入笠山の絶景と茂来山の林道天国
高遠からさらに152号を茅野方面に進み、杖突峠手前のゴルフ場を右折すると入笠山へのアクセスロードだ。諏訪盆地の南側、中央構造線と糸魚川静岡構造線に挟まれるエリアにあるこの山は標高が1995mあり、ダイナミックな景色や多様な植物の植生などを見ることができるので、ぜひともお薦めしたい立ち寄りポイントである。
しかも、山の西側以外の3方向からアクセスできるため、分岐点も多く、それらの道を「どこに行くのだろうか?」と、冒険心を持ってトレースするのも面白い。どの道も森の中をタイトに縫っていくので、〝自分がどこにいるのか分からなくなる〟迷走感も楽しめる。

入笠山の山頂を取り巻くように伸びる道は、いくつもの分岐点があり、未舗装林道も存在する。大抵の舗装路は麓の人里につながっているが、どこに行くのかわからない期待と不安が旅を面白くする
頂上に近い入笠牧場を越えてからの眺望は本当に素晴らしい。ここは山を背にして北東に八ヶ岳を見るので、太陽が昇ってしばらくした午前中の光が圧倒的にいい。アップダウンのある牧草地の中を抜ける道は、文字通り牧歌的であり、心が和む(もしも牛が放牧されていたら、静かに走ってほしい)。
入笠山は時間に余裕を持ってじっくり走る価値のある、ワンダーランドだ(ほとんどの道は舗装林道だが、タイトな山道では距離と時間はいつもの3倍くらい必要)。
入笠山からは東側の富士見町に抜け、八ヶ岳山麓の北側を走る国道299号、そして県道124号で北相木村のぶどう岳方面に向かう。ここの付近にある林道を走るためだ。
長野県は未舗装林道が多い、全国でも有数の未舗装林道天国だ。けれども、本来は山林作業用の道だから、少なくない数の林道には通行止めのゲートが設けられているし、そうでなくてもピストン林道(行き止まり)が多い。
しかし、標高1717mの茂来山を巻くように複雑に伸びる茂来山林道は、35㎞ほどある中の一部は生活道路に使われている(全体の4割ほどは舗装区間)ので、その点では気兼ねなく走ることができる〝完抜け〟林道だ。逆に神経を使うのは、典型的な〝人家なし、自販機なし、電波なし〟の未舗装区間が結構続くことと、〝クマ出没注意〟という看板の存在だろう。
茂来山林道の路面は変化に富んでいる。アスファルト、チップ混じりの土、引き締まった小砂利、それよりも大きい砕石など、区間や地形によってかなり変わる。基本的にはフラットダートで走りやすいのだが、雨の流れた跡の凹凸や、サイズの大きな砕石の区間などは、ゆっくり走ったほうがいい。

茂来山林道の大半は写真のような走りやすい森の道。トレッキングという呼びかたがぴったりくる。このあたりなら、ロードモデルでもこなせるだろう

高度を上げていくと、少々荒れたダートが出現。250㏄のオフロードバイクなら手こずることはないが、石や凹凸が大きく、大型アドベンチャーモデルだと気を使う。でも景色は最高

途中にあった名もない社。野積みの石垣や階段を見ると、かなり古いものと思われる
林道マニアが走ったタイヤの跡はあったものの、ほとんど他の車やバイクとは出会わず、森と道と自分以外何もない。そこで感じる意識の集中、精神の純化は、日常の都市生活に慣れた人間にとっては、一種のメディテーションにもなるはずだ。おまけに、「クマが出たら……」という、ちょっとした不安や恐怖も味わえるのである(笑)。
茂来山の北側に抜けると再び299号に出会う。そこは佐久市だ。
(続く)