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8耐が『コカ・コーラ』鈴鹿8耐となったのは1984年から、きっかけは日本コカ・コーラ一社員の感動だった!

RS750R ホンダ 8耐 1984

1984年、鈴鹿8耐についた初めての冠スポンサーがコカ・コーラだった

バイクファン、レースファンにとって例年「夏の一大イベント」だった鈴鹿8耐。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、11月に延期という方向も検討されものの、2020年に続き2021年も中止となってしまいました。

2021年時点で最後に開催された2019年鈴鹿8耐の決勝スタート。
2019年の”コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース第42回大会を記念したコカ・コーラスリムボトル。

今や当たり前のように感じられる「コカ・コーラ」がついたレースタイトル名ですが、8耐に冠スポンサーが付いたのは1984年の第7回大会からです。
その正式大会名は世界選手権シリーズ第2戦“コカ・コーラ”’84鈴鹿8時間耐久オートバイレース大会(現在はFIM世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース)。

耐久レースは1980年から世界選手権となっていて、8耐も主要車両メーカーの母国レースとしてシリーズ中でも重要な1戦です。
ただ、GPや耐久レースの参戦マシンには1970年代後半からスポンサーカラーも出てきていたものの、当時モータースポーツで冠スポンサーが付くレースはまだ少数でした。

そうしたなかで、コカ・コーラは1984年の8耐以前にジャパンスーパークロスの2大会の冠スポンサーとなっていました。元々コカ・コーラは個々のチームや個人にスポンサードすることはなく、スポーツイベントなど大会全体に協賛するのが会社に方針でした。
では、コカ・コーラはどうして8耐の冠スポンサーになったのでしょう。

1984年鈴鹿8耐公式プログラムの表紙(筆者私物)。1984年に8耐に初めてついた冠スポンサーがコカ・コーラであり、今に至るまで冠スポンサーを続けています。

日本コカ・コーラの中年営業マンが1981年の8耐で感動!

ストーリーは1枚のチケットと1人の40代サラリーマンの感動から始まったのです。
その中年サラリーマン・永井 豊さんは日本コカ・コーラでスポーツイベントのスポンサー関連の仕事をしていました。そして知人からチケットをもらって、1981年8耐に出かけたのです。スポーツイベントのリサーチも仕事の内ですから。

「バイクのレースなんて“暴走族の集まり”だろう、と思っていました。どうせロクなイベントじゃないし、その手のアンチャンが集まっているだけで……」後年、当時を振り返って申し訳なさそうに永井さんは語っていました。

けれどもスタートした瞬間から永井さんの先入観は崩壊していきます。53台一斉の咆哮は、優良外資系企業の中年サラリーマンの度肝を抜きました。
まだTT-F1が1000ccで、騒音規制も厳しくなかった時代。空冷インライン4の図太い音は強烈でした。

スタートしてから永井さんはコースのあちこちを回り、夕暮れに最終コーナーのアウト側にたどり着きました。鈴鹿サーキットは6kmコース。観客席を結ぶ通路を歩いて移動するだけでも相当の距離を歩いたはずです。
天気は晴れ。気温は30℃を軽く超え、炎天下。
もたれるように金網にへばり付いていると「なぜだか、突然泣けてきまして。男も40歳を過ぎると簡単に感動しなくなるものです。それが目の前を走り去るマシンを見ているだけで、涙が出てくる。これはどうしたものかと」。

まだ最終コーナーにシケインはなく、観客席の金網からコースまでの距離が近かった頃です(シケイン設置は1983年から)。
手前の左130Rコーナーを抜け、下りながらグランドスタンド前のメインストレートに抜ける右コーナーが最終コーナーです。
4速、もしくは5速の高速コーナーで、全開で抜けるには度胸と腕とマシンの仕上がりが試されました。大迫力……と同時に1コーナーに消えていくマシンとライダーの後ろ姿は、夕暮れの淡い青さも手伝って、はかなさも入り混じっていました。

先入観と現実のギャップがあまりに大きく「本当にあの時の感動たとえようもないものでした」。

真夏に若者が集まるイベント=コカ・コーラの販売にピッタリだった8耐

80台のマシンがエントリーした1984年の鈴鹿8耐。TT-F1のレギュレーションが変更となり、上限排気量が1000cc→750cc(4サイクル3〜4気筒)になった初めての8耐でした。

1983年決勝日の観客数は13万9000人。これだけ1日に集客するイベントは、世界中でスポーツでも音楽でもなかなかありません。しかも真夏の炎天下。反対するお偉いさんはもちろんいましたが、売れるというデータがあるのですから、ボトラーズ(特に直接収める中京ボトラーズ)は乗り気です。

これで決まりです。

なので冠では“コカ・コーラ”となっていますが、協賛はコカ・コーラボトラーズなのです。

「決まっても、同じ所をグルグル走って何がおもしろいんだ、というトンチンカンな感性しか持ち合わせいない方もいましたが、そんな人はどうでも良くて、共感してくれるお偉いさんを味方に付けました」(永井さん)

それに何と言っても売り上げです。
観客が350ml入りを1人3本飲んだ計算となったのです(1984年の8耐決勝日は14万3000人)。普通のイベントで観客数の10%ぐらいでも良い方だということなので、8耐は超別格の売り上げとなりました。
さらに当時は一般誌・TV、もちろんバイク雑誌もこぞって8耐を大々的に取り上げ、メディアバリューもとんでもない量でした。

場内にコカ・コーラの売店が設けられた1984年8耐開催時の鈴鹿サーキット。
観客席にはコカ・コーラのノボリや垂れ幕も。写真のバイクは無限・チームイクザワ・MOON CRAFTのコラボレーションによって生み出されたホワイトブル(ホンダ CBX750Fがベース)。
1984年鈴鹿8耐のメインスタンド。7月29日、決勝日の観客数は14万3000人となりました。
1984年鈴鹿8耐で優勝したのはV4エンジンのホンダ RS750R(アメリカ・ホンダ)。ライダーはマイク・ボールドウィン選手とフレッド・マーケル選手でした。

「感動も売り上げも8耐は別格です」
一方で永井さんは8耐協賛の条件として、ライダーへの賞金増額を掲げていました。感動を与えてくれるライダーへの待遇が低かったからです。レース賞金以外にプライベーターへの賞金も用意しました(コカ・コーラのステッカーを貼って走る)。

永井さんは1995年に仕事を引退しますが、引退するまでの間に自身で初めてのバイクを購入(スズキ GN400)し、8耐に出かけたこともありました。

永井さんの意志は後輩たちに引き継がれ、それからずっと、今に至るまで、8耐の冠スポンサーはコカ・コーラです。
1枚のチケットが1人を感動させ、大きな組織と資金を動かし、さらに永井さんのような感動を多くの人々に与えていったのです。
人は心で動く。それがたった1人でも。もしかしたら、本当に時代を動かすことになるかもしれない。だからバイクは感動の乗り物で、レースにはフィクション以上の感動があるのです。

レポート●石橋知也 写真●八重洲出版/モビリティランド 編集●上野茂岐

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