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ワイセコ製ピストンと組み合わせ、ホークII用セットを第一弾としてリリース
日本ピストンリング(NPR)といえば、自動車用品メーカーの老舗。その名が示すとおり、ピストンリングの生産を主としている。多業種に手を広げた現在でも売上の半分以上はリングによるものだ(バルブシートでも有名)。
創業が1934年、これは日本の自動車産業の黎明期であり、トヨタがまだ豊田自動織機製作所だった頃だ。その時代からリングを造り続けているのだからスゴイ! 広く各車両メーカーに純正品としての納入されているから、アナタのバイクの心臓にギュッとはめられているのも、NPR製である可能性が高い。
さて、そんなNPRが新しい事業として、二輪旧車オーナーのため「ピストンセットの受注販売」を行うこととした。「エンジンのオーバーホールをしたいのだが、メジャーな車種でないとピストンリングを入手しにくい」との悩みの声が聞こえていたためという。
まずはホンダ ホークII CB400T用からピストンセットは販売される。
1977年初登場のホンダ ホークII CB400T。近年、注目度が高まっている旧車の1台だ。OHC3バルブの空冷4ストローク並列2気筒エンジンは、総排気量395ccながらボアは70.5mmと大きなものだった。そして話題だったのは超ショートストロークの40ps/9500rpmという設定。ショートストロークであればそれだけ最大ピストンスピードを遅くしやすくなり(コンロッド長の影響もあるが)、エンジンへの負担を小さくハイパワー化できた。またその技術を支えたのも高性能のピストンリングである。
上記のように、NPRは車両メーカー向けの純正部品サプライヤーであり、これまで一般ユーザーの少量オーダーに対応していなかったのだが……そんな大手企業が旧車オーナーを直接の顧客にする、これは大事件かもしれない。
なお、ピストンはWISECO(ワイセコ)を運営するRace Winning Brands社から鍛造品の供給を受けてのセットとする。ワイセコはこれまた老舗のピストンメーカーだ。旧車では特に、レース、カスタム、レストアと、幅広い需要のボアサイズ設定を用意しておかなければならないのが大変だが、ワイセコはそうした品揃えも豊富。今回のNPRの旧車向け企画でタッグを組むのに適しているのだ。
旧車に現役で乗っていた世代であれば当時、ワイセコのオーバーサイズ鍛造ピストンを組み込んでのチューンアップを夢見たひともいるだろう、懐かしい気持ちになってしまうに違いない。
ということで、このホークII CB400Tへのピストンセットは、「アタラシイものや体験の応援購入サービス(クラウドファンディング)Makuake」にて7月25日から募集される。最低数12シリンダーでの受注販売となる。URLは募集開始時に知らせられるので要チェックだ!
+0.5mmオーバーサイズ・ホンダホークIIピストンセット(Makuake)
70.5mmスタンダードサイズ・ホンダホークIIピストンセット(Makuake)
ピストンリングは高性能エンジンの要となるパーツ
新車紹介の記事でエンジンについての技術搭載が述べられるとき、ピストンの素材や加工、ヘッド周りでバルブをどう動かすかなどは華々しく語られるが、ピストンリングに関しては……ちょっと地味。そして語られなければ知りようもない。だが、その働きはとても重要なのでおさらいしておこう。
ピストンリングはピストンの外周にはめられ、シリンダー内面に当たるようにセットされていることはご存じかと思う。通常は、燃焼室側から1stリング、2ndリング、オイルリングと3本の構成だ。
それぞれピストンの溝にピッタリはまっているように見えて、じつは油膜を挟んで浮いている。これが周方向、つまり円が膨らむ方向に対しバネの役割をして、シリンダー内壁をオイル越しに押すのだ。これにより、ピストン上部で発生した燃焼圧力を持ったガスを下部に逃がさないようにしている。
1st、2ndに関しては、リングのバネ(張力)が強すぎるとフリクションが大きくなってスムーズにピストンが動かず燃費が悪くなるし、逆に弱すぎるとシールしていたはずの燃焼ガスが吹き抜けてエネルギーロスが発生する。オイルリングに関しては、張力が弱すぎると燃焼室内へのエンジンオイルの浸入を招き、オイル上がりのトラブルを発生させてしまう。リングの張力には絶妙な調整が必用なのだ。
ちなみにリングをはめたピストンをシリンダーの穴に組むときには、ピストンリングコンプレッサーという一時的にリングの円を小さくしておく工具を使う。指で押さえてなんてできない。それだけ張りは強いのだ。
また、リングにはピストンの熱を逃がしたり、摩耗や焼き付きを抑えるといった機能もある。シリンダー内壁の油膜の厚さをコントロールしているのもリングだ。高性能エンジンに対応するためには、リングにも高耐久性、薄幅化、低フリクションか、精密加工、表面処理などが必用となってくる。昨今では、CO2削減、NOxの低減など、環境問題への対応も迫られる中、高燃費に向けての最適な設計がなされている。
といった具合で、ピストンリングは求められる設計製造技術力がとても高く、限られた数社のみがリングを製造するに至っている。そしてそのうちの一社、日本ピストンリングが直接ピストンセットを販売するなんて、とても意義深いことと心に刻んでほしい。
レポート●モーサイ編集部 写真●日本ピストンリング/モーサイ編集部