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電動バイクの航続問題は「簡単バッテリー交換」で解決! ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキが共通規格を検討開始

電動バイク普及にはメーカー・車種問わず使えるバッテリーがポイント!?

2年前(2019年)に「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を創設したホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキだが、2021年3月26日に交換用バッテリーを共通仕様とすることに合意した。

温室効果ガスの世界的な抑制を取り決めた「パリ協定」を踏まえるなどして、クリーンエネルギーで走る電動モビリティは近年加速度的に注目を集めている。
最近ではホンダが電動3輪バイク「ジャイロe:」を発表したりなど、二輪業界もその流れに取り組み始めている。

2021年3月18日にホンダは「ジャイロe:」(右)をビジネスユース向けに発表。また、キャビンが付いた「ジャイロキャノピーe:」(左)も発表予定である。

しかし、電動バイク生産にあたっての大きな問題は、動力の供源たるバッテリー開発である。バイクはクルマと違い車両サイズが小さく、バッテリー自体の大きさ・積載スペースには大きな制限が出てしまう。その結果として、航続距離を伸ばせないといったハードルにつながっていた。

それを解決する手段として着目されているのが、多数の場所でバッテリーを交換できるインフラの導入だ。大型バッテリーが載せられない、バッテリー性能の大幅アップができないなら、交換を簡単にして「実質的な航続距離」を伸ばそうという考え方だ。

出先でバッテリーが切れそうになったら、近くにあるバッテリーの充電&集積所「バッテリーステーション」に立ち寄り、満充電のバッテリーと交換することで走行の持続を可能とする──このシステムが実現すれば、自宅からの航続距離は大幅に伸びるだけでなく、充電時間のストレスからも解放されることになる。

プロジェクト進行にあたり、バッテリーやバッテリーステーションのサイズ・通信規格などの一本化は、交換式バッテリーをブランドに依らず多数のバイクで使えるようにするための、必要不可欠な手順。
今回はその共通規格化に各社合意したことで、実現に向けて一歩前進する形となった。各社は今後共通化に適したバッテリー開発を進め、各々で切磋琢磨しながら交換式バッテリー車を完成させるという。

交換式バッテリーの開発は近年意欲的に取り組まれてきた。2020年は大阪で大学やコンビニにバッテリーステーションを設置し利便性を実証する「e(ええ)やんOSAKA」プロジェクトも実施されている。
実装実験中の「e(ええ)やんOSAKA」で使用されている車両は、ホンダのベンリィe:。エリア内のコンビニなどに充電ステーションが設置され、モニター使用者は自由に利用できる。
「e(ええ)やんOSAKA」で設置されたバッテリー交換機。この時のデータも今後大いに活用されるはず。

ホンダは2021年3月頭に新型バッテリーとバッテリーステーション機器を発表

2021年3月3日〜5日に東京ビッグサイトで開催された「スマートグリッドエキスポ」(次世代電力システムやIT技術、インフラ設備などの見本市)で、ホンダはモバイルパワーパックの第2世代となる「Mobile Power Pack e:」の試作品を発表。
最大の特徴はシェアリングコンセプトを取り入れている点で、二輪車への使用はもちろん、さまざまな用途に対応したマルチユースバッテリーとなっている。

「スマートグリッドエキスポ」で発表されたホンダの「Mobile Power Pack e:」の試作品。
同じく「スマートグリッドエキスポ」で発表されたホンダのプロトタイプ充電ステーション。見た目は台湾で先行している「Gogoro」製に近い印象だ。
ホンダの充電ステーションシステムは、ユーザーそれぞれがIDカードを持ち、認証されれば充電済みバッテリーと交換できる仕組みとなっている。
ホンダの充電ステーションでは、バッテリーの取り出しや交換はユーザー自身が行う。10kg程度のバッテリーを交換する際に、バッテリー自体の重量をどこまで軽くできるかも今後の課題か。

ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ各社代表のコメント

左から、ホンダの三原大樹さん、カワサキの古橋賢一さん、スズキの田中 勉さん、ヤマハの有西達也さん。

■本田技研工業・二輪事業本部事業企画部部長 三原大樹さん
「先日、弊社で発表した新型モバイルパワーパックをそのまま採用するのかと問われれば、はっきりとYESとは言えません。ただ候補として考え、そのノウハウを提供する可能性は十分にあるでしょう。そういう点では、我々は実現に向けて着実に進んでいると言えます。目先の大きな課題は、多大なコストが必要となるバッテリーステーションの配備を、我々4社がやるのか、それとも各地の電力会社がやるのか……といった、他企業との連携にあると思います」

■ヤマハ発動機株式会社・MC事業部戦略統括部長 有西達也さん
「すでに交換式バッテリーを普及させている台湾のGogoroと協業しているぶん、経験は一歩先んじている感はあります。ですがその技術をそのままコンソーシアムに提供することはいたしません。今回はあくまで日本用として、ゼロベースで始めていきます。昨年(2020年)のeやんは自工会の皆さんと協力して実施したように、本プロジェクトはバイク4メーカーのみに留まらない、様々な企業と連携をとるものとなっています。ヤマハとして、コンソーシアムとして、自工会として、地球温暖化を抑制する技術を開発したいと思います」

■スズキ株式会社・二輪事業本部商品企画グループ長 田中 強さん
「過去に電動スクーターのe-Let’sを発売しましたが、価格や航続距離の問題であまりユーザーの期待に応えられない結果に終わってしまいました。ですが共通バッテリーを実現させてそういった問題をクリアにすれば、e-Let’sのノウハウを次のモデルに繋げることも出来るでしょう。実施にあたっては車両本体の性能も大事ですが、ステーションの適切な配置場所も課題になります。ユーザーは、大体どのぐらいの距離走ったら交換したいのか。そういったところに『eやん』で得られたデータを上手く反映させていきたいです」

■川崎重工業・企画本部渉外部部長 古橋賢一さん
「2019年のEICMAでEVプロジェクトを発表しましたが、そちらはスポーツバイクを主観においたもの。今回のコンソーシアムでは、コミューターとしての技術をイチから作り出していく次第です。ご存知の通り現在カワサキではコミューターをリリースしておりませんが、何もないという立場だからこそ得られる柔軟な発想で、ユーザーを楽しませられるカワサキらしいコミューターを、この機会に開発できればと思います」

台湾では「バッテリーステーション」の実用化が始まっているが……

2020年末、小池百合子都知事より「2035年には純ガソリン車の販売を禁止する」という発言もあったが、将来、電動バイクが広く普及することは必然となりつつある。
そんな未来で各社がバラバラなバッテリーをリリースしていては、ユーザーが不便になることは必至。交換式バッテリー及び搭載車の登場は、是非とも実現に漕ぎつけてほしいところである。

そのために必要となるのが、ガソリン車にとってのガソリンスタンドに相当する存在──「バッテリーステーション」の開発だ。
それを、どこが生産・管理・保守するのか。またバッテリーステーションが完成したとして、それをどこに置くのか。設置場所確保にあたっては、政府や各種自治体との協力が必要不可欠となるだろう。

すでに台湾では電動バイクメーカー「Gogoro」が交換式バッテリーのインフラを整備しているが、これは台湾政府からの多大なバックアップがあってこそだと推察される。 各企業の努力ももちろんだが、日本政府からも手厚い支援があることを期待したい。

スクーター大国である台湾。その市街地の様子。
台湾の電動バイクメーカー「Gogoro」が開発し、実用に供されているバッテリー充電ステーションの機器。
台湾の街中に設置された「Gogoro」のバッテリーステーション。「6秒SWAP&GO」というキャッチコピーにあるよう、その場で誰でも簡単に交換できることをウリにしている。

このインフラが実現されれば、風力発電といった再生可能エネルギーをステーションに供給、充電した交換式バッテリーを、バイクだけでなく野外イベントなどで使える外部電源、災害時の非常用電源として使ったりする…などなど、幅広い可能性が生まれることになる。

また現在は海外を視野に入れずバッテリーを開発しているとのことだが、2021年3月1日にホンダ、ヤマハ、KTM、ピアッジオによる交換式バッテリーコンソーシアム創立が発表されたように(欧州地域をメインとしたもの)、いずれ海外ブランドとも足並みを揃えていく機会はあるとのこと。
となると、日本のバッテリー規格がベースとされる可能性も十分にあり得るということである。

電力利用の幅を広げるバッテリーシステムを、世界に先がけて開発することができれば、日本の二輪車業界は世界を強くリードできるだろう。
日本のライダーとして、今後の展開を見守りたいところである。

まとめ●木村峻佑 写真●八重洲出版 編集●モーサイ編集部・上野

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