スーパーカブといえばバイク乗りならば誰もが知っている、超ロングセラーの人気バイク。なかでもスーパーカブシリーズの初代であるC100は、登場から60年経つ2019年現在においても熱狂的なファンを多く持つ、ホンダ二輪車の金字塔とも言える存在だ。
そんなスーパーカブC100を超至近距離で見ることができる展示会が、2019年6月8日(日)まで開催中だという。
いったいどんなイベントなのか? さっそく現場に赴いてみたのである。
過去と現代を繋ぐ「デザイン」
東京・丸の内。ビジネスマンだけではなく、観光客や買い物客など多くの人々でにぎわう街の一角にある展示スペースに、物静かに佇んでいるC100スーパーカブがあった。
東京駅すぐ近くにある現代的な場所に、1959年製の古い二輪車が置かれている……。本来ならば違和感を覚えてもおかしくはない状況だ。しかしどうしたことか。まるでそこにあることが当たり前であるかのように、スーパーカブは街の風景に溶け込んでいた。
カブ以外にも、ホンダ・ジャイロXやヤマハ・SR400といった二輪車もあり、ホンダの発電機であるGX200も置かれている。さらに周囲を見渡せば、花瓶やカメラ、椅子に脚立……。様々な時代、様々な用途のものが、その展示スペースにあったのである。
並べられた品々は、どれもカブ同様周囲の風景に溶け込んでいて、物静かなデザインながら力強い存在感を放っているように思えた。
物言わぬ「もの」たちの、どの時代であっても自然に溶け込むデザインと、その存在感。それを受けてか、通りすがりの人が時おり足を止め、しばし眺めては去っていく。
気がつけば筆者も、カブをはじめとする品々を不思議な心持ちで眺めていた……。
引き込まれるような不思議な感覚すら覚えてしまう展示スペース。
じつはここ、日本デザイン振興会が現在開催している「The Long Life Design Selection(ザ・ロングライフデザインセレクション)」の展示会場なのである。
この催しは定期的に開催されていて、今回で通算58回目を数える。会期は2019年5月15日(水)から6月8日(日)の約3週間で、誰でも無料で見学が可能となっているという。
The Long Life Design Slectionとはなにか?
身の回りにある「もの」の中から「良いデザイン」を持っている商品を選ぶ賞に、日本デザイン振興会が年に1回開催している「グッドデザイン賞」がある。
グッドデザイン賞は毎年約3000点の応募の中から選出され、約1000点が受賞しているというから驚いてしまう。
ちなみに人気グループAKB48は、そのエンターテインメントプロジェクトデザインとしては群を抜いた先見性と完成度から、東京都在住の人はよく目にするであろう黄色い本「東京防災」も防災情報のイメージをデザインの力で大きく変えたという点から、この賞を受賞しているそうだ。
日本デザイン振興会が考えるデザインとは、「『常に人を中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する』この一連のプロセス」。
つまりグッドデザイン賞は「人が生活をする中で、生活を豊かにしたり何かを成すために使う、優れたデザインの道具や手段」に贈られる賞といえばわかりやすいだろうか。
そして、優れたデザインを持つものの中で、更に長年に渡って人々に愛され、いまもなお必要とされ続けている「もの」や「こと」のデザインに贈られるのが、今回展示されている品々が受賞している「ロングライフデザイン賞」なのである。
今もなお受け継がれているそのデザイン
前述のように、この会場に展示されているスーパーカブ、ジャイロX、汎用エンジンGXシリーズGX200、ヤマハSR400も同賞を受賞している。
ご存知のようにスーパーカブは、
・エンジンは、高出力、静粛性と燃費に優れた4ストローク
・車体は女性も乗り降りしやすいカタチとサイズ
・ギアの操作方法はクラッチレバーを必要としないシステムの構築
・先進性のあるデザインで、かつ親しみやすく、飽きがこない
の4つの特徴を持って世に生み出された。当時は2ストエンジンが主流で、かつ多くのメーカーが乱立していた。それだけに、開発陣は様々な困難に直面したことは容易に想像できる。
その困難を乗り越え、ホンダは全世界に通用する「らくらく気持よく走れる二輪車」という、オートバイでもモペッドでもないまったく新しいカテゴリーの二輪車を具現化。市場の勢力図をガラリと書き換えてしまったのである。
時代の2歩も3歩も先を行く初代スーパーカブのデザイン理念は、60年の時を経た今もなお受け継がれ人気を博し続けている。「長年に渡って人々に愛され、いまもなお必要とされ続けている」ことがロングライフデザイン賞に選出される条件ならば、カブほど適した二輪車はあるまい。
余談だが編集部が取材で訪れていた際、展示スペースでスーパーカブを見ていた女性が「「これ可愛いね!」」と話していたのを偶然耳にした。どの時代でも、多くの人が「イイね」と感じられるデザインであることを、再認識できる出来事であったと言えよう。
同じくホンダのジャイロX、汎用エンジンGXシリーズも、デザインだけでなく人々の生活のなかへしっかりと溶け込んでいるといえる。
ジャイロXは二輪車の機動性と三輪構造ゆえの駐車性を生かしながら、二輪車にはない新しい機能とファッション性を追求。近年の都市交通環境の変化や、宅配・巡回サービス業などの新しいビジネス形態の普及に対応させるべく開発された。
正面に付けられた大きなスクリーンと三輪ゆえの安定感を生かし、どんな天候時でも安全に人と物を運ぶ道具としての完成度の高さ。今でも多くの人に使われており、ピザの配達ではお馴染みだ。
そしてGXシリーズは、1983年に誕生した4ストローク汎用エンジンだ。始まりは、農村や漁村で過酷な労働を強いられた人たちを技術で幸せにしたいという創業者の夢からだったという。
低燃費で人と環境にも優しいという点にこだわり続け、昨今の環境問題やエコ対策などにも対応し日々進化している。
耕うん機やポンプ・発電機を含む数多くの機械にこのエンジンは使われているというから、我々は知らず知らずのうちに恩恵を享受しているのかもしれない。
日本ではもう使われていないような古いモデルであってもその耐久性を生かし、東南アジアなどの地域では未だ現役バリバリというから驚くばかり。まさにロングライフデザイン賞に相応しいエンジンではないだろうか。
スーパーカブやジャイロXと同様に、ヤマハSR400もまた、ロングライフデザイン賞を受賞した二輪車だ。
1978年に発売されて以来受け継がれている、排ガス規制やFI化を経てもなお、ひと目で“SR”であることがわかるデザイン。
それは開発陣の強い思い以外にも、ユーザーの「このデザインこそSRだ!」という熱い要望があったからに他ならない。
スーパーカブ然り、SR400然り……。長きにわたり愛される、人のためを考えて生み出されたデザインとは、時代の移り変わりに飲まれることのない恒常的なものであり、時代を超えても多くの人たちに愛されるデザインであるのだろう。
一歩引いた目線で考えさせてくれる場
しかし普段私たちは、そのデザインの必然性について考えたり、気づくことはほとんどない。
便利な道具というのは、生活の中でなくてはならないもの。当然そう言ったものは人との距離が非常に近いので、そこにあって当然とつい思ってしまうからだ。
それゆえ、たとえ優れたデザインを持つものであったとしても、改めて見つめ直すことをしないのである。
この展示会では、私たちの生活へ当たり前のように溶け込み過ぎているものをとおして、それらに秘められている、優れたデザインとはなにかを考えさせてくれる。
この会場では、普段日常に溶け込んでいるものの数々を白を基調とした空間に置くことにより、あえてそれらの存在感を強調しているようにも思える。
展示されているものの中には、「あ〜、これは確かにみんな使ってるな」というものから、自分たちが少年時代に使っていて今も変わらず使われているものもあった。
会場スタッフによれば、ロングライフデザイン賞を受賞するのは有形の「もの」だけでないのだという。
なんと、観光客で賑わう銀座中央通り歩行者天国もまた、ロングライフデザイン賞を2017年に受賞しているのだとか。
まさかこんな身近なところにある街路空間が受賞しているとは……! これには筆者も非常に驚いた。
全てに共通しているのが、シンプルなのに「それらしさ」があると言うこと。
過去、現在。そして未来までもを見通したデザインを持つものの数々。特異な場で、実際に目で見ないと気づくことができないことが確かにそこにはあった。
通常2週間に1回ほどで展示内容が変わるとのことなので、初代スーパーカブを見ることができるのは今だけ。
今回の展示期間は2019年6月8日(日)までとなっているので、まだまだチャンスがある。
「デザインとは何か、どう役に立っているのか」ということを考えさせてくれるこの展示会に、是非足を運んでみて欲しい。
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