ツーリング

山岳路と新しい感動に出会う旅〜信州ツーリングレポ 飯田・高遠・佐久 Part3〜

川魚の味に信州の歴史と人の営みを知る

千曲川沿いにある長野県水産試験場佐久支場。開所時間中の見学は自由(事務所に断ってから)。鯉やマス類などがいる

佐久での目当ては川魚だ。もともと〝佐久の鯉〟は江戸時代から知られており、海産魚類が手に入らない山間部の貴重な源だった。同時に山からの清な水の育成による泥臭さのない風味と締まった身は、食通の間でも評価が高いものであった。今はどうなのか、それを食べて確かめてみようと思ったのだ。

佐久鯉のあらい。川魚の泥臭さは皆無でさわやか、身は硬めでだがとても食べやすい。鯉こくも同様に、滋味深くあっさり

少し調べてみると、長野県には他にも独特の川魚がいた。東欧原産のコレゴヌスの仲間で、シナノユキマスというサケ科の魚だ(ロシアではペリヤジと呼ばれている)。ここ10年くらい、各地の水産試験場で品種改良を行った〝ご当地サーモン〟とは少し違う(こちらはドナルドソン種という虹ベース。長野では『信州サーモン』)。

事務所入口の水槽で泳ぐシナノユキマス。美しい銀色の魚体はサケ科の魚の中では鱗が大きく、体高も低めでウグイのよう

このシナノユキマスの話も少々切ない。そもそもは1930年に日本に初お目見えしたコレゴヌスは、70年代後半になって人工飼育が始まっている。理由は、佐久の鯉が他の地域で養殖される鯉に対し、価格面での競争力を急激に失ったからだ。水が冷たいため出荷までに時間のかかる佐久の鯉に代わる、〝短期間で育ち食味がよく、新しい魚〟が必要だった。そこで、ロシアなど寒冷地で養殖された実績のあるペリヤジに白羽の矢を立てたのである。

人工繁殖の試行は、長野県水産試験場の佐久支所で始まった。しかし、採卵、人工授精、化、稚魚の育成、成魚の健康維持と、どの段階でも困難が待ち受けており、世界初の事業規模での飼育ノウハウが確立するために数年を要したのである。

それでも食味のよさと物珍しさで稚魚や成魚の引き合いがあり、順調に普及するかに思われたのだが、平成2年以降の出荷量は横ばいだ。調べてみると、現在でも長野県のホテルや旅館などでは〝名物料理〟として食べることができるが、一般の飲食店ではほとんど見ることができないのだ。

今回は佐久市内の飲食店、味平(☎︎0267-62-1125)でシナノユキマスを食べることができたが、なぜ扱う店が極端に少ないのかと聞くと「締めたらすぐに食べたほうが美味しい。時間が経つと味が落ちやすいので、うちのように生けがないと扱えない」という。

それに、飼育に手間がかかるせいか売価もイワナと同等で、安いものではないのだ。その味は悪くない。それどころか刺身などは、サーモンより生臭さがなく、脂の乗りかたもちょうどいいくらい。川魚というよりも海魚のイサキのような食味で、かなり美味しい。それが手軽に食べられないのは残念だが、佐久地方を訪れないと食べられないことは、我々のような来訪者にとっての価値となる。

味平のシナノユキマスコース(3500円)は刺身、フライ、塩焼きに、あら汁付き。熱を加えると、よりあっさりした味に

美麻の蕎麦や信州新町のジンギスカンのように、川魚にもまた山間部に暮らすための現実をうかがい知ることができる。

自然は美しく雄大であるほど、厳しい顔を持っている。信州の素晴らしい景色と道を堪能する時、少しでかまわないので、彼の地に存在する切実な想いを知ってもらいたいと思う。光と影を見てこそ、初めて物の本質は認識でき、そこでまたひとつ人生は奥深いものとなる。今度の旅はきっと、さらに充実したものになるはずだ。

(完)

eport●関谷守正 photo●乗重正巳

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モーサイ編集部

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