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バイクに2人乗りをするシチュエーションに憧れた人も多いのではないだろうか。甘いデートの光景として、ドラマやマンガで描かれることも多いバイクの二人乗り、通称「タンデム」。
しかし、排気量や装備によってタンデムができないバイクがあること、免許取得直後からタンデムができるわけではないこと、タンデムが禁止となっている道路区間があることなど、複雑なタンデムのルールをしっかりと知っている人は案外少ないのではないだろうか。
「自分は2人乗りをしないから知らなくても……」と思っていると、いざという時困るかもしれない。
そこで本記事では、タンデムの豆知識を交えながらそのルールについて見ていこう。
そもそも「タンデム」という言葉の由来は?
バイクにおける「タンデム」とは、ライダーの後ろに「パッセンジャー」と呼ばれる同乗者が乗り込み、2人乗りをすることである。
「タンデム」という言葉は元々、馬車が日常的に使われていた時代に馬を縦並びに配した2頭立ての馬車として使われていた用語である。その後、自転車が一般的に流通すると2人乗り用自転車のことを「タンデム自転車」と呼ぶようになり、転じてライダーとパッセンジャーが縦列に並んで乗車するバイクの2人乗りを「タンデム」と呼ぶようになった。
よって、サイドカーなどのようにライダーとパッセンジャーが横並びになって1台のバイクに同乗する場合、「タンデム」とは呼ばないことが多い。

50ccを超える原付二種以上の多くのバイクには、シートの後ろに「タンデムシート」と呼ばれるパッセンジャー用の座席、「タンデムステップ」と呼ばれるパッセンジャー用の足掛け、パッセンジャーがつかまっておくためのグラブバーやベルトなど、タンデム用の装備が備えられている。パッセンジャーはこの装備を使って、ライダーが運転するバイクに同乗するのだ。
タンデムが可能なバイクの条件とは?
道路交通法と道路運送車両の保安基準(2020年4月1日現在)によると、タンデムが可能なバイクは50ccを超える原付二種以上の車両で、パッセンジャー用の装備「タンデムシート」「タンデムステップ」「パッセンジャーがつかまっておくことのできるパーツ」の3点が備えられた乗車定員2名以上のものに限定される。
なお、タンデムシートには、ライダー用のシートとつながっているように見える(実際につながっているものもある)一体型と、ライダー用のシートと完全に分かれている独立型がある。「パッセンジャーがつかまっておくことのできるパーツ」には主に「タンデムベルト」と「グラブバー」の2種類がある。



小排気量のスクーターから大型スポーツバイクまで、様々なモデルを幅広くラインアップするホンダに、バイクの乗車定員が2名となる詳しい条件を聞いた。広報担当者によると、バイクの乗車定員を2名とするために必要な「パッセンジャー用の各種装備」とは、パッセンジャー用のシート、ステップ、パッセンジャーが掴むためのベルトもしくはグラブバーの3点のことを指すが、この3点にはそれぞれ明確な基準はなく、何をもってして「備えている」とするかは難しいのだそうだ。
わかりやすい例として、ホンダの人気原付二種車両であるCT125・ハンターカブとモンキー125の対比を紹介してもらったので見てみよう。


CT125・ハンターカブには「タンデムステップ」と「グラブバー」が備えられているのを確認できる。一方でメインシートの後ろはリヤキャリアとなっており、一見すると「パッセンジャー用のシート」を備えていないように思える。


しかし「パッセンジャー用のシート」には「クッションが敷かれていなければいけない」というような基準はない。そこで、パッセンジャーが安全に腰掛けられるスペースがあれば良いというという考え方から、リヤキャリアを「パッセンジャー用のシート」と解釈し、CT125・ハンターカブの乗車定員はノーマル状態でも2名となっている。
次にモンキー125を見てみよう。
シートの長さから見ると、とても小柄なライダーなら2人が縦に並んで腰掛けられそうにも思えるが「タンデムステップ」と「パッセンジャーがつかむためのベルトもしくはグラブバー」は装備されていない。
そのため、モンキー125のスタンダード状態では乗車定員が1名となっている。


よって、同メーカー、同排気量の車両でありながら、CT125・ハンターカブはスタンダード状態のままタンデム走行をしても法律、保安基準上問題なく(キャリヤに直接座るとお尻が痛くなること必至なので、どうしてもタンデムをする場合にはクッションを敷くなどすることをおすすめする)、一方でモンキー125でタンデム走行をしたい場合にはアフターパーツなどを利用してタンデムステップを増設し、乗車定員の変更を届け出なければならないという違いが生まれている。
なお、届け出ている乗車定員を超える人数で乗車した場合、道路交通法57条に定められた「定員外乗車違反」となり、二輪車6000円(原付は5000円)の違反金と1点の違反点数が課されるので注意が必要だ。
このように、一見しただけではなかなか「タンデムが可能なバイク」を見分けることができない。そんなときには各メーカーが公式ホームページやカタログなどで公開している車両諸元の「乗車定員」を見てみるのが確実だ。乗車定員に2名と書いてあれば、法律及び保安基準上、そのままの状態でタンデム走行をすることができる車両と言える。
では、絶版車などメーカー公式ホームページやカタログの確認が難しい車両については何を参照すれば乗車定員が分かるのだろうか。
251cc以上の「小型二輪」の場合、車検証を参照すれば乗車定員を知ることができる。126cc以上250cc以下の「軽二輪」の場合にはナンバーを取得する際に発行される「軽自動車届出済証返納済確認書」を見ると、乗車定員が記入されている。
複雑なのは、車検書も軽自動車届出済証返納確認書もない51cc以上125ccまでの「原付二種」だ。国土交通省 安全・環境基準課の担当者に問い合わせたところ、このクラスに該当する車両に関しては、残念ながらユーザーが自分のバイクの乗車定員を知ることのできる文書はないということが分かった。
ただし、前述したタンデムが可能なバイクはパッセンジャー用の装備「タンデムシート」「タンデムステップ」「パッセンジャーがつかまっておくことのできるパーツ」の3点が備えられたもの」という条件は適応されるため、客観的に見てこの3点が揃って装備されていないと判断される車両で2人乗りを行うと、違反となるそうだ。
パッセンジャー側に制限はあるの?
運転をするわけではないので、パッセンジャーは二輪免許を取得していなくてもバイクに同乗できる。体重や年齢に関しても、道路交通法で定められた制限はない。
しかし、体重移動が操作の要となるバイクの運転では、パッセンジャーの体重や動きも車両の挙動に関わってくるため、安全なタンデム走行をするためにはパッセンジャー側にも多少のコツが必要になる。
免許制度上のタンデムのルールとは?
道路交通法では、一般道でタンデム走行ができるライダーの条件として、大型自動二輪免許および普通自動二輪免許(400cc以下)、小型限定免許(125cc以下)を取得後、通算で1年以上が経過している必要があると定めている。
さらに高速道路や自動車専用道路では、運転者の年齢が20歳以上で、かつ二輪免許取得後3年以上が経過していることが必要だ。
高速道路を走行できない125cc未満の小型限定免許から、125cc〜400ccを運転できる普通二輪免許に限定解除、もしくは排気量制限のない大型二輪免許を取得した場合、小型限定免許を持っていた期間は、高速道路タンデム解禁のための免許歴に含まれる。
自動車専用道路上には一部タンデム禁止の区間がある
前項で見てきたとおり、免許取得から3年が経過すれば一般道でも高速道路でもタンデム走行をすることが可能になるが、首都高速や、大型自動二輪車及び普通自動二輪車2人乗り通行禁止標識が出ている区間では、運転者の免許歴に関わらずタンデム走行禁止なので注意が必要だ。
首都高速道路(高速道路という名前ではあるが正確には自動車専用道路である)でタンデム走行のできない「自動二輪車二人乗り規制区間」(2021年3月現在)は次のとおりだ。

タンデムに関連する交通ルールに違反した時のペナルティー
大型自動二輪免許および普通自動二輪免許を取得していても、先ほど説明した免許取得後の経験年数の条件を満たしていない状態でタンデムをすると、ペナルティーが科される。
この場合の罰則は「大型自動二輪車等乗車方法違反」となる。
違反点数は2点で、反則金は1万2000円となるので注意が必要だ。
また、タンデム走行が可能な免許を保持していて、経験年数を満たしていた場合でも、「タンデムシート」や「タンデムステップ」などのタンデム用の装備のないバイクや原付でタンデム走行した場合も「定員外乗車違反」で罰せられる。
こちらの違反点数は1点で、反則金は6000円(原付の場合は5000円)となる。
以上、タンデムの豆知識やルールについて紹介してきた。
風が気持ちいい季節になったら、ルールに違反しないように十分注意しつつ、親しい相手をタンデムシートに乗せて一緒に出かけるのも楽しいのではないだろうか。
レポート●葉月智世 写真●モーサイ編集部/ホンダ/カワサキ/KTM/首都高速株式会社 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実