目次
かつての「中免」、現在の普通自動二輪免許で乗れる上限排気量「400cc」。
4輪の軽自動車同様、日本独特の排気量区分だが、海外メーカーの中にも偶然ここに合致するモデルがある。オーストリアのメーカー・KTMのRC390もその1台で、400ccクラスで選べる数少ない貴重なスーパースポーツだ。
そのRC390が2022年モデルでフルモデルチェンジが行われる。
イギリス人ジャーナリストで、レーシングライダーでもあるアダム・チャイルド氏が新型RC390の国際試乗会に参加。ワインディングとサーキットを走らせた結論は……「買いたい!実際に発売となる2022年が待ち遠しい!!」とのこと。以下、その試乗レポートをお伝えする。
KTM 新型RC390の変更点「車体とハンドリングが大幅に進化」
多くの小排気量エントリースーパースポーツは、一見するとそれらしく見える。だが、セクシーなカウルの中を覗くと、たいていはシャシー、サスペンション、ブレーキなどが低予算で作られており、ベーシックなコミューターがMotoGPマシンのふりをして仮面舞踏会に興じているだけ──といったら口が悪すぎるだろうか。
そういったモデルが多いなかで、2014年に発売されたKTMのRC390は例外だった。「ready to race」を社是とするKTMだけに、本格的なスポーツ性能を追求した孤高の存在だったのだ。そのRC390が、2022年モデルでさらにレベルアップを果たしたというではないか。
2022年モデル 新型 KTM RC390


従来型 KTM RC390(2014年に登場)

もちろん「スーパースポーツのエントリーモデル」というポジションを捨てたわけではないが、新型RC390はKTMのMotoGPマシン「RC16」の技術が継承された空力特性に優れたボディが与えられ、同クラスでは初となるバンク角連動のABSとトラクションコントロール、アジャスタブルなWP製のAPEXサスペンション、コンチネンタル製のハイグリップタイヤなどを採用。
相変わらず、他のモデルとは一線を画している。
ヨーロッパのA2ライセンス(*)では上限出力が47馬力となっているため、373cc単気筒エンジンに関しては性能を向上させる必要があまりなかった。
そのかわり、オーストリアのKTMファクトリーは、ハンドリング、テクノロジー、エアロダイナミクスに集中することができ、エントリー層だけでなく、ライトウェイトスポーツバイクを愛するベテランライダーにもアピールできるバイクに仕上げてきた。
新型RC390のボディワークには本当に驚かされる。エンジンにはほとんど手が加えられていないにもかかわらず、優れた空力特性のおかげで最高速度は11km/h向上したという。それでいて、ツーリングに行ってワインディングロードを駆け抜けるのが好きなライダーのために、燃料タンク容量は10Lから13.7Lに拡大されてもいるのだ。
*編集部注:免許取得は18歳以上で(国によって一部異なる)、排気量制限はないが、最高出力が35kWを超えない二輪車までが運転可能。出力に制限なく運転できるA免許を取得するには、A2免許取得後2年経過するか、一定の年齢を超える必要がある。
RC390をモデルチェンジするにあたり、KTMが費やしたエネルギーの大半はハンドリングに注がれている。新しくなったトレリスフレームは従来型よりも横方向へのしなりを持たせ、ボルトオンの別体式サブフレームを採用することで、従来型比1.5kgの軽量化が行われている。


前後サスペンションはKTMおなじみのWP製。インナーチューブ径43mmのAPEXフォークはコンプレッションとリバウンドの調整が可能で、リヤショックはプリロードとリバウンドの調整が可能だ。さらに軽量なホイールを採用することでバネ下重量を大幅に削減し、従来型比で30%、3.4kgの軽量化となっている。
バッテリーと電子機器はライダーと燃料タンクの間に移動して、重量バランスやパッケージングも見直された。シート形状も変更され、前席、後席とも快適性の向上も図られている。
それら車体面とは対照的に、373ccのDOHC4バルブ単気筒エンジン自体に大きな変更はない。ただし、最新の環境規制「ユーロ5」に適合させる必要があり、エキゾーストシステムを一新したほか、燃料供給の見直しや、エアクリーナーボックス容量を40%拡大するなどの改良が行われ、最大トルクは2Nm増えて37Nm(3.8kgm)/7000rpmとなっている。
KTM 新型RC390のワインディング・インプレッション

高回転までキッチリ回る373ccDOHC4バルブ単気筒エンジン
まずは北イタリアの公道走行で感じられたエンジンの印象から述べていこう。
単気筒エンジンではあるが、6000rpm以下でもスムーズ。
2000rpm以下ともなるとわずかに渋さがあるが、電子制御スロットルの採用によって、スロットルレスポンスの良さは旧世紀の単気筒エンジンとは比べるべくもない。
改良された燃料供給は、攻撃的ではなく、クリーンと言ったほうがいいフィーリングだ。ビギナーライダーにも扱いやすいだろう。しかし、新型RC390の高いスポーツ性を最大限に引き出してエキサイティングな体験をしたいのであれば、6000rpm……いや、7000rpm以上回すべきだ。
新型RC390は、トップ6速を含め各ギヤでレッドゾーンまで快調に加速していく。時速75〜80マイル(120〜128km/h)では、最大トルクを発揮する7000rpm付近に位置し、そこからまだ十分な回転数が残されている。
従来型からエンジン自体にはほとんど手が加えられていないにもかかわらず、空力特性が向上した新しいカウルや軽量化のおかげで最高速もアップしており、テストコースで最高速アタックを試みたところ時速111マイル(約178km/h)をマークした(状況次第ではもう少し延びる余地も感じられた)。

ヤマハのRD350LC(編集部註・RZ350の海外での名称)やFZR400RR、その他、素晴らしいライトウェイトスポーツモデルと同様に、RC390はブチ回してナンボである。
フルカラーデジタルメーターのレブカウンターが点滅し始めたら、ギヤ操作に集中し(オプションのクイックシフターがあるとなお良い)、腕や頭を下げて前傾しまくり、スピードメーターの「最後の時速1マイル」を何としても引き出したくなる。
確かに、大きなパワーはない。
が、RC390は43.5馬力のパワーを最大限走りに活用できる。スロットルを開けるたびに制限速度の2倍のスピードが出てしまい神経をすり減らすような大排気量スーパースポーツより、余計なことを考えず、純粋に走りを楽しめる。
コーナーの立ち上がりでは、大排気量スーパースポーツよりもずっと早いタイミングで、パワーをかけていける。
ライトウェイトスポーツモデルが好きな人たちがよく言うことだが、控えめな出力であれば、200馬力のマシンのように探りながらスロットルを開けていく必要はない。
素早いタイミングでスロットルを開けてやれば、この排気量のクラスでは優れた性能が与えられたタイヤ、サスペンション、シャシーがしっかりと路面にパワーを伝え、そのフィードバックもわかりやすい。
少々調子に乗りすぎた場合は、バンク角連動のトラクションコントロールがサポートもしてくれる。

軽快な走りを生み出すWP製サスペンション
意外かもしれないが、乗り心地は上質で優しい印象だ。
初期設定ではリヤは少々ソフトすぎるかもしれない。ペースを上げていくと、自分の体格ではリヤのサポートが少し物足りないと感じ、道端で1分ほどかけてプリロードとリバウンドを調整すると、すぐに望むべく状態を手に入れることができた。
こうした調整がしっかり走りに生かせること、また、そもそもサスペンション自体の質が高いことは、他メーカーのエントリーモデルとは決定的に異なる点だ。サスペンションを調整してやると、このバイクの軽さと俊敏性はより生き生きとしてきた。
イタリア・モデナの街中ですら、最小限の入力で車の間やロータリーを飛び越え、踊るような走りを見せてくれたほどだ。



KTM 新型RC390のサーキット・インプレッション
他メーカーのエントリーモデルの競合製品とは異なり、RC390はスタンダードのままでもサーキットでハードに走ることができる。
その性能は高く、公道走行のときと同じく、高品質な車体構成がスポーティな走りを支えてくれるのだ。私はとにかくラップタイムを削るべくプッシュした走りを続けたのだが、サスペンションは一切とっちらかるようなことはなかった(やはり自分の体格に合わせた調整は行った)。
バンク角も十分にあり、改良されたというブレーキもフェードしなかった。
一方、純正装着のコンチネンタル製ラジアルタイヤ・コンチロードは、30度という暑さの中での20分間のロングセッション終盤になってグリップがわずかに落ち始めたが、これは公道走行可能なこの手のタイヤではまあ普通のことだ。

さすがに6回の高速走行セッションでは「このバイクはエントリーモデルという役割を持っており、それに合わせた予算で作られたバイクであり、低中速が主戦場となるべく設計されているのだ……」と自分に言い聞かせなければならなかったが、タイトなコースではRC390の強みが発揮され、馬力不足とは思わなかった。
クイックシフターでギヤを踊らせつつ味わえる、コーナリングの速さと正確さがRC390の真骨頂だ。
フロントブレーキにはラジアルマウントのバイブレ製4ピストンキャリパーを採用し、フロントに320mmのシングルディスク、リヤに230mmディスクと制動力も従来型より高められている。
このクラスでは初となるコーナリングABSが標準装備されているのも大きなトピックだ。ABSの制御では、「スーパーモトモード」というモードも選択できる。フロントのABSは作動するが、リヤブレーキのロック許容するというもので、これにより、リヤホイールが地面から離れていてもABSが介入しないため、ギリギリまでブレーキングを遅らせることができるのだ!
この新しいブレーキは、公道では指一本で操作できるような気持ちのいいタッチが印象的だったが、サーキットで「スーパーモトモード」にすると、レバーにかける指の数は増えるが、タッチだけでなくストッピングパワーも素晴らしいものだった。


純正アクセサリーも豊富に用意される

純正アクセサリーが豊富なKTMだけあって、アクラポビッチ製のレース用マフラー、レーシングチェーン、ブレーキガード、専用レーシングスタンドなど、サーキット走行に必要なものはすべて揃っている。


1
2