの十勝エリアですが、これは手付かずの自然で形作られているのではなく、整地された畑によるもの。ところが普通の観光では、フォトジェニックなその畑で、何がどのように作られているのかを詳しく知ることはできません。
十勝を知るとは、言い換えると生産農場を知ることでもあります。それを「農場ピクニック」と題し、農場と協力して体験型観光として運営しているのが帯広の「いただきますカンパニー」です。
「いただきますカンパニー」は、生産現場での体験を通して十勝をより深く知ってもらい、都市と農村の交流や食育の促進に貢献したいと、井田芙美子さんが7年前に立ち上げた会社です。観光農園での単なる収穫体験ではないのがポイントで、リアルな生産現場に実際に足を踏み入れ、十勝の農業を肌で感じ取る。農業と観光をリアルに結びつけるのが真の狙いなのです。「例えば小麦は、収穫体験ができても、その場で食べることはできませんが、普段は入ることのできない畑の中にある道を散策すること自体が貴重な体験になるはずです」。
農場の面積はディズニーランド以上!
農場ピクニックは、4件の協力農場を季節によって移りながら実施されています。訪ねた10月は、長芋掘りがテーマ。今回は道下広長さんが営む畑が会場です。アメリカのジョンディアというメーカーの大型トラクターが6台も稼働している道下農場の広さはなんと70ha! 東京ディズニーランドの面積が50haほどですから、それよりもはるかに大きな畑で、長芋のほか、小麦や馬鈴薯などが作られています。「以前から、農業を多くの人に知ってもらいたいという思いを持っていたのですが、井田社長と知り合ったことでそれが前進しました」と、場を提供する道下さんもこの試みを歓迎している様子。
メインテーマは長芋掘りですが、その前にピクニック。芽が出たばかりの小麦畑へ向かいます。この時期に始まるのは秋小麦といわれ、秋にまいて、雪の下で冬を越し、春に伸びて夏に収穫するサイクルで作られています。その広大な畑に足を踏み入れること自体が貴重な体験ですが、さらに今回は麦踏みもさせていただきました。これは踏んで刺激を与えると茎が強くなるためなんだとか。
小麦の種類は「ゆめちから」。北海道の小麦はこれまで中力粉と呼ばれるうどん用の小麦が中心でしたが、この「ゆめちから」が開発されたことで、パン用の強力粉が広く栽培できるようになったとのこと。道下さんはその開発にも携わり、十勝の農業の育成にも尽力してきたのです。
大地の豊かさを実感!
続いて、ちょうど収穫時期を迎えた長芋の収穫体験へ。道下農場では12万本もの長芋を作っているそうですが、そのごくごく一部をお借りします。長芋は当然地面の下にできるのですが、地上には長いツルが伸びていきます。それを葡萄棚のようにポールを立てて這わせて育てるのですが、収穫前にはそれをまずカット。ツルをトラクターで巻き取ってから、土を掘り起こして長芋を収穫するのです。
貸し出してもらったヤッケを着用し、地面から1メートルほど掘られた穴に下りていよいよ長芋掘り体験です。スコップを使って芋を傷つけないように周囲の土を掘っていきます。ところが……地面の下で根が2〜3本に分かれていたりするので、そう簡単に掘り出せない!
スコップが芋に少しでもかすると削れてしまいますし、強く当たると折れてしまうのでけっこう難儀しますが、太くて長い芋が上手に掘り出せた人からは歓喜の声が。こんなに深いところまで根が伸びていたことに感動すると同時に、大地の力を実感。ただ風景として眺めるだけでは知り得ない、十勝の畑作をより深く理解した充実感で一杯になりました。収穫体験というと子供や若者向きに思えますが、大人の方がもっと楽しめるかもしれません。
自分で掘った長芋を持ってテントに戻ったら、採れたての芋を焼いて試食します。輪切りにして焼いただけですが、適度な粘りのあるサクサクした食感がたまらない!
自分で掘った長芋はすべて持ち帰ることが可能です。重いのと長いので持ち運びが少々面倒ですが、丁寧にくるんで飛行機に持ち込んで東京へ。自宅で待つ家族が驚いて、そして喜んだのは言うまでもありません!
●いただきますカンパニー・農場ピクニック
住所:北海道帯広市西12条南29丁目2-5
TEL:0155-29-4821
ツアー実施期間:5月中旬〜10月末
料金:大人5500円、高校生以下4000円(ランチツアー)、大人3500円、高校生以下2000円(おやつツアー)
※現地集合・現地解散
【「北海道ふっこう割」とは?】
2018年9月6日に発生した平成30年北海道胆振東部地震による北海道の観光被害は356億円、宿泊予約のキャンセル数は114万9000人分に上るといいます(9月末時点)。このほとんどが、本当は通常どおり観光できるのに震災の影響が波及した、いわば風評被害。そう、北海道はほとんどのエリアでは普通に旅が楽しめます。この風評被害を払拭するための道や国の復興支援事業として、10月より「北海道ふっこう割」がスタートしています。当初は宿泊のみの割り引きでしたが、現在では交通手段も含む旅行商品にまで範囲が拡大され、最大で3万5000円オフに。例えば、4万円の旅行商品であれば50%オフの2万円で購入購入可能! 詳しくは特設サイトをご参照下さい。
北海道ふっこう割特設サイト
report●五十嵐重明 photo●岡田ナツ子/編集部
取材協力●北海道観光振興機構